第15話 ヤヨイ対アイム

 一行は、さらに模擬戦を重ねた。グレーの広場は見物人でいっぱい。

 窓のそとでは日が高くなっている。

 驚異の精神力せいしんりょくだ。皆、苦手分野を重点的に練習した。

「そろそろだね」

 身体で減速を感じたヤヨイが、口を開いた。察したカケルは降参を選び、戦闘空間が消える。

 すこしあとに、防音壁に隠される景色。

 窓を眺めるスズネ。口をとがらす。

「やっぱり、見えないわね」

「そりゃそうだろ」

 タクミは微笑していた。

「降りたら、食事できるところを探そうか」

 カケルが話していると、色々な服の人たちが集まってきた。応援していると言われ、歓声が上がった。

 四人は、広場をでて出口ちかくへ移動する。

 しずかに動きが止まる列車。開いたドアを抜け、ヤヨイたちがホームに降りた。

 降りる人は少なく、乗る人は多い。

 コンクリートを踏みしめ、鉄の案内にしたがう、荷物を背負った四人。改札口を抜け、駅のそとへ出る。

 巨大な大陸。町が大きいのは必然で、三階建て以上の建物も見える。ほとんどが洋風建築。ひろい道には、歩道に街路樹がならぶ。

 人工物ばかりではなく、緑が多い。駅の前は公園になっていて、いこいの場。

 初めて見る景色に、ヤヨイは目を輝かせていた。


『ごめんなさい』

 よそ見をしていたヤヨイが、おさげの少女とぶつかった。二人は同時に謝って、声がひびく。

 十代後半の少女は、にこやかな顔をする。

「凄く強そう。能力バトルしようよ」

「はい。よろしくお願いします!」

 カケルもスズネもタクミも、口を出さなかった。おあえつらえ向きに、公園の中心は能力バトル用の広場。

 とくにルールを変えない。同意した二人を中心に、戦闘空間が広がっていく。公園がすっぽりとつつまれた。

 建物の三階くらいの高さで、円形のドームは広がるのを止めた。

 青色あおいろの服の少女が光の壁に包まれ、精神体に分離。青緑色の服になって現れる。

「自己紹介がまだだったね。私は、アイム」

「わたしは、ヤヨイです」

 三人は、公園のベンチに座っている。雑談しながら眺めていた。

 周りの人も何人かが見ていた。木々から飛び立つ小鳥たち。平和なひとときである。

「分離できないので、このまま戦います」

「ふーん」

 珍しく、分離できないことに驚かれなかったヤヨイ。アイムはぺらぺらと喋り始める。

「私ね、空をべるんだよ。すごいでしょ」

「空、飛ぶって、こう、しゅーって飛べるんですか?」

 興奮を隠さない、赤い服の少女。手を動かして、表現しつつ喋っていた。

「相手の能力を使わせようとするのは、悪いくせだな」

 カケルが呟いた。

「そうだよ。びゅーん、って飛べるよ」

「一緒に、飛ばさせてください!」

 アイムの話に夢中になって、ヤヨイは能力バトルを忘れてしまったようだ。

「しっかり掴まっててよ」

「はい!」

 後ろからアイムにがっしりとしがみつき、ヤヨイが目を細めた。

「何やってんだよ」

 タクミは、もっともな意見を述べた。だが、二人には届かなかった。


「飛びませんね」

「うーん。持ち上がらない」

 二人は飛び上がる気配がない。仕方なく、ヤヨイは手を離した。

「重いんじゃない?」

 ふわりと、空高く飛び上がるアイム。

「すごいです!」

 ヤヨイは能力を真似した。しかし、身体は浮き上がらない。ぴょんぴょんと跳ねてみても結果は同じ。

 悲しげに揺れるロングヘア。

「ほらほら。見て見て」

 アイムは笑顔。自由自在に空を飛んでいる。戦闘空間が広いので、飛べる範囲も広い。

 空中に浮かぶゲージのうち、片方がどんどん減っている。アイムのほうだ。縦に長いゲージが、さらに減っていく。

 飛行能力ひこうのうりょくは、精神力の消費が激しいらしい。

 なにもせず、ヤヨイは勝利した。

 勝ったにもかかわらず、すこし背の低い少女は落ち込んでいる。


「調子に乗りすぎちゃった」

「すごかったです。ありがとうございました!」

 ヤヨイは、心からお礼を言っていた。

「またね」

 短い言葉を残して、アイムは去っていった。ほかの三人が挨拶する間もない。

「まずはこの町を出て、次の小さな町を目指しましょう」

 スズネは気持ちを切り替えている。

 歩いていくヤヨイ組を、建物の上から二つの人影が見ていた。

 ヤヨイが白い荷物を背負ったときには、すでにそこに姿はなかった。

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