第18話 合縁奇縁

 次の日。木製の窓から光は差し込んでいない。

 ヤヨイは普段どおり早朝に起きた。

 静かに着替えて、部屋の中で柔軟体操を始める。

 筋肉トレーニングを始めて、物音がした。声をかけられるヤヨイ。

「いってきなさいよ。するんでしょ? カケルと」

「起こしたら悪いと思って」

「いいのよ、起こしても。さっさといってらっしゃい」

 スズネに半ば強引に部屋から出され、ヤヨイはカケルとタクミの部屋の前に立った。

 ドアは叩かれなかった。

 ロングヘアの少女が、茶色い宿の外に出ていく。

 隣にある、広場のように大きな空き地に移動して、身体を動かし始めた。

 あたりは薄暗い。

 徐々に、はっきり周りが見えるようになっていった。空地はところどころに草が生え、土がむき出し。

 ヤヨイが拳法の型をおこなっている。

「こんなところで拳法家けんぽうかに会えるなんて、ついてるぜ」

 パーカー姿の男性に声をかけられた。

 道を走っていた十代後半の男性は立ち止まり、フードを脱いで見続ける。

「身体を鍛えているんですか?」

 ヤヨイが男性に聞いた。

「そんな言葉遣いしなくていいぜ。同じ拳法家同士、仲良くしようぜ」

 眉毛の太い男性は、豪快に笑った。


「見たことないけど、なんて流派りゅうはなんだ?」

「え? 流派って何?」

「師匠ぐらい、いるだろ?」

「ああ。マンザエモンさんっていう、優しい人がいて」

 ヤヨイが話したあとで、笑い声を上げる男性。

「面白くなってきたぜ」

 二人の前に、カケルが現れた。油断のない顔つきで男性を見つめている。

 ヤヨイが口元を緩めて、カケルのそばに走り寄る。

「チームなんだよ、わたしたち。四人いるんだ」

「どうも」

「ますます面白いな。この宿に泊まってるのか?」

 嬉しそうな男性。聞かれる前に、自分たちは別の宿に泊まっていると告げる。

 朝食のあとでここに集まろう、と一方的に約束して、走り去っていった。


 ヤヨイは、2度目の運動をカケルと一緒にした。

 少女は楽しそうで、少年は落ち着いていた。

「ライバル登場だな」

 宿の食堂で朝食の合間に、タクミがしみじみと言った。

「強そうだった?」

 相手の強さを感じられないヤヨイが、カケルに聞く。

「僕に頼られても困るよ。そろそろ、自分で分かるようになりたいね」

「いいと思うけどな、私は」

 スズネは、つり目ぎみの目じりを下げていた。

 食後。ヤヨイとスズネの部屋に集まった四人は、いつもの模擬戦をおこなう。

 ヤヨイの分離時間は少しだけ延びていた。皆で微笑み、歯磨きをした。

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