④ 終

 次の日は、返しに来ず三日が経ち。

「十兵衛の新作、また、腕を上げたな」

 おじさんがそう言って笑っている。

(面白かったんだ)

「ガキに読みたいってせがまれちまって、読んでやったら大喜びだ。これは、また流行るな」

「ありがとうございます」

「「ありがとうございます」」

「嬢ちゃんたちも、乗り遅れないように読んでおけよ」

「「はい」」

 その客は、去って行った。

「ふふふ」

 こらえていたが、笑いだしてしまった。

「作者に「読んでおけ」だって」

「本当におかしい」

「でもでも、人に勧める位面白かったって言っていたじゃん」

「これは、流行るね」

「そうね」


  ☆ ● ☆


 そして、その後も、十兵衛の『雪女』は、売れに売れた。

「私たち、すごい才能を持っているのかも」

「そうね、もう、三〇〇文もたまった」

「そろそろ、お父さんから、一言あるみたいだぞ」

「本当」

 十兵衛本人に何を言われるかドキドキしていると。

「お前たち、よくやったな」

「えっ?」

「まあ、話を聞いてくれ」

「「はい」」

 びしっと背を伸ばす。

「俺が、十兵衛を譲ったのは、比べられてやめると思ったからなんだ」

「え~、じゃあ、全く応援していなかったのですか?」

「まあ、ちょっとは応援していたぞ、だがな、前の十兵衛は、大名だったんだ。だから、客も、その位を求めてくるのなら、つまらないと言われてやめるって、そう思っていた。お前たちの書く理由だって弱かったからな」

「思っていたと言うとこは、違かったのですね」

「まあ、十兵衛は、新しく童話作家になったな」

「はい」

「お前たちが、お前たちの色を手に入れたと言う事だ」

「色ですか?」

「そのうちわかる、色があれば、やっていける、大丈夫だ」

「ありがとうございます」

「おう」

 お父さんは、三人の頭を交互になでた。

「お前たちは、新しい十兵衛だ」

「はい」


  ☆ ● ☆


 元十兵衛との会話でいろいろ考えた。

「私たちは、自分の色を見つけたのかな?」

「そうみたいだね」




 その後、十兵衛と貸本屋は、何十年も続いた。

 店主の青は、貸本屋としての信頼が厚かった。そして、貸本屋には。有名な集まりがあった。その名もお宮会だ。それは、宮が一週間に一度盛大に遊びに来るものだった。

 十兵衛たちは、生涯で、六〇冊の本を出した。それは、皆、心の温かくなるような童話だった。

 まさしく、それが、十兵衛の色だったのだ。

 十兵衛は愛され続け、子供たちに知らない人はいなかった。

 童話師十兵衛と本が新しく出なくなっても呼ばれ続けたそうだ。

                              (了)

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貸本屋十兵衛姫 花見さくら @hanamisakura

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