第5話 ヤヨイ対スズネ

 ヤヨイとカケルは駅を歩く。

 能力者の聖地と呼ばれる町を目指している。

 切符を買って、列車に乗った。そのまま別の町に行くわけではなかった。大きな町の中心部にある、大きな駅までやってきた。

ひとりだったら、絶対迷ってたよ」

「慣れておいたほうがいいと思うよ」

 十代半ばの少女と少年は、北へと向かう大きな列車に乗り換えた。線路にある二本のレールより軽そうな材質。

 後ろの席に座る二人。混んでいないので、荷物は座席に置いた。座席は、窓に沿って横に並んでいる。真ん中は大きな通路だ。

 ガタンゴトンと列車が動き出してから、右の車両につながるドアが開く。

「仲がいいのね」

 明るい雰囲気の年上の少女が、二人に話しかけてきた。ドアが閉まる。

「えへへ。そう見えます?」

 ヤヨイはなぜか嬉しそうに言ったが、カケルは何も言わなかった。

「付き合ってるの?」

「違います」

 カケルは即座に答えた。

 ヤヨイも口を開く。

「そうだ。突きといえば、模擬戦もぎせんしよう」

「え? ああ、うん。なるほどね」

 カケルが何かに納得した。

「なんだ。違うの? 戦うなら、私とやりましょうよ」

 橙色だいだいいろの服の少女は、不敵な笑みを浮かべた。

「強い?」

「強いよ」

「わたし戦いたい!」

「いいけど、さっき戦ってからそんなに経ってないよ。大丈夫?」

「大丈夫!」

 ヤヨイはやる気満々だ。

 二人が話しているのを、つり目ぎみでミドルヘアの少女は黙って見ていた。話がまとまってから、口を開く。

「よろしく。私、スズネ」

「ヤヨイです。よろしくお願いします!」

「どうも。カケルです」

 スズネが荷物を置いたことで、カケルは三人分の荷物に囲まれる。自分の緑の荷物はひざに乗せた。

「長引くと不利になるので、連続ヒットありでいいですか?」

「いいわよ」

「自分でそういうことを言うのは良くないと思う」

 カケルの言葉がヤヨイに届いたのかは、分からなかった。

 二人がルールに同意して、戦闘空間が広がっていく。

 ヤヨイは立っていて、スズネは座っている。三両分が戦闘空間になり、二人はその真ん中にいた。


 黄色の服になったスズネ。車両の前方に移動した。

 赤い服のヤヨイは、後方に立ったまま。対戦相手が息を吐き出す。

「あら? 分離しないのかしら?」

「分離できないので、このまま戦います!」

「珍しいわね」

「よく言われます!」

 元気よく言って、ヤヨイは隙のない構えを見せた。

 空中に浮かぶゲージは、すでに4分の1が減っている。

「回復早いね」

 カケルがつぶやいた直後、スズネは弾を発射した。ヤヨイはわずかな動きで避ける。

 弾は列車の壁に当たって消えた。

「力を温存しちゃう感じなのね」

 十代後半の少女は、雰囲気がすこし変わっていた。

 距離を詰めようと歩き出すヤヨイ。それを、すこし眉を下げて見つめる。色っぽい瞳。

「しょうがない子ね」

 スズネが、何かの能力を発動した。手の甲の辺り、何もないはずの空間が光る。

 豆粒ほどの小さな光る弾が、ものすごい速度で発射された。ガードも回避も間に合わず、攻撃を受けるヤヨイ。

「そういう力の使い方もあるんですね」

 ヤヨイは嬉しそうに髪を揺らす。


 スズネは、手の甲が光っている。

 目にもとまらぬ速さの弾が、次々と撃ち出された。

 ヤヨイのゲージが減っていく。半球体の光の壁では、身体をすべて守ることはできない。

「大体分かった」

 ヤヨイの両手の先、何もないはずの空間が光る。

 すると、半球体のガードが大きく広がり、全ての弾を防いだ。そのままスズネのほうに歩き始める。

「受けた能力を再現できるのか」

 カケルは感心した様子。座席から後ろ姿を見つめつづける。

「ただの真似じゃないわね。力の本質すら理解してるわ。この短時間で」

 攻撃を止めたスズネが、色っぽく微笑む。

 力のかたよらせかたを変化。手の甲の光を消し、両手全体を光らせて構えた。

 スズネの攻撃は行われなかった。

 うしろに設置されていた、壁のばねが起動した。

 大きく体勢を崩し前方に吹き飛んだところに、両手を光らせたヤヨイが待ち構えている。

 ヤヨイは、左の掌底打しょうていうちから左の膝蹴ひざげり、右の正拳突せいけんづきを当てた。

 スズネのゲージはあっという間に空になり、精神体は本体の下に帰った。

 橙色の服の少女を見て、歩くヤヨイ。

 戦闘空間が消滅する。

「負けちゃった」

 スズネは、元の明るい雰囲気に戻っていた。

「ありがとうございました!」

 ヤヨイはいつものようにお礼を言った。勝者のおごりはない。


「列車の中で、こんなすごい戦いが見られるなんて」

「格好よかった」

「ありがとう」

 ヤヨイとスズネは、周りに集まった乗客たちからお金を入手した。

「もっと頑張って、強くなるわ」

 スズネがお日様のように笑い、乗客たちは元の席へと戻っていった。

 荷物をひざに抱えて、二人がカケルの隣に座る。

 ヤヨイはまだ慣れていないようだった。

「こんなにお金を貰っちゃって、いいんでしょうか」

「いいのよ。勝負の内容から言うと、ヤヨイはもっと貰ってもいいくらい」

「ですよね。こんな戦い、聖地でも見られるか分からないほど凄いものだよ」

 黙っていたカケルが意見を言った。

 ヤヨイは、少しうつむいている。

「勝手に能力を使っちゃって、ごめん」

「わざわざ僕に許可を取る必要はないよ。それはヤヨイの力だ」

 短髪の少年は爽やかに告げた。

 ミドルヘアの少女は、楽しそうに見ていた。

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