突撃!隣のギャング屋敷!!《3》



「な、な、何だ貴様は!?護衛はどうしッ――」


「うるさい黙れ。ツバが飛ぶ。口を開くな」


 そう吐き捨て俺は、躊躇なく妖華を振るうと、ブタの片手の指を正確に一本だけ斬り飛ばす。


「ッ!?アガああァッ!?」


「オイ、黙れと言った。二度目だ」


 と、再び妖華を振るい、もう一本別の指を斬り飛ばす。


「イぐッ――!!」


 ブタは表情を激痛に歪ませ、脂汗をダラダラと垂らしながらも、こちらに容赦がないことを理解すると、悲鳴を上げそうになっていたその口を閉じる。


「よし、そのまま黙ってろ。いいか、よく聞け。俺の許可なく口を開くな。俺の知りたいことに全て答えろ。嘘を吐いたり喋るのを躊躇う素振りを見せたら、一つずつお前の身体の部位をおさらばさせてやる」


「き、貴様ッ、私を誰だと思っている!!こんなことをしてただで済むと――」


「なあ、俺の話を聞いていたか? 余計なことを喋るなっつっただろ」


 俺はアイテムボックスから使い捨ての安物ナイフを取り出すと、やはり学習能力が乏しいらしく、再びわめき始めたブタの股座またぐらに生えている、見るのも汚らわしいソレに向かって、勢いよく投げつける。


「ッッ、イギャアああァああアアぁァ――ッ!?」


 狙い違わずナイフがソレに突き刺さった瞬間、ブタの口から漏れ出る絶叫。


 妖華を使わなかったのは、流石にアレをこの愛用の武器で斬るのが嫌だったからだ。


 流石に、男のイチモツなんぞ、斬りたくもないしその感触を味わいたくもない。


 ――と、どうもブタは、そのままあまりの痛みから失神してしまったようなので、俺は再びアイテムボックスを覗いてその中から一番効果の弱い下級ポーションを取り出すと、男のソレにぶっ掛ける。


 ナイフが突き刺さった状態のままだが、とりあえず傷が修復したようなので、ブタの顔面を蹴り飛ばして無理やり意識を覚醒させる。


「起きろ。勝手に寝るな。いいか、もう一度言うぞ。黙ってろ。そして、俺が聞いたことには全て、すぐに答えろ。わかったか?」


 眼から涙をダラダラと流し、顔中汗まみれで、コクコクと何度も何度も首を縦に振るブタへと、俺はようやく最初の質問を投げかける。


「お前が勢力拡大に使っている武器。フルーシュベルト。それは今どこにある?」


「ち、ち、地下だ。地下、そ、倉庫の一番、奥にしまっ、しまってある」


「倉庫ってんなら、鍵を掛けているだろ。それはどこだ?」


「か、か、鍵は、隣室の、わた、私の書斎にある」


「いいだろう。それじゃあ次だ。そのフルーシュベルトはどうやって入手した?」


「…………」


 一瞬口をつぐんだブタの指を、俺は無言でもう一本、即座に斬り飛ばした。


「ンぎウグゥゥッ、わ、わぎゃっ、わがっだ!!ごだえる!!ごだえるから!!」


 無様に泣き喚きながら、そう捲し立てるブタに、俺は再度質問を投げかける。

 

「最初からそうしろ。どうやって入手した?」


「もらっだんだ!!どあるお方がら!!」


「……へぇ?」


 ピク、と眉を反応させた俺を見て、まるで死中に活を見出したかのように、ぺらぺらと喋り出すブタ。


「顔はわがらない!!だが、相当に高位の方なのはだしがだ!!ぞの御方の指示で私は動いでいだ!!」


 ブタの言葉に、俺はふと脳内に、この王都へ来る前色々と教えてもらった野盗の姿が過ぎる。


 ……あくまで勘でしかないが、いつかの野盗が言っていた仕事の依頼人と、このブタが言っているその指示していた者ってのは、同一人物であるような気がするな。


 ――待て、そういや確か、今の王都の情勢についてジゲルが面白いことを言っていた。 


 何でも、現在ここセイローン王国を統べる国王はかなりの高齢で、崩御するのは時間の問題であると言われているのだそうだ。


 そのため、次期国王を狙う派閥争いが激化しており、裏では暗殺やら何やらの、結構物騒なことが頻発しているらしい。

 

 このブタにフルーシュベルトをくれてやった者もまた、その派閥争いの一角を担う者であり、影から操って自分の配下の勢力を増させ、発言力を拡大させようとしていた……?


 ……有り得そうだな。


「……ふむ。何を指示された?」


「狙っだ組織の壊滅!!要人の政治的不祥事の捏造!!誘拐に脅迫!!ぞれぐらいだ!!」


 思った通りか。


 例の野盗と同じ雇い主かどうかはわからないが、やはりコイツも、政争の道具として使われていたらしい。


「……お前、一応はこの商会のトップなんだろ? それも、かなり大きい。だったら、ある程度雇い主の正体には目星が付いているんじゃないのか?」


「……い、言えない」


「そうか」


 ジャギ、と妖華から肉と骨を断つ感触が伝わり、再びブタの指が宙を舞う。


 寝室に響き渡る、悲鳴。 


 みっともなく叫ぶブタに、俺は言い聞かせるようにして、ゆっくりと言葉を放つ。


「幸い、お前の指はまだ残り十六本も生えている。これが全部無くなったら、お前のために上級ポーションを使って、もう一度全て生やしてやろう。それで、もうニ十本だ。俺としても面倒だから、早めにギブアップしてくれると助かるんだがな」


「ぞッ、ぞれを言っだら、わだじはごろざれる!!ごろざれでじまう!!」


「どっちにしろ、ここで言わなくても殺されるぞ。俺に」


「……じ、じがじ――」


「それじゃあ、もう一本。おし、これで残り十五本だ」


「ギィあァァッ!!わがっだ!!ずうきぎょうだ!!ごのぐにの教会に属ずる!!どの方なのがはほんどうにわがらない!!」


 ……枢機卿?


 痛みからか、涙声でかなり聞き取り辛いが、確かにコイツは今、枢機卿と言った。


 ……呆れたもんだな。


 つまりは、聖職者だろう。


 それが、己が権力を握りたいがために人を陥れているとは、とんだお笑い草である。


「ごれで、わだじがじっているごとは全部だ!!だのむ、みのがじでぐで!!」


「……そうだな……よし」


 とりあえず聞きたいことは全て聞けたと判断した俺は――幻刀『妖華』の、エクストラ・・・・・スキル・・・を発動させる。

  

 その瞬間、刀身の血のような紅色が、名に冠するように妖しく輝き始め、波打つ波紋がまるで生きた血管であるかの如く、ドクン、ドクン、と脈動を始める。


「――なぁ、聞いてくれよ。この武器さぁ、ゲットするのに相当時間が掛かって。ホント、何度心が折れそうになったわかんないぐらい時間を費やした結果、ようやくドロップしてくれた小憎らしいヤツでな。まあ、その分だけ、同じくらい愛着も沸いているんだけど」


 マジであの時は、もう何度こんなクソゲーやめてやる!!と思ったことか。


 この武器がゲット出来るダンジョンに徘徊する敵は、吐き気を催す程の鬼畜モンスターばかりだし、何百回宝箱空けてもドロップしねぇし。


 ゲームで精神崩壊しそうになったのは、あの時が初めてだったわ。


「んでまあ、やっぱり超レア武器だから、その苦労に見合った凄まじい威力は持っていてな。まず耐久が物凄いから、鉄鎧とか斬り付けても刃が全然欠けないし、というか斬れ味も攻撃力も物凄いから、鉄ぐらいだったら全く苦も無く斬り裂けるんだ」


「な、何を……っ?」


 突然語り出した俺に、状況の読めないブタがおどおどした様子の、困惑の声を漏らす。


「特にヤバいのは、この武器に設定されているエクストラスキルだ。『煉獄』っつってな。MP消費は激しいが、一度発動すればしばらく発動しっ放し。んで、その発動にはまず、この刃で敵を斬り付ける」


 俺は妖華の刀身を走らせ、ブタの上胸の辺りを横一文字に浅く斬り裂く。


「いグッ……!!」


「するとな、斬り付けた相手に『幻覚』、『猛毒』、『昏倒』、『麻痺』の四つの効果を全て、即座に及ぼすんだ。しかも、結構長く」


「……? ――ッッ!!カッ、ハッ――!!」


 突如、ブタは呼吸困難に陥ったかのように過呼吸染みた息遣いになると、でっぷりと太ったその身体をエビの如く仰け反らせ、白目を剥く。


「実は俺、この武器を見つけてから、一対一だと数えられるぐらいしか負けたことがないんだ。ぶっ壊れ性能だと俺も思うが……まあ、入手条件がキチガイ染みた難易度だったからな。多少は許してくれよ?」


「あッ、うっ、ダう、だウげ、だウげで……!!」


「悪い、何を言っているのかさっぱりわからん。――それじゃあな、ブタ野郎。フルーシュベルトは、ありがたく貰って行くぞ」


 そう言い残して俺は、ビクビクと痙攣し始めたソイツから顔を逸らし――ベッドの上に、虚ろな目で横たわる双子の少女達の方へと視線を向ける。


 ……流石に、こんなクソどもの巣窟に置いていけないよな。


 連れて来た二人が何て言うかちょっと怖いが……いや、むしろ、置いて行った方が怖いか。


 その未来を想像して、思わず苦笑いを浮かべた俺は、ゲーム時代に有り余る程ため込んでいた上級ポーションをアイテムボックスから取り出すと、身体の至るところに傷がある彼女らの身体へと、その中身を少しずつ振り掛けていった――。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

断罪の暗殺者~なんか知らんが犯罪ギルドのトップになってた~ 流優 @Ryuyu_

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ