第25話 タクミ・スズネ対カイリ・コスミ

 緑色の広場に、人だかりができている。傾いた日をあびる街路樹から、小鳥が飛び立つ。

 タクミとスズネの誘いを、カイリとコスミが受けた。

 あたりは静かになる。模擬戦の開始が近い。

 有効打を3回当てられると戦闘不能、という一般的なルールが採用される。

 四人の中心から広がっていく、円形のドーム。橙色だいだいいろの服の少女と紺色こんいろの服の少年は、余裕の表情。

 肉体が光の壁につつまれた。精神体が分離する。精神力が形になったものは、基本的にあわい輝きをはなつ。

 スズネは黄色い服に、タクミは青い服になった。

 薄い灰色の服になるカイリ。濃い灰色の服になるコスミ。

 広場を大きくはみ出した戦闘空間。そばのベンチや道の向かいの建物はおろか、その先の公園まで包み込んでいる。

 2対2の戦いが始まった。

 さっそく、人間ほどの大きさをした多数のダミーが設置される。姿を消すコスミ。

 スズネは手の甲を光らせ、迷うことなく高速弾で狙った。

 しかし、雪達磨ゆきだるまの形をしたダミーには効果が薄い。

「あら。まずいわね」

「また相性悪い相手かよ」

 タクミは、棒を出現させつつかがみも配置した。カイリの周りに、静止した小さな鏡が浮かぶ。

「相性、悪そうですわ」

「どうしようかなあ」

 雪だるまが喋った。正確には、どれかのダミーの中から、コスミが話した。

 スズネがたまを飛ばすと、ダミーがカイリの周りに出現。鏡で反射された弾は、ダミーに当たって消える。

 撃った直後、スズネは渋い顔をして棒を構えていた。

「役立たずの俺が前に出る。援護してくれ」

「どっちか落とさないと、崩せないわ」

 タクミは両手に棒を持ち、間合いを詰めていく。スズネはいつでも撃てるように構えつつ、右手に棒を持つ。

 突然、ダミーがスズネの周りに現れた。

 手の先を光らせて能力をかたよらせ、全身をガードできる状態にする。何も起きない。

「気を付けて!」

了解りょうかい

 わざと隙を見せた、長身のタクミ。そこに現れるダミー。

 タクミが左手の棒を一閃。ダミーを穿うがつ。すぐに現れた逆側のダミーを、今度は右手の棒で砕いた。

 次々と現れ、破壊されるダミー。

 一瞬、スズネのほうに向かうカイリが見える。

「そっち!」

「ありがと」

 ミドルヘアのスズネは、ダミーを破壊しなかった。

 ダミーが消える。その瞬間に短剣で襲い掛かってきたカイリへ、棒で反撃した。

 身体の一部をうばう能力を使わず、一撃与えることを選択したカイリ。逃げた。


 カイリに攻撃が当たった。

 確認したタクミは、駆け出した。

 ダミーが次々と現れて思うように進めない。スズネの援護のため、鏡を設置。

 スズネはダミーを破壊しつつ、逃げるカイリを狙わなかった。

 鏡を狙う。

 反射しても当たらない。そこに別の鏡が出現。反射して、カイリに当たる。

 もう一発撃った。

 すぐに、ダミーの破壊に専念している。

「信じてくれるのはありがたいが、こっちもきついんだぜ」

 タクミは、ダミーを棒で破壊しつつ弾道計算も行い、鏡を設置していた。

 ダミーから伸びる針を受ける。

 そのとき鏡を設置して、反射させることに成功。連携で、カイリを撃破した。

「まいった。降参」

 コスミがあっさりと負けを認めた。雪だるまが消えて、人形のような姿を現す。

「ちょっと。これからが面白いところだったのに」

 精神体が肉体に戻り、戦闘空間が消えていく中、スズネは不満そうな表情を見せる。

「やっぱり、敵にしたくないぜ」

 タクミは爽やかに笑った。


 見物人から歓声が上がっていた。

 模擬戦を終えたタクミとスズネ、カイリとコスミは取り囲まれている。

「そろそろ、ご飯作らないとね」

「そのことなんだけどさ……」

 ヤヨイの言葉の後で、カケルは恥ずかしそうにしながら、話すのをためらっていた。

「やっぱり、作って欲しくなった?」

「そうじゃなくて、料理苦手なんだよね、僕。教えて欲しいなって」

 十代半ばの少年が、苦手なことを打ち明けた。

「いいよ。何事も経験だからね。ゆっくりいこう」

 十代半ばの少女はいいことを言った。受け売りだった。

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