第3話

 様々な苦難(?)を乗り越えて、ようやく私は姉と共にスーパーに入店しました。他の店では見かけないような珍しい商品もあり、品揃えも豊富でおまけに安い。先程の出来事はすっかり忘れて、楽しんで店内を回っていました。


 ちなみに、店にいる間は姉に男の子の話をしませんでした。あの男の子が幽霊である、と確定してしまうのが怖かったからかも知れません。


 お目当のアイスを手にレジは並ぼうとした時、ふと思い出して私は店内から通路の方に目をやりました。


 まだあの子はあの場所にいるのだろうか。もしいたら、どうしよう。


 さっきは何事もありませんでしたが、次もそうであるとは限りません。あんなにヒヤヒヤする体験は二度とごめんです。


 幸いにも、先程の位置に男の子の姿はありませんでした。

 私は安心しました。これでもう一度幽霊を跨がずに済む──しかし、そう単純な話でもなかったのです。

 

 私はなんとなく後ろを振り返り、アイス売り場の方に視線をやりました。さっきまで私がアイスを選んでいた辺りです。

 すると……いました。あの男の子です。

 通路のど真ん中に居座っていたあの子が、先程と寸分違わぬ格好で、薄暗く騒がしい店内に移動しています。やはり下を向いているので顔は見えないのですが、心無しか体をこちらに向けているようです。


 男の子と私との距離は三メートルくらいだったと思います。私のことを意識しているのは明白でした。


 店に客はそこそこいたのですが、その子の周りは全くの無人で、なんとなくみんな避けているような感じです。


 普通なら驚いて声をあげるとか、怖くてすぐにその場を去るとかそれらしい反応を見せるのかもしれませんが、なぜかその時の私は恐怖心とは無縁で、むしろ「おお、そう来たか!」と感心したくらいでした。

 霊が近づいて来たことよりも、跨ぐ必要性がなくなった事にほっとしたんですよね。


 ついてくるかもしれないという懸念は全く抱きませんでした。

『視えても怖いと思わなかった幽霊は、悪い霊ではない』というような話を、どこかで聞いたことがあったからかもしれません。


 その後は普通にレジを済ませ、何事もなく店を出ました。


 後日、姉にそのことを話してみたところ、案の定男の子など見ていないようでした。

 ただ、買い物カゴか何かを跨いだような記憶はある、と言っていました。あれだけしっかり避けていたのになあと、なんだか不思議な心地がしました。


 それからも幾度となくその店には行っていますが、あの時の男の子を目撃することはありません。

 いなくなったのか、単に私には視えなくなっただけなのか。もしまだいるのだとしたら、私が反応の薄い『塩対応』であったことにガッカリして、姿を現さなくなったのかもしれません。どうせ驚かせるなら、霊だって反応の良い人がいいでしょうから。


 もしかしたら今もちゃんといて、私も視えないけど無意識に跨いでいるのかも……と、ふと思いました。

 


 それからしばらく経って、私はインターネットで近所の心霊スポットについて調べてみました。そのスーパーで霊を見たという人が他にもいるかもしれない、と思ったからです。

 軽い気持ちでの検索だったのですが、そこで私は、驚くべき事実を突きつけられます。


 スーパー及びその近くの住所は検索には出て来ませんでした。

 ヒットしたのはなんと、でした。


 と言いますのも、私の今の家は一戸建てではなく、とある集合住宅なんです。昔、近くで大勢の人が亡くなるような出来事があったらしく、知る人ぞ知る心霊スポットだったようです。

 私は当然、そんなこと知りませんでしたが。


 ふと、越して来た当初に多発していた金縛りのことを思い出し、背筋が寒くなりました。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

幽霊をまたいだ話 十坂真黑 @marakon

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ