第37話 ヤヨイ対チカコ 2戦目

 歯磨きを終えたヤヨイ組。

 白い建物のすぐ南の、緑色の広場へ向かう。

 あたりに漂う、いつもとは違う雰囲気。

「分離せずに戦え」

 発せられたのは、有無うむを言わさぬ言葉。薄紫うすむらさきの服の女性が、ヤヨイを見つめる。

「はい! よろしくお願いします!」

 赤い服の少女が、いつもどおり元気よく言った。

 戦闘空間が形成されていく。

 広場の円のそと。北側に座る三人。

「雰囲気、変わってないわね。チカコ」

「むしろ悪化してないか?」

 スズネとタクミは好き勝手なことを言っていた。カケルは黙っている。

 戦闘空間が広がるのを止め、ヤヨイは分離しなかった。向かい側に立つのは、薄紫の服のチカコ。

 相手が分離しない、という経験はなかった。

 これまで相手に散々驚かれてきたヤヨイ。逆に驚いた。まわりの見物人たちも、どよめいている。

「何をしている。始めるぞ」

「はい!」

 分離しないまま構えたチカコ。赤い服のヤヨイは、気合いを入れた。

 精神体に分離していない状態では、飛行や高速移動などの、肉体に影響をおよぼす能力が使えない。

 普段の身体能力が重要。

「アイムさんの言っていたのは、チカコさんのことなのかな」

 カケルがつぶやく。

 何も言わず、お互いの顔を見るスズネとタクミ。

 つり目の女性は、やいばを伸ばさない。素手のまま構えて近付く。ヤヨイも素手で構える。

 一見すると、格闘技の試合のような戦いが始まった。


 ヤヨイとチカコは、生身で戦っているように見える。

 ガード時に現れる半球体の光の壁が、能力バトルであることを思い出させてくれる。

「剣を出せ!」

 チカコがえた。劣勢になっても能力を使わないヤヨイに、業を煮やしたようだ。

「はい!」

 ヤヨイは、右手に光の剣を出した。

 構えはほとんど変わらない。あくまで、素手での攻撃を重視する。

 剣の攻撃によって、ダメージを受けるチカコ。空中に浮かぶ縦に長いゲージ。その片方が減る。

 精神力は、お互いに残り4分の3。

 チカコが右手を振る。鋭い刃を出した。素手の構えから、剣の構えへと変える。

 ヤヨイも構えを変える。剣での戦いが始まった。


 ヤヨイは相手に押されていた。

「それでいい」

 チカコが言った。少女の左手にも出現した、光。両手それぞれで剣が輝く。

 ヤヨイのほうが優勢になる。

 ダメージが与えられ、どちらも精神力は半分。チカコも、左手に鋭い刃を持った。

 再び、相手に押され始めたヤヨイ。身体から刃を伸ばす。

「よろしくお願いします!」

 叫んだヤヨイが、笑った。

 刃を受けるチカコ。それぞれ、精神力は残り4分の1。

「いくぞ!」

 チカコは、にやりと笑った。

 二人とも、手に剣を持っていない。

 身体から刃が伸びている。

 ヤイバによる戦いには見えない。ムチ同士がぶつかっているような激しさ。

 直線的に伸びる刃は、お互いすぐに反応してガード。次の行動に移る。

「……」

 集まっている見物人のほとんどは、何も言わなかった。戦いに見入っている。

 カケルとスズネとタクミも、黙って見つめる。真剣な眼差し。

「どうした? ほかの能力を使えば勝てるぞ」

 チカコのほうが、若干優勢。身体のあちこちから刃を出すのに慣れている、経験の差。

 動きには余裕が見えた。

 追い詰められているはずのヤヨイは、楽しそうな顔を見せる。

「わたしは、相手と同じ能力でも勝てるようになりたい」

「甘いな」

 つり目の女性の攻撃は容赦ない。しかし、すこし柔らかい表情。

 ヤヨイの刃は届かず、敗れた。


「ありがとうございました!」

 ヤヨイは元気よくお辞儀した。

「もっと腕を磨いておけ」

 去ろうとするチカコ。だが、ヤヨイとともに見物人たちに取り囲まれ、お金を渡される。

 すこし恥ずかしそうな顔を見せる女性。歩いていった。

「俺、弾撃つ。弾」

「私も」

 タクミとスズネが、言葉少なに模擬戦を始めた。

 広場へと声援をおくる見物人たちは、さきほどより和やかな雰囲気。

 カケルが、凛々しい顔をとなりに向ける。

「強いね」

「わたし、もっと強くなりたい」

 ヤヨイが拳を握る。晴れ渡る青空のような表情をしていた。少年を見つめる、キラキラと輝く瞳の少女。

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