第4話ガルドダンジョンと少女

「はっ!」

 ──キィーーーン

 不気味な静けさと独特の雰囲気につつまれた世界に、金属音が響き渡る。


 敵の名前は<スケルトン>

 アンデットで粗末な剣と盾を武器として戦う骸骨モンスターだ。攻防ともに優秀なモンスターで、初級冒険者が最初にぶつかる壁と言われている。


 しかし所詮は初級モンスターだ。

 俺は力抜き、スケルトンの攻撃を受け流す。

 ――ここだ!


「ギルスターーーク!」


 剛剣系一連撃技ギルスタークでスケルトンを一刀両断にする。スケルトンは小さな爆音と共に跡形もなく消滅した。唯一残ったのは一本の骨、つまりドロップアイテムだけだ。


「……替え時かな? そろそろ地上に戻るか」

 ボロボロになった剣を見ながら呟く。

 ガルドダンジョンにこもり始めて三日たった。特に目的があった訳でもない。ただ人の多いところには居たくなかった。その点ダンジョンはいい。人は少ないし、静かで落ち着く。モンスターとの戦闘は胸が高鳴り興奮する。


 ――ダンジョン


 ダンジョンは世界に一つ確認されていて、今から二千年前に神の手によって創られた言われている。


 一説によれば最下層にはどんな願いでも叶える願望器があると言われている。ダンジョンにモンスターがいるのは最下層に人間が来るのを拒むためらしい。それが本当かは定かではない。


 なぜ定かではないか? 答えは簡単、人間がダンジョンに挑み初めて約千年、誰も最下層まで行ったことがないからだ。



「三日も帰らなかったし、ミヤ婆怒ってるだろうな」

 ため息まじりに呟く。ミヤ婆は死にかけていた俺を拾ってくれた恩人で、第二の母親と言ってもいい存在だ。普段はとても優しいのだが、怒るとすごく怖い。


 帰った時の言い訳を考えながら上に行く階段を目指して歩き出す。



「きゃあああああっ!」

 ダンジョンに静寂を切り裂く悲鳴が轟く。

 ――悲鳴? 結構近いな


「《隠密(ハイディング)》」

 俺は気配を消して、悲鳴が聞こえた方へ向かって走りだす。

 《隠密(ハイディング)》を使ったのは保険のためだ。悲鳴で冒険者を誘い込み、<怪物授与(モンスタートレイン)>を行う。そしてPK(モンスターキル)を行う輩(やから)が時々いるのだ。


 ──怪物授与(モンスタートレイン)

 大量のモンスターを他の冒険者に押し付ける行為で、法で禁止されている行いだ。

 しかし人とは傲慢な生き物だ。自分の利益のためなら簡単に法を破る。


 少しして悲鳴の主を見つける。みすぼらしい格好をした女の子だ。思わず顔を背きたがるぐらいボロボロだ。


 その女の子は一匹のゴブリンに襲われていた。倒れた少女にゴブリンがトドメをさす、まさにその瞬間だった。

 ――この距離では剣は間に合わない。ならば……


「《投擲(スロー)》」

 先ほどドロップした骨を投擲する。骨は弧をえがいてゴブリンの頭に衝突する。


「グルゥゥアァゥウゥアアァ」

 ゴブリンは唸り声を上げる。どうやらあまりダメージを与えられなかったようだ。しかし、ヘイトを俺に向けることには成功した。その証拠にゴブリンはすごい形相でこちらに向かって走ってくる。

 ――お怒りのようだな。ならば俺もそれに答えないとな。


「ゴブリンさんこちら」

 俺は剣を抜き、挑発する。怒り狂った獣ほど狩りやすいものはない。もっともモンスターに言葉が通じるかは分からないが。


 ゴブリンは飛び上がり、右手に持っていた木の棍棒を振り下ろす。

 単調な攻撃。ゆえに動きが読みやすい。俺は楽々と躱(かわ)し、後ろに回り込む。


「はぁぁぁぁっ! これで終わりだ」

 ――斬数はいらない。一撃で殺す!


「ギルスターク!」


「グルゥゥアァァ!?」

 真っ二つになったゴブリンは断末魔と共に消滅する。


「ふぅぅぅ、《投擲(スロー)》の熟練度もっと上げないとな」

 息を吐き、戦闘の余韻に浸りながらも心を落ちつかせる。


 《投擲(スロー)》を使った時、倒せないまでも気絶させるぐらいは出来ると思っていた。しかし、目論見ははずれ、少ししかダメージを与えられなかった。もし《投擲(スロー)》の熟練度が高かったならば、剣を抜く必要もなく楽に倒せただろう。


 まだまだ修行が足りないな。


「おーい、大丈夫か?」

 俺は倒れている少女に話しかける。


「……」

 しかし返事は帰ってこなかった。死んではいないだろうから、気を失ってしまっているのだろう。


「さて、どうしたものか。このまま放置する訳には行かないしな……」


 静寂を取り戻したダンジョンのなか、俺は困ったように呟く。

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魔法不適合者と奴隷少女 @kinoko3

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