家の中に入ると、お母さんが本を貸し出していた。

「愛猫物語、入ったんだ」

「そうよ、さっそく借りていく人がいたわ、本当に人気作よね」

「やっぱり、しょうゆ団子先生ってすごいよね」

「そうね」

(あっ、そう言えば、私も読みたかったんだ)

「あの、愛猫物語、私も読みたいと思っていたんだけれど、読んでもいい?」

「いいわよ、さっきの人が返しに来たらだけどね」

「うん」

 楽しみに待つことにした。

(でも、夢娘物語や愛猫物語って、なんだか、かわいらしい内容だよね)

 お宮様が好きな本は、かわいい系なのだろう。

(夢娘は、夢で運命の人と出会い夢の中で恋をするお話、愛猫物語は、猫をかわいがり過ぎる男の人が旅をする話だったけな?)

 思い出して、少し笑いたくなった。

(やっぱり、怖い話は好きじゃないんだな)

 お宮様の事が近くに感じて、うれしくなったのだった。


  ☆ ● ☆


 その日の夜は、怖い事を考えずに眠った。見た夢は、たらふく桃山堂の豆大福を、三人で平らげる夢だった。

「う~ん、いつまでも寝ていたい」

 そう思うほど幸せだった。

「あお、青、青」

「う~ん」

「朝だよ、今日は、ぐっすり眠っていたわね」

「うん、いい夢を見たよ」

「よかったわね、それより、寺子屋の授業が始まっちゃうよ」

「えっ! 寝坊したって事? お母さん、もっと一生懸命に起こしてよ~」

 急いで、支度をしていた。

「着物よし、髪形よし」

「青ちゃん」

 花ちゃんが来た。今日のかんざしは、白詰草のかんざしだった。緑色の葉っぱと白い花の調和がうまく取れていた。

「は~い」

 ぱたぱたと急いでかばんをかけて、出て行く。

「さては、青ちゃん、寝坊したな」

 花ちゃんが笑ってそう言う。

「うん」

「あっ、寝ぐせが後ろの所についているよ」

「えっ! 直して~」

「はいはい」

 花ちゃんが、かばんからくしを取り出して、さっさととかしてくれので、寝ぐせは直ったようだ。

「ありがとう」

「いえいえ」

「本当に助かったよ~」

「そう、さあ行こう」

 二人で鼻歌を歌いながら出かけて行った。


  ☆ ● ☆


 寺子屋に着くと、お宮様がいた。

「おはよう」

「おはようございます」

「お宮様に友達ができるなんてね~」

 小声でそう言っている人がいた。

「そこの人、うらやましいんでしょう? 違う?」

 私はついそう聞いてしまった。

「ち、違うよ」

「うらやましくたって、お宮様の友達は、私たちだけなのよ」

「何で? 別に、他に友達を作ったっていいんじゃないの?」

「私たちには、厚い友情があるからね」

「そ、そうなの?」

 小声で言った女の子は去っていった。

「いいの、あんなこと言って」

「うん」

 私は、平然としていた。

「青さん、ありがとう」

 お宮様は、とてもうれしそうだった。

(そう言えば、お宮様って友達欲しかったんだよね?)

 だから、言われてうれしかったのだと思った。

(素直なのかも)

 お宮様の顔を見ると、そう思えてくるのだった。

「さて、席に着きますか」

 今日も授業が始まる。

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