第5話 恐怖の理由2

(これが…。俺?)


水面にはピンと立った耳、鋭く尖り不規則に並んだ歯に、少しつり上がり赤く光った目の狼の顔が映っていた。

信じられない大輔は顔をペタペタと触る。

灰色の剛毛が大輔の手に押し返そうとする。

その手にも獲物を捕らえられるような鋭いかぎ爪があった。

やっと事態を整理することができた。


(みんなが怖がってた理由…。そりゃこの姿で街走り回ったらビビるよな。)


水面をボーッと見ながら今までの考察をする。


(でもこれが最初からだった場合ボニータは俺を助けたりしなかったはず…。)


新たに疑問が生まれたが、すぐにその答えは出た。大輔が見ていた水面に映るもの。

満月である。


(てことは俺は…。「狼男」ってやつか。)


自分では気づかない間に変身していたようだ。


「よし。状況もわかったことだし、ってあれ?」


振り返るがさっきのゴブリンがいない。逃げられたか?


『ガサッ』


近くの茂みが揺れる。


「そこか!?」


「クソ!」


また逃げ出すゴブリン。


(めんどくせぇなぁ!)


大輔は少しイラつきながら走り出す。


やはり全然追いつけない。寧ろどんどん離されていくばかりだろう。


(狼ってこんなに遅かったっけ?そうだ…。四足なら…。)


そう思い足を止めた。

手を地面につけて四足で再び走り出す。


(速っ!)


あっという間に追いつき、ゴブリンを捕まえる。


(狼ってすげぇな。)


純粋に感動する。


「もう…終わりだ…。」


捕まったゴブリンは絶望する。


「ハァハァ…。待ってくれよ。ヴェスネス城がどこにあるかそれだけ聞きたかっただけだから。」


「なんだよ!それなら先に言えよ!」


言おうとしたら逃げたんだろうが!そうツッコミたかったが今は抑え話を聞く。


「ヴェスネス城ってあの魔王の城か。それならここから西に400kmくらい行くとヌオーネって村があるからそこからまた北へ300kmくらい行ったとこだったはずだな。」


「は!?遠すぎねぇか?徒歩でいける距離じゃねーよ…。」


驚きを隠せない大輔。


(ホントにあの魔王使えねぇな…。)


「てかそんなとこに何しに行くんだよ?」


「え…。いやそれはまぁ色々と…。」


「なんだそれ。」


よ、よしうまく隠しきれた!うんそんな気がする。

「とりあえず俺は帰るからな。」


「おう。ありがとな。」


『グゥ〜』


大輔の腹から大きな音がでる。そういえば異世界連れて来られてからなにも食べていない。それに先程から走ってばかりである。

それは空腹になるだろう。

帰ろうとしていたゴブリンが振り返る。大輔もゴブリンを見ている。


『………。』


2人の間に沈黙が流れる。しかしそれは長いものではなかった。最初に動いたのは大輔だった。

「すまない!さっき食い殺されるとか言ってたもんな?お前食えるんだよな?」

聞きながら走っている。

「うわぁぁああー!来るなぁー!だから嫌だったんだよ!」

逃げるゴブリンだがすぐに捕まってしまう。


「よし。」

食事を終えた大輔は立ち上がる。

(うん。なんというか普通に美味かった。内臓まずくて邪魔だったけど。)

そしてゴブリンが持っていたいくらかの金と衣服を持つ。服は売れるかもしれないからだ。


(申し訳ないけどなんかこういうのいいな。「悪」っぽい。)

大輔はこの世界に来て初めて楽しいと感じた。


(またこれから動かないとな。)


そう思って大輔はヴェスネス城に向けて出発した。




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