十兵衛姫がそろう

「青さん」

 すぐにお宮様が声をかけてくる。

「はい」

「今日の企画は考えている?」

「ううっ、まだ」

「しっかりして」

 お宮様が怒っていると、花ちゃんが、絵を描きだした。水墨画で、おどろおどろしたおばけを描いてくれた。

「おお、うまい」

 少し浮世絵っぽい絵で、女の人が怖く書かれている。

「こういう話を書いているんでしょう」

「そうそう」

 花ちゃんは、ニコッと笑った。そして、ささっと筆を動かして。

「もしかして、こんなのだった?」

 今度は、かわいらしいこどものおばけを書いたのだった。

「う~ん、そんなにかわいくないかな」

「そう?」

 花ちゃんは笑いながらそう言った。

「そう言えば、絵師を探していたのよ」

「えっ、絵師って、本の挿絵を描く人?」

「うん」

「でも、私がやるのはちょっと」

 花ちゃんは困っている。

「もったいないわよ、こんなにうまいのに」

 お宮様もそう言う、私もそう思っていたから、頷いた。

「絵を描くのは好きなの、でも、お金を取るほどの絵じゃないと思うのだけど、それでも、描けって言うの?」

「でも、私たちの知り合いで、こんなにうまく描ける人はいないよ」

「そうかな?」

 花ちゃんは、うれしそうだ。まんざらでもないようだ。

「でも、私には、かんざしの構図を考えるっていう仕事があるし、二つも出来るかな? なんて、心配があるわ」

「そうね、そちらも大事ね」

 お宮様も頷く。

「でも、副業を持ってもいいと思うの」

 お宮様はこりなかった。

「副業?」

「二つの仕事をする事よ」

「仕事って、私のかんざしの構図書きは趣味よ、それに、まだ、私たち十二才なのよ、まともに働いてもいい事なんてないわ……」

「ここだけの話なんだけども、私たちは、大人のふりをして、本を出すことになっています」

私は、そう言ってしまった。

「えっ? どういうこと?」

「さすがに、十二才で、一人前の作家なんて名乗れないもの、お父さんが名前をくれるって言っているんだ。お父さんの筆名は十兵衛って言うんだ」

「そうか、十二才じゃ商業は厳しい物ね」

(お父さんは、そう言う理由で、十兵衛をくれようとしたのかな?)

 ふと、そう思った。

(役に立つとは、このことなのだろうか?)

 少し考えてみると、そうかもしれない。

「花ちゃん、商売としては、問題ないから、仕事だと思って絵を描いてくれないかな?」

「……考えてみる」

 花ちゃんは、消極的にそう言った。

(何か嫌な理由があるのだろうか?)

 花ちゃんを見て、少し考えた。

「青さん、帰りましょう」

「えっ、もう、そんな時間」

「そうよ、私たちは、まだ、企画段階なのだからね、まだまだ、がんばるのよ」

「は~い」

 お宮様が張り切る中、花ちゃんは、走っていなくなった。

(お宮様は、横暴すぎだよ、花ちゃんにまで、迷惑をかけられないよ)

 心の中でそう思っていた。

「青さん、しっかり企画出してくださいね」

「はい」

 お宮様は、相変わらず、ごうまんだ。

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