第12話 デートの終わらせ方

「じゃあ、行こっか」

「行こうかって?どこに?」

「決まってるじゃん。カラオケだよ」と言って彼女は伝票を持つ。

「待って……お金、払ってない」

「いいよ。後で適当で。外で待ってて」

 彼女に促されるままに、席を立つ。会計に立っている人に、「ごちそうさまです」と言って、明らかに挙動不審になりながら店を出る。

 そのまましばらく待っていた。一応、妹の七海に「今日、もしかしたら遅くなるかも」とLINEだけしておいた。遅く、といっても8時過ぎぐらいだが、になると、催促の連絡がたくさん来て落ち着かないから。すると、すぐ、「わかった。でも、早く帰ってきた方がいいと思うけど……。もし、夜遅くになりそうなら、また連絡して。お父さんに駅まで迎えに行ってもらうから。あと、夕食いらないなら言ってね」と返信が来る。「了解。できるだけそうする」

「お待たせ。行こっか」彼女が出てくる。突然、僕の脇に腕を入れてきた。驚いて、身体を強張らせて、力が入ってしまう。

「大丈夫?どうかした?」彼女も僕の変化に気づいて声をかける。でも、具体的にどういう状況なのか、僕がどう感じているかは気づいていない様子だった。

「いや、別に。大丈夫……」

 本当は大丈夫じゃない。どんどん僕の身体は緊張で強張っていく。多分、少し離れてみれば、素人目にもそのことには、気付くだろう。ただ、今1番そばにいる彼女は、そのことに気付いていない。

「そういえば……さ。さっき言うの忘れてたんだけど……僕、閉所恐怖症なんだけど大丈夫かな?」

「閉所恐怖症?えっ?何のこと?」

「いや、

 そして、カラオケボックスに着いた。今回は、あまり時間が長く感じられなかった。慣れてきたからかもしれない。しかし、不幸なことに、あるいは幸いなことに、満室であった。

「あーあ。どうしよっかなー」

「今日は帰って、また今度にしよう」

 早めに終わらせた方がいいって七海も言っていたし。これが正解だろう。

「でもまだ、お昼だよ?」

「じゃあ、どうする?」

「家、ついて行っていいですか?」

「えっ?なんかのマネ?」

「だから、佐々木くんの家、行っていい?」

「だめではないけど。何もないよ?」

「なくていいから。行っていい?」

「まあ、いいよ」

もう、どうしようもできない。うーん。わけがわからない。

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普通 たかたか @kirin_0708

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