第36話 伝説の人物

 コツゴモリ。

 名前以外の情報を出さない条件でランク付けをした、圧倒的な強さの人物。

 その名も、本名かどうかさだかではない。

 能力者協会の関係者でも、その姿を知っている者はごく一部だという。伝説の人物である。

「本当にいるなら、結構な歳だと思われる」

「話が大きくなっているだけ、かもしれませんよ」

 レオンの話に加わったカケル。否定的な意見を述べた。学生寮のような建物の前が静かになる。

「そういうのは、よく分からないわ。次、タクミ」

「了解」

 スズネがタクミを模擬戦に誘った。すぐに戦いを始める二人。

 まるい広場に注目する観客。

 エミリが、ヤヨイを見つめている。

 話を聞いたロングヘアの少女は、目を輝かせ、恋する乙女のような表情をしていた。


 スズネとタクミの模擬戦が終わる。

 高くなった日差し。軽減するのは、広場の上にある傘。

 細身のレオンとスタイルのいいエミリは、手を振って去っていった。

「次は、わたしが!」

「いいわよ」

 なぜか、やる気満々なヤヨイ。模擬戦に誘い、スズネが了承した。

「……」

 その人物は、自分から声をかけなかった。揺れる服。

 すぐ北の、白い建物の陰。

 カケルは気付いている。どうしようか迷っていた。タクミも気付く。

「ん? 何だよ。こっち来て座れよ」

「……」

 何も言わない。十代半ばの人物は、カケルの横に座った。

「ヤヨイに用かな? いま始まったばかりだから、ちょっと待ってて」

「うん」

 返事をしたシララが、ボサボサ頭から目をのぞかせる。観戦しに来たようだ。

 となりに質問しながら熱中している。

 二人の戦いを見届けた。

「苦しそうじゃないね。よかった」

「私に会いに来てくれたの?」

 開口一番に、身体の心配をするヤヨイ。見つけて、すぐに抱き締めるスズネ。

 シララは困惑していた。

 三人を残して、カケルとタクミが模擬戦を始める。

「……」

 シララは、すこし恥ずかしそうな様子。複雑に混じり合った色の服が、風になびく。

 緑色の広場で模擬戦中の二人。

 横目で北の様子を見る、短髪の少年。たれ目ぎみの少年は、そのすきをつかなかった。

「強いね。みんな」

「わたし、能力バトルのことしか分からないから、色々教えて欲しい」

 はずんだ声を上げたシララ。ヤヨイは、別の話題で返した。

「そうね。四人とも似たようなものだし」

 つり目ぎみの少女は笑っている。口元をすこし緩ませたシララは、小さく頷いた。


 いつもの基礎訓練。

 模擬戦を見ながら雑談する中に、シララが加わっている。楽しそうな雰囲気。

 お昼前に帰っていく姿を、四人で見送った。

「よろしくお願いします」

 カケルに頭を下げられたヤヨイ。部屋で、料理の手ほどき開始。十代半ばの少年は苦戦する。

 十代半ばの少女は、優しい表情をしている。

 一緒にご飯を食べて、一緒に片づけた。利き腕とは反対の手を、おもに使った。

 食べたあとは、広場へ。いつもの模擬戦。

「通常弾でお願いします」

 苦手分野の練習を望んだヤヨイに、最初に手を挙げたのはカケル。

 いつもどおりの、歯磨き前の戦いが繰り広げられた。

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