第34話 切磋琢磨

 翌日。

 ふだんどおり、まだ薄暗い中、目を覚ますヤヨイ。

 寝間着のまま部屋を出る。左隣の部屋から出てきたカケルと目が合った。

「おはよう」

「おはよう」

 白い建物の近くには、二人の姿しかない。少女が微笑む。

「まだ涼しいから、買った服は着なかったよ」

「僕も」

 カケルも寝間着。

 少年少女が、まるい広場の北側で柔軟体操をする。そのあと、筋肉トレーニング。

 続いておこなうのは、拳法けんぽうかた

 じょじょに明るくなり、広場の緑色が鮮明になっていく。広い歩道の街路樹も同様に。聞こえてくる鳥の鳴き声。

 二人で遠く離れた師匠にお礼を言うと、二人でヤヨイの部屋に入った。


 少しずつ上達はしていた。

 カケルの料理修行は先が長そうだ。

 食事と片付けを済ませ、カケルは自分の部屋へ戻る。

 ヤヨイは、普段着に着替えて部屋を出た。合流したカケルと一緒に、高い場所に傘のある広場へと向かう。

 すぐにスズネとタクミもやってくる。

 ベンチで数名の見物人が見守るなか、いつもの模擬戦が始まるかと思われた。違った。

「通常弾で、戦おう」

「いいわよ」

 ヤヨイは、スズネに遠距離戦を挑んだ。

「朝から元気だな」

「本当に」

 見守る、タクミとカケル。

 精神力を使わない模擬戦ではなく、能力バトルが始まる。広がる戦闘空間。


 ヤヨイはスズネに敗れた。熱心なファンがお金を渡し、ベンチへ戻っていく。

「遠距離で負けたら、私、役立たずになっちゃうわ」

「ありがとうございました!」

 スズネは、話の内容とは程遠い明るさ。ヤヨイが、相手に感謝の気持ちを伝えた。

「通常弾での模擬戦、お願いします」

「お。いいね。まだ負けないぞ?」

 気合い十分なカケルに、タクミが答えた。

 二人の模擬戦が始まる。

 その様子を、ロングヘアの少女とミドルヘアの少女が、ならんで見つめる。

 ときおり熱をびる雑談。東から差し込む日の光。

 決着した。

 敗れた短髪の少年が、相手にお礼を言う。十代半ばの少女へと歩いていった。そして、手を握る。

「ちょっと、力をあげるよ」

「え? ありがとう」

 眉を下げながら口元を緩めるヤヨイが、カケルから少しだけ力を貰った。


 苦手分野を練習するヤヨイ組。

 得意とする人と、模擬戦がおこなわれる。

 相手に感謝の気持ちを伝えたあとで、自分の部屋へ戻る四人。歯を磨く。

 ふたたび広場に集まる。

 続いて、苦手にしている分野のおなじ人で模擬戦。分離する精神体。

「少しは強くなったか?」

「私に聞かれてもね」

 十代後半の少年が聞いて、同じくらいの歳の少女が答えなかった。

 明らかに以前とは動きが違う。

 しかし、本人たちには分かっていないらしい。近接戦闘が苦手だと自称している。

 目まぐるしく動き回る光の棒。タクミとスズネが火花を散らす。

 四隅のベンチは人で埋まっている。広場のまわりには、たくさんの見物人が集まっていた。

 その中で、見知った女性と青年が手を上げる。

「おはよう」

「やあ。有名人」

 薄い桃色ももいろの服のエミリと、淡い黄色きいろの服のレオンが、挨拶した。

「おはようございます」

「おはようございます」

 ヤヨイとカケルが、ほぼ同時に挨拶した。立ち上がり、白い建物の前に四人がならぶ。

「苦手分野を練習していると聞いた。接近戦がおろそかになってないだろうな?」

 細身の青年は、ヤヨイに向かっている。

「誰から聞いたんですか?」

「知りたければ、おれを倒して聞き出すのだな」

 相手を見つめるレオン。告げたあとで、笑いをこらえていた。

 エミリは、レオンが話し始めたときには、すでに吹き出していた。カケルも、つられて笑う。

 ヤヨイは真剣な表情だ。

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