第16話 ヤヨイ・カケル対カイリ・コスミ

 四人は、大きな町の出口ちかくまで移動した。

 庶民派の食堂で昼食を楽しむ。

 みんな、利き腕ではないほうの手でフォークを使っている。

「普段より、時間がかかるね」

「難しいわ」

 カケルとスズネは苦戦していた。

「慣れないとね」

「そうそう、何事も慣れだな」

 ヤヨイとタクミは、普段と変わらない速度で食事を終えた。別々にお金を払って、洋風の建物をあとにする四人。一緒に歩き出す。

 出口ちかくといっても、まだ先は長い。

 30分間、南へ歩いた四人。公園で歯を磨く。そのあとさらに歩いて、ようやく町から出た。

 街の外には、見渡す限り広がる平原。まっすぐな道が中央をつらぬいている。自然の木々が、ちらほらと別の色をはなつ。

 はるか遠くに見える、次の町。

 話している四人に、うしろから誰かが近付いてくる。

「さきほどは、ひどい戦いでしたね」

 半目ぎみの女性が、開口一番に嫌味を言った。

「戦いって言えないわ、あれ」

 猫目の少女は、さらに辛辣しんらつだ。

「はい。そのとおりです」

 ヤヨイがあっさりと認めた。赤い服はなびかない。否定する素振りも見せなかった。


「先ほどって言うけど、もう三十分以上前でしょ。尾行びこうしてたよね?」

「……」

「気に入らないな。やろう、ヤヨイ」

 珍しく、カケルが熱くなっていた。深緑色の服をいじり、相手を見据える。

「二対二で、わたくしたちに勝つつもり?」

「あたし、まだ何も言ってない」

 二十代半ばの女性と十代半ばの少女が、別々の意見を述べた。その実力を感じ取れないのは一人だけ。

「強いんだよね? 能力バトル、お願いします!」

 カケルに聞いたあとで、灰色はいいろの服の二人に勝負を申し込むヤヨイ。

「おう。二人がやられたらかたきはとってやるぜ」

「日陰に移動しましょうよ」

 タクミとスズネはのんきだ。普段どおりの雰囲気。


「さきに名前を教えておくわ。カイリと言いますの。わたくし」

 半目ぎみの女性が、不敵な笑みを浮かべた。

「あたし、コスミ」

 猫目の少女は無表情。

「わたしは、ヤヨイです」

「カケル」

 道をはずれた四人は、草原の中に立つ。名前を告げたあとで、ルールが決められる。連続ヒットなしの一般的なものになった。

 全員が同意して、戦闘空間が広がっていく。

 そのあいだに、スズネとタクミは近くの木陰に移動ずみ。

 薄い灰色の服になった女性と、濃い灰色の服になった少女。そして、緑色の服になった少年が現れた。

 ヤヨイは、いつもどおり分離しない。

「まさか、お一人で挑むつもりですか?」

「それなら、最初から三人にするはず」

 カイリのねっとりとした言葉を、コスミが否定した。

「わたしは分離できないので、このまま戦います!」

 赤い服の少女がいつものように言って、二人の対戦相手から驚かれた。

「さっさと倒そう」

「ちょっと待って。どんな能力か見たい」

 カケルの提案をヤヨイが断った。

 苦笑いする短髪の少年。

 草を踏みつぶすことはできない。能力バトル中に、物理的な干渉かんしょうは不可。一人で近付いていくヤヨイ。当然のように、狙われる結果となる。

 コスミが、人間ほどの大きさをした光を複数発生させる。はげしい輝きではない。

 雪達磨ゆきだるまの形。

 そして、姿を消した。

「どれかに隠れた? ダミーか」

 カケルが分析していると、ヤヨイがカイリの攻撃を受けていた。

 黒くなった左手でつかまれている。

 精神力のゲージに変化はない。手が離され、ヤヨイが距離を取る。変わった様子はない。

 にやにやしているカイリ。左腕の横に、左手のひじから先の部分が現れた。

「あれ? 左手で剣が出せない」

「普通は傷付けられないはずの精神体を、一部だけうばえるんだ!」

 カケルが大声で伝える。

「なるほど。雪だるまを触った後で倒そう」

 ヤヨイの右腕が黒くなった。


 すれ違いざまにカイリをつかみ、精神体の右腕を奪ったヤヨイ。

 用済みの右腕を地面に置く。

 腕の色をもとに戻したあと、ダミーに狙いを定める。

 いくつかのダミーが消え、すこし遠いものが残った。移動して触れる。

 ヤヨイは笑っていた。

「いいのかしら? そんなことをして」

 半目ぎみの女性は、一目散に駆け出していた。一つを残してダミーがすべて消え、カケルの周りに出現。

 右腕の色を変えた時点で、狙いを悟られていた。

 カケルから遠い場所に誘導されたヤヨイ。

 いまから、カケルを助けることは無理。

 事実を受け入れることができず、スカートを揺らして少女は走り続ける。緑の景色の中、たくさんの白いものが獲物を狙っている。

「間に合わない!」

 少女が現実を認めて、叫んだ。

 ダミーから発動した攻撃がカケルを捉える。カイリも攻撃を加えた。

 カケルが左腕を失うのを、ヤヨイは見た。


「能力を真似ることに、こだわらないほうがいいと思うけど」

「うん」

「確かに、頑固だからね」

「うん」

「僕は、能力なしでも強くなりたい」

「わたしが調子に乗ったから」

 ヤヨイは、頭の中に響いてきた言葉に答えていた。自分の左腕が戻ったことに気付いていない。

「この手が、もっと遠くまで届けば!」

 届かない手をのばして、仲間を助けたいと心から願った。

 目の前に光があふれる。

 一瞬、目をつむったあとで、自分の身体がすごい速さで移動していることに気付いた。

 さらに速度を上げる。カケルの場所まで行き、空中で静止。

 雪だるまのようなダミーが、周りを取り囲んでいる。針が伸びてきた。

 白い服になったヤヨイが、手の先を光らせる。広げたガード範囲で、すべて防御。

 地面に降り、足の先を光らせる。

 両手それぞれに剣を持ち、すさまじい移動速度で次々とダミーを両断していく。スカートは揺れない。

 方向転換には飛行能力ひこうのうりょくを使う。草を踏みしめられないため、足場が悪い。

 雪だるまは、残りひとつ。そこに連続でうなる斬撃。ほかと違い欠損しない。ゲージが一つ空になる。

 突然の出来事に呆然としている、カイリ。

 微笑んだカケルが、細身の剣を振るう。淡い光に迷いはない。

 コスミを倒したヤヨイも加わり、二人で攻撃を浴びせた。空になるゲージ。精神体の腕が修復していく。ヤヨイとカケルは、勝利した。


「ごめんなさい。尾行する気はなかったの。話し掛けられなくて」

「口が悪いから、勘違いされる。悪意があるって」

 カイリが本心を吐露とろして、コスミが補足した。

「いえ。ありがとうございました!」

 ヤヨイはお礼を伝えた。輝くような笑顔。

「僕からも礼を言うよ。ありがとうございました」

 カケルも続いた。表情に嬉しさをにじませて。

「口が悪いって自覚あるなら、直せばいいでしょ」

「全くだ。俺も人のことは言えないが」

 スズネとタクミがやってきて、雑談に花が咲く。

 半目ぎみの女性と猫目の少女が、軽くお辞儀をする。

「あんな切り札があるなんて、まんまとやられました。いっそ清々しいですわ」

「また、戦おうね」

「はい! よろしくお願いします!」

 ヤヨイと再戦をちかった、灰色の服の二人。町の中へと戻っていった。

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