第24話 ヤヨイ組の白い建物

 結局、チーム名はまとまらなかった。

 ヤヨイ組は、生活する場所を探すことにする。

 全員B以上なので、豪邸での贅沢ぜいたくな暮らしができる。中心街から離れた場所なら。

 しかし、誰も望まなかった。

 すぐ近くに能力バトル用の広場ひろばがある、学生寮のような白い建物で暮らすことになる。

 街の中心からすこし東。あたりには、街路樹よりも高い建物が目立つ。

 四人が平屋のまえに立つ。部屋は西から、スズネ・ヤヨイ・カケル・タクミという並び。

「え。俺、嫌われてたのか」

 タクミは衝撃を受けたような表情を見せた。演技である。

「私、ヤヨイのことのほうが好きだもんね」

 スズネは明るく言った。やはり演技だ。

 よく分かっていない様子のヤヨイ。

「それはそうと、皆これから、料理は自分で作るように」

 近くに食料品店のある場所を選んでいたカケル。

「わたし、作ってもいいよ?」

 ヤヨイの提案を、カケルは断る。動揺を悟られまいと隠す。

「たまに、誰かの部屋で食べればいい」


 日用品や食料などの買い出しを、仲良くおこなう。

 戻ってきた四人。

 さっそく、住まいの近くにある円形の広場を使うことにする。

 白い建物のすぐ南側に広がる、緑色の空間。

 借りているといっても、専用の広場。高い場所に傘があり、雨や日差しを防げるようになっている。日はかたむき始めていた。

 たれ目ぎみの、十代後半の少年が提案する。

「まずは、肩慣らしといこうぜ」

「そうね。準備運動しましょう」

 つり目ぎみの、十代後半の少女が同意した。

 戦闘空間が広がっていく。広場の範囲を、半径、約50メートルをゆうに超えた。

 二人の身体からだから精神体せいしんたいが分離する。肉体という制約がなくなり、さまざまなわざを使用可能。

 模擬戦が始まった。

 3回の有効打ゆうこうだを当てると勝負が決まる。

 あわく光る棒を右手で持ち、すこしずつ相手に近付いていく二人。

 青色の服のタクミが先に仕掛ける。黄色の服のスズネは、棒をぶつけることで防いだ。

 スズネは、すぐに攻撃を繰り出した。棒を使い受け流すことで、紙一重でよけるタクミ。そのまま反撃に出る。

 ガードを余儀よぎなくされるスズネ。

「やるじゃない」

れ直しただろ?」

 本気で褒めていないスズネに、タクミも軽口で返す。

 広場の円のそと。北側で、カケルとヤヨイが並んで見ている。

「凄い上達だよね」

「うん。わたしも頑張らないと」

 十代半ばの少年が言って、同じくらいの歳の少女が同意した。

 肩慣らしの段階で、周りにはどんどん見物人が集まってきていた。四隅にあるベンチは、すでに満員。


「わたしたちも、やろっか」

「そうだね」

 ヤヨイとカケルが同意し、戦闘空間が形成される。

 先の模擬戦はすでに終わっている。タクミの勝ちで、僅差きんさ。くやしそうなスズネの表情は明るい。

「すごかったです」

「引っ越してきたのですか?」

「こんな戦いが、ずっと見られるの?」

 模擬戦を終えた二人は、見物人に取り囲まれていた。

「そう。引っ越してきたのよ」

「まだ基礎練習きそれんしゅうだぜ」

 タクミは片頬に笑みを浮かべた。

 白い服のヤヨイは、あっというまに間合いを詰めて下段蹴げだんげりを放つ。揺れないスカート。

 すこし背の高い相手が、無理せずガードする。

 緑の服のカケルは、右に動くフェイントを入れて、左足で下段蹴りを放つ。ヤヨイにガードされた。

 見物人の興味は、すぐに模擬戦のほうに移った。


 ヤヨイは2回攻撃を当てた段階で、分離が解除された。肉体に戻りあかい服になる。

「ここからが正念場だ」

 カケルは気合いを入れた。

 状況が把握できていない見物人たち。

 分離しなくても戦えるということを説明する、スズネとタクミ。

「そうだ。師匠に報告するの、忘れてた」

 ヤヨイの言葉を聞いて、攻撃をやめた短髪の少年。

 ロングヘアの少女は、攻撃をつづけていいとジェスチャーで伝え、戦いながら師匠と通信つうしんこころみた。スカートが揺れる。

 防御重視で、攻撃もしている。

 傍目はためには普通に戦っているように見えた。

「師匠。わたしです。ヤヨイです」

『おお。元気だったか? わしは寂しいぞ』

 普段どおりの口調で話す師匠。弟子との戦闘中だということを感じさせない。

 マンザエモンから真似まねた通信能力を使い、会話するヤヨイ。

 戦闘空間にいる相手の周り、すこしの範囲で聞こえている。

「四人のチームで、聖地まで無事着きました」

『ほう。それで、ランクいくつじゃ?』

「調子が悪かったので、Aでした」

『腕を上げたのう。こやつらは、まだRといったところじゃ』

 攻撃を続けていいと言われたカケルは、手加減していた。それに気付いているヤヨイ。

「では、また連絡します」

『うむ。達者で、な』

 通信が終わったあとで、ヤヨイのロングヘアがサラサラと流れる。魅力的な笑顔を見せた。


 勝ったのはヤヨイだった。

 お互いに、あと1回の攻撃で勝敗が決まる、というところまで、もつれ込んでいた。

 次は俺たちの番だな、とは言わなかったタクミ。

 かわりに別の人物が話す。

「調子が悪くてAとは、嫌味ですか?」

「負けたの、仕方ないよね。あのとき」

 半目気味のカイリと、猫目のコスミだ。

「次は俺たちの番だな」

「そうね。二対二でどう?」

 タクミが珍しくやる気を見せる。スズネもその気になっていた。

 ヤヨイは首をかしげる。

「なんで、ここが分かったの?」

「広い戦闘空間を見つけて、もしや、と思いましたのよ」

「そしたら、声が聞こえた」

 カイリとコスミが答えた。灰色はいいろの服の二人もやる気満々である。

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