家について、部屋であーだこーだ言い合う。

「その妹が、生霊になるのはどう?」

「増々怖いね」

 二人で意見を出し合う。

「でも、なんで妹は生霊になったの?」

「姉の死を許せなかったからよ」

「そうか」

 お宮様の意見に納得がいった。

「そして、最後は殺した人が殺されるのはどう?」

「怖すぎるよ」

「そうかしら」

 お宮様は、何冊も本を読んでいるから、怖くないのだろう。

「これで、いいのかな?」

 企画書が出来上がった。

「うん、いいわね、後は、書き始めるだけだけど、青さんは長く書ける?」

「ううん」

「そうよね、集中力がないわよね」

「そもそも、私、勉強も得意な方じゃないし、仕方ないんじゃないかな?」

「そうね、でも、青さんに書いてもらわなければいけないの」

「う~ん、がんばってみるよ」

「そうね、少しずつでいいわ」

「うん」

 お宮様が珍しく優しい。

「今日は、この辺でやめましょう」

「そうだね」

 ほっとしていると、花ちゃんの事を思い出した。

(いつまでも、花ちゃんと仲が悪いなんて嫌だな)

 心の中のもやもやがそう言う。

「よし、花ちゃんの家に行って来よう」

 一人で、花ちゃんのかんざし屋へ向かった。


  ☆ ● ☆


 かんざし屋を目指していくと、『かんざし屋』の看板が飾ってある古民家が見えた。

 中に入ると、色鮮やかなかんざしたちが並んで置いてある。

「こんにちは、おばさん」

「いらっしゃい! って、青ちゃん」

 出てきたのは、花ちゃんのお母さんだった。花ちゃんのお母さんはやせ形なのに、たおやかに見えるのだ。

「いつも仲良くしてくださってありがとう」

「いいえ、それより、花ちゃんは?」

「今、かんざしの構図を書いているわ」

「そうですか」

「でも、中に入って行きなさいよ、花だって喜ぶわ」

 お茶とせんべいを出されて、中の畳の間に入った。

「ちがう、こうじゃない」

 花ちゃんは、一生懸命何かを描いている。

「菜の花のかんざしか……」

 書いてあったのは、菜の花を主役にした。かわいらしいかんざしだった。

(すてきだな)

 そう思って見ていると。

「この子が構図を描いてくれるおかげで、家はもうかっているのよ」

 花ちゃんのお母さんがそう言う。

「そうですか」

「十二才だけど、うちの子は天才じゃないかしら?」

 構図の斬新さ、細かいところまでの構図の気配り、とても十二才の少女が書いたようには見えなかった。

(すごい)

 改めて、花ちゃんがすごい人間なのだと知った。

(こんなにがんばっているのに副業なんて進められないよね?)

 心の中で申し訳なくなった。

「あれ、青ちゃん」

 花ちゃんが、やっと気が付いたようにそう言った。

「次は、白詰草を使ったかんざしの構図を描こうと思っていてね」

「花ちゃん、さっきは、ごめんね、副業を持つなんて話になってしまって」

「あっ、そのことは、青ちゃんは悪くないよ、だってお宮様が勝手に言っただけだもの、あの時、青ちゃんは、本気にしてなかったみたいだし」

「そうだよ、本気にはしてないよ、でも、花ちゃんが気にしていたら嫌だなって思っただけなんだ」

 少し安心してそう言った。

「絵をほめられるのは、うれしいよ、でも、本の挿絵なんて、うまい人がもっといる物、私の絵じゃ、お宮様に迷惑をかけちゃうよ」

(確かに、貸し本屋の本の絵は、敷居が高い)

「そうかな? 花ちゃんの絵、私は好きだな」

「そう?」

 花ちゃんは、照れくさそうにそう言う。

「花ちゃん、私たちだって絵師は、花ちゃんがいいと思っているよ」

「えっ、売れなくなるよ」

「別にいい、そもそも、お宮様の趣味に合わせているだけだもの、売れなかったら、それはそれで、いい思い出になるよ」

「そうかな? それじゃあ、もう少し考えてみるわ」

「お願いね」

 そう言って、去って行った。


☆ ● ☆


 そして、その夜も、眠れないのでお母さんと眠った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る