次の日、寺子屋終わりに、三人で私の家に向かった。

「表紙出来ました」

 表紙と言っても、絵が入っているわけではなく、厚紙で、『呪われた屋敷のおばけ騒動』と書いてあるのだ。

「いいね」

「かっこいい」

 表紙は、絵で決める物ではなく、題名の宣伝用なのである。

「ついに私たちの本が出来上がるのね」

「それなら、青さん、全部の下書きは、終わった?」

「うん、終わらせたよ」

「それなら、少しずつ直していきましょう」

「うん」

 パラパラと、お宮様が読む、こういう時は、ドキドキしてしまう。

(自分が書いたものを読まれるのって恥ずかしい)

「いいんじゃない」

 お宮様がいいと言った。

「でも、もう少しおどろおどろした表現が欲しいわ」

「だって、こわいんだもん」

 私は、縮こまってしまった。

「それは、こっちで直すわ」

 お宮様が、筆を入れて行く。

「この表現は、変えた方がいいわ」

 さっさと変わっていく内容。

「できたわ」

「どれどれ?」

 今度は、花ちゃんと読む。

「だいぶ読みやすくなったね」

「お宮様すごい」

「いえいえ」

 お宮様は、うれしそうだ。

「さて、それでは、本書と行きますか」

「おう」

 そう言って、上等な墨で書いて行こうとした。

「待って、絵も見てからにして」

「そうね」

 花ちゃんの描いた絵はとても恐ろしかった。

「どう」

「怖い」

「いいと思うよ」

「お宮様もまた、おもらししちゃうでしょう」

 花ちゃんは、笑いながらそう言った。

「ところで、この中で、一番字がうまいのは誰かな?」

「お宮様だよ」

「それは、そうよ、書道教室に通っているもの、うまいに決まっているじゃない、それとも、二人共自信があったりするの?」

「自信なんてないから、それじゃあ、お宮様に決定だね」

「ええ」

 そう言って、お宮様が、字を本書に書きだした。花ちゃんと二人で、じっと見守っていた。

 五枚で一回休憩を入れた。

「青さんの才能が本当にすごいわ」

「そうかな」

「とても、おもしろいわ」

「そうかな?」

「そうだよ、青ちゃん、とても、おもしろいよ」

「本当に、そうかな?」

 私は、そんなにおもしろいと思っていなかった。

(怖いだけじゃんか)

 心の中でそう思っていた。


  ☆ ● ☆


 そして、三十枚を書き上げた。

「よし、出来上がり」

「後は、紐を通して、本にするだけ」

「絵を貼るのも忘れないで」

「そうね」

 まず、絵を貼って行く。

「すごい、私たちの本だ」

 次に、本を紐でしばって行く。

「穴をあけて、紐を通すの」

「表紙も忘れずに」

「はい」

 そして、一冊の本が出来上がった。

「最後に、『十兵衛』の筆名を書くんだよ」

「『十兵衛』っと」

 筆で書いて、出来上がった。

「これ、めちゃくちゃ売れるよ」

「楽しみね」

 三人で興奮していた。

「待って、本物の十兵衛さんに許可を取らなきゃ」

「そうだね」

 正直、ドキドキだった。


  ☆ ● ☆


 お父さんに本を見せると。

「ああ……」

 少しため息をついて。

「しょうがない、一度置いてみるがいい」

「ちなみに出来は、何点ぐらいですか? いい出来ですか?」

「それは、客に聞け」

 お父さんは、ニコリともしなかった。

「何、あの態度は! もっときちんと話してもいいと思わない?」

「一応、置いてもらえるんだからいいじゃないの」

 お宮様をなだめていると、帰る時間になった。

「明日は、日曜だし、貸本屋に並んだ本をみれるわね」

「そうだね」

「ドキドキだね」

 三人で興奮していた。


  ☆ ● ☆


 その夜、お父さんとお母さんが話しているのを聞いてしまった。

「青の作った本は、まだ、金のもらえる位の本じゃないな」

「それなら、何で置くと言ったの?」

「売れない時を知って欲しかったんだ」

「そう、それは、貸本屋を継ぐために知る必要があるものね、売れない作家の気持ちが分からないと、うまくやっていけないものね」

「俺だって、初めに出した本は、全く借りられず、悔しくて書いていたら、人気者だ。青が売れない作家の気持ちを知るのは、大事だと思うぞ」

「そう、少し残酷かもしれないわね」

「まあな」

 その会話を聞いて恥ずかしくなった。

(私たちの作った物は、まだまだなの……それなのに、並べるって、誰かに読まれることだよね、恥ずかしい)

 自分では、しっかりできたと思っていた。

 お宮様も花ちゃんも楽しみにしているし、止める事は出来ない。

(どうしよう)

 手が汗でびっしょりになった。

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