そして、次の日、『雪女』の本は、新着棚に置かれていた。

「誰か、借りないかな?」

そう言って、いつも通り、縁側でお茶を飲む三人であった。

「いつも、この一冊目が一番ドキドキするよね」

「うん」

 三人でじっと客を見てしまっていた。

「みんな、平常心よ」

 お母さんは、そう言って、私たちを元気づけるが、人には、気になることを我慢できないところがある。

(やっぱり、気になる)

 客を何回も見てしまう。


  ☆ ● ☆


 そして、三十分後、本は借りられた。

「いい感じね」

「そうね」

 花ちゃんは、妙に落ち着いている。

「花ちゃん? 何か秘策でもあるの?」

「カンなんだけど、売れるいい本だと思うの『ざしきわらし』の様に、愛される本だと思うわ」

「でも、決めるのは、読者だし、わからないよ」

「そうかな? 青ちゃんの好きが詰まっているから大丈夫だよ」

「好きが詰まっているって? どういうこと?」

「青さんは、『ざしきわらし』の時も、書きたかったでしょう? それが、物語を好きって思う気持ちなの」

「私も、青ちゃんの好きをたくさん感じたの」

「私が、物語を愛している?」

 にわかには信じ難い事だった。

(今まで、好きだったのか、疑問に思っていたけれど……私は、物語が好きなんだ!)

「そうだよね、私の好きって気持ちギュって入っている物、大丈夫だね」

 笑顔でそう言った。

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