その夜は、別な意味で眠れなかった。

(みんなが、がっかりする)

 心の中で怖くなった。

「青、眠れないの?」

「うん」

「そうでしょうね、明日は、貸本屋に本を出すんだものね」

「ねえ、一回も借りられないって事は、あるの?」

「あるよ、いっぱい」

「珍しくないの? 私もそうなるかもしれないの?」

「うん、新人さんならよくある事よ、青はどうか、わからないけど、気にしなくていいわ」

「そうなんだ」

 そう言われると、みんな初めは、ダメなんだと思って、安心した。

(明日、借りる人がいなくても、落ち込まないぞ)

 心の中でそう思っていた。

 しかし、実際は、借りる人がいないのは、さみしい。

(どうしよう)

 心の中で焦りまくる。

「青、大丈夫よ」

「何が」

「人は、なんでも、うまくいっても、うまくいかなくても、無駄じゃないの」

「無駄じゃないの? 売れなくても?」

「そうよ」

 優しく頭を撫でられて、眠りについた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る