第8話 心の強さ

「改めまして、ガイア兄さんのすぐ下の弟のヘルメスです」

兄さんに連れられて僕がやって来たのは、龍神町の地下にあるアースベースっていうところ。この町で一番大きな会社の社長さんが、ここの長官らしくて、町の開発と一緒にここも作ってしまったみたい。すごいアクティブな社長さんだな。でもその人が兄さんを助けてくれてるんだから感謝しないとね。

僕がお邪魔すると、たくさんの人が賑やかに迎えてくれた。ちなみに、僕が乗ってきた飛行機も兄さんといっしょに収容してもらった。

出迎えてくれた人の中に、一際目立つ人がいた。真っ白な髪と髭がライオンみたいになってるおじい……さんよりは若い人。

「ヘルメス君、アースベースの長官をやらせてもらってる獅子神だ。よろしく」

「兄さんがお世話になってます。それと、これからお世話になります」

やっぱり。この人が、最初に兄さんを助けようと協力してくれた人ね。しわくちゃな顔だけど、真っ直ぐな目をしてる。そして優しそう。この人がまとめてるなら信用できそうだと僕は思った。

「それから、休みのものもいるが職員のみんなだ」

「みんな、これからよろしくね~!」

集まってくれたみんなも、優しそうでよかった。よかったね兄さん。こんな地球に戻ってくれて。

そして僕は、噂の兄さんのパートナーを探した。赤い髪の元気な子はっと……。いた!

「君が、兄さんのパートナーだね!」

「赤兎烈です。よろしくお願いします」

「よろしくね~」

兄さんから少し聞いてたけど、見た目的には僕のすぐ下の弟の方が合ってると思った。でも、兄さんと合うってことは、それ以上に凄い子なんだろう。

すると兄さんは、僕の飛行機から降りてきた相棒と手を繋いでやってきた。

「ヘルメス、この子は?」

「あ、兄さんその人はね……」

『私はメルクリウス。水星の守護者です』

「こ、この子……失礼しました。この方が水星の……」

仕方ない。初めて見たら誰だってそう言うよ。だって、僕の相棒、もとい水星の守護者は、子供位の背の高さで、男の子なのか女の子なのかわからない声をしていたからだ。

『君がアテナを救ってくれたロボットですか?』

「はい、ガイアと申します」

年齢はもちろん相棒のほうが大きいんだけど、背丈は兄さんのほうが大きいから少し笑えた。

「ガイア、すまないがそこに誰かいるのかい?私達には見えないんだが……」

「あ、そうでした。えっと、どうしたらいいですかね?」

『私に聞かないでください』

兄さんが柄にもなく慌てている。そうか、兄さんがブレイブさんからもらった力があるから僕らは見えているけど、普通の人間には当然見えないよね。

烈君。目を細めるとか、そういうんじゃないんだよ?

「そうだな~。何か使ってない機械とかありますか?」

見えなければ、形を作ってあげればいいと僕は思った。

すると、烈君によく似た白衣を着た男性が、そこらじゅうにあった段ボールの中を漁って、色々持ってきてくれた。これなら何とか出来そうだ。

「ありがとう!ちょっと待ってね~」

あぁ、材料があるってのは幸せだ。水星では、地中にある金属を太陽光で溶かして、型枠に流し込んで部品を創ってたから本当に便利。まあ光熱費はいらないんだけどね。

「はい、幸せの青い鳥の完成~!」

時間が勿体ないから、掌に乗るくらいの鳥を創ってみた。声も出せるし、飛べるものだ。まあまあの出来だな。

「……」

あれっ、と僕は周りを見渡した。周りの音が無くなって、みんなが帰ったのかと思ったからだ。でもみんないる。

「えっ、どうしたの?」

「い、今、どうやって創ったんですか?」

僕に材料を持ってきてくれた人が、信じられないものでも見るように、掌の上の鳥を見ていた。

「どうって……」

僕は余った材料を使って、もう一羽青い鳥を創った。

「こうだよ?」

もう一羽創ってみた。今度はみんながざわついている。ふと、悪いことでもしたかと兄さんを見たら、笑顔でみんなに言ってくれた。

「ヘルメスは、とても手先が特に器用なんです。すごいですよね?健太郎さん、たぶんヘルメスは博士と同じ位の技術の持ち主です。色々勉強になると思いますよ」

確かに僕は父さんに一番創る事の楽しさを教えてもらった気がする。でもそれは、兄さんがいつも父さんの近くにいて、兄さんが父さんの創る姿が好きだって言ってたからなんだけどね。

あれ、そういえば……。

「健太郎、さん?」

横にいる烈君によく似た人の名前を兄さんは呼んだんだよね?

「あ、ごめんね。私は赤兎健太郎。烈の父親でアースベース技術課の課長だよ」

やっぱり烈君のお父さんだった。特に目が似てる。でも名前が同じだなんて、なんだか奇遇だなと思った。

「話しても大丈夫ですか?」

ぼぉっとしていると、掌の上の青い鳥から相棒の声が聞こえた。

「あ、ごめんごめん。いいよ~」

「では、私はメルクリウス。水星の守護者です。50億年前に突然やって来た地球のロボットに自分の星で散々濃き使われた挙げ句、地球の危機を救うために手伝えと言われやって来ました」

散々な言われようだけど、一先ずみんな笑ってくれたので良しとしよう。そして、青い鳥は獅子神さんの肩に飛んでいった。

「というのは冗談で、私も地球、そしてアテナを助けるためにやって来ました。ヘルメス共々、これからお世話になりますので、よろしくお願いします」

みんなが拍手をしてくれた。拍手が鳴る中、相棒は獅子神さんに耳打ちをしていた。そういえば少し話したいことがあると言っていたことだろうか?

話を聞いた獅子神さんは、拍手が鳴り終わるのを待って、話し出した。

「ではみんな、歓迎会はまた後日やるとして、仕事に戻ろう」

みんな忙しいだろうに、集まってくれてとっても嬉しかった。今日会えなかった人とも、これから仲良くしたいと思った。

「烈君もありがとう。今日はもう帰るといい」

「えっ、俺はまだ……」

相棒の話は、烈君にとっては、まだ難しいようだ。僕も烈君と話したかったけど、これからいっぱい話せるからいいよね。

「来週のテストは大丈夫かい?」

「か、帰って勉強します!!」

「よろしい」

そうして一旦解散となり、烈君も渋々帰っていくと、残ったのは僕と相棒、兄さん、獅子神さん、烈君のお父さん、あと技術課の緑川繁雄さんって人。場所を変えて、会議室のような所にみんなが集まった。

すると、その会議室にもう一人?一塊がやって来た。ふわふわと漂う、光の塊。もしかしてこれが。

「メルクリウスさん、ヘルメスさん。初めまして。私の名前はアース。地球の守護者代行をさせてもらってます」

兄さんの意思を半分こして生み出した人格。兄さんが自分だけの意見だけで地球を創り直さないようにと思って創ったものらしい。

「アース……さん!よろしくね~」

「初めましてアース。アテナの代わりによく、この星を見守っていますね。もうあなたに任せてもいいかもしれませんね」

「いえっ、そうはいきません……!」

僕の相棒の冗談への反応は、少し兄さんに似ていた。

「それで、話というのは何でしょう、メルクリウスさん」

さっきとは違って、獅子神さんは凄い真剣な顔をしていた。

「私が来た本当の理由についてです。それについて、聞いておきたい事があります」

あぁ、その事かと理解したと同時に、それなら心配ないとも僕は思った。

「どうぞ」

「あなた達は、これからの地球をどうするつもりですか?」

わざとトゲのあるような言い方で、僕の相棒は、今の人間たちに言った。

当然、その場にいた大人達もわかっているみたいで、獅子神さんが代表して口を開いた。

「私は……」

さて、どんな話が出るのか楽しみにしていたその時だった。

「はい、大丈夫です」

失礼でしょと言わんばかりの話の止め方に、せっかくの会議室の空気が台無しになった。まぁいいけどね。ちなみに言っておくと、僕の相棒は星の意思だから、人間位の思っている事なんて、すぐにわかってしまう。じゃあ烈君を帰さなくてよかったんじゃない?

「あなたの考えている事はわかりました。私もそうなればいいと思います。そして、忠告です。アテナを2度と泣かせないでください。忠告を聞かない場合は、今度は太陽系が人類の敵になります」

「何言ってんの。兄さんが創り変えた世界だよ?昔みたいな事する人なんているわけないじゃん!」

父さんと同じように、アテナさんも今はないから、相棒の気持ちはよくわかる。だけど僕は、兄さんの思いが今の人間がちゃんと伝わっていることを信じている。

「わかりました。アースベース代表として、その言葉を胸に、これからの未来を創っていくと誓います」

「頼みましたよ」

それから僕たちは、今の地球について説明を受けた。そして、僕の乗ってきた飛行機の整備もお願いして話は終わった。兄さんがこの後、アースベースを案内してくれるらしい。

「兄さん、そういえば体、どうしたの?」

「空気に触れていると、不具合が起こってしまってな。今は健太郎さん達に治してもらっている」

「……いいの?」

「私の存在が、過去の世界でどういう存在だったかは、みんなわかっている。それを踏まえて、健太郎さんは私を治したいと言ってくれたんだ。大丈夫さ」

「そっか……。変わってくれたんだね」

「いつまでも、そうであってほしいと願っているよ」



ーーーーーーーー



俺は生まれ変わった。一度は機械人形に負けた俺だが、リガース様が俺を必要としてくれた。こんなに幸せな事はない。ドラッグがしやがった事も、少しは許せた。

「リガース様。参りマしタ」

俺は、黒曜石の椅子に座っているリガース様に向かい、膝をついて挨拶した。ほかの椅子にもドラッグ以外の仲間が座っている。

「座れ」

俺は今の自分には大きすぎる位の椅子に座った。

「……少し待て」

リガース様は、足をコツンと鳴らした。すると、俺の椅子が形を変え始め、丁度いい大きさになった。

「アりガとうごザいマす」

「不格好な私の部下はいらないからな。報告を聞こう」

それから俺は、町に行ったときの話、機械人形に遭遇したときの話、デカくなった機械人形の話、そして、俺が負けるまでの報告をした。

「ご苦労だった」

「リガース様、パワードの腕を破壊した力とは何なのでしょう?」

俺が一番気になったことを、アダムが言いやがった。

「パワード、どの様な力だ?」

「後で考えてみタのですガ、機械人形と話しているときと同じ気持ちにナるようナ“力”でしタ」

すると、リガース様は少し考え、怒りに溢れる自らの力を押さえ込むように話始めた。

「機械人形の力か……」

「それハ、どういうことでしょう?」

「機械人形が人間を制御しているのだ」

俺たちは絶句した。

「で、ですが、私が人間を操ったときは……」

アダムが少し慌てながら言った。もしそれを報告していれば、俺の腕は無くならなかったし、機械人形にも勝ててたからだ。

「少し調査が足らなかったなアダム。……機械人形は、私達を封印した後に、生物に私達の力に反発する力を、今の人間につけたのだ」

絶対に許せねぇ事だと思った。あの時俺に言った救うという言葉は、奴隷になれといっているようなものだからだ。

「だがアダム、お前の力は人の内部から少しずつ侵食する力。力が弱かった事もあって、パワードのようにならなかったのかもしれない」

「申し訳ありません……」

「アの時の俺は、本気で人間を殺そうと思っていマしタ。腕にも力ガ入り、力ガ少し漏れてしマっていタカもしれマせん」

「パワードが身をもって調べてくれた情報だ。皆、有効に使え」

俺以外が返事をした。

「リガース様、ドラッグハ、今どこに……」

「どうした、復讐でもするのか?」

半分当たりだ。だがもう半分は、あいつの事だろうから、いつも通り半分笑いながら座っていると思ったからだ。

「あいつは、機械人形を倒すまで帰ってこない」

「と、言うと……?」

「私が与えた力に少し細工をした。奴は今、機械人形を倒す事だけに集中している。ここに帰ってくる余裕もない」

リガース様が少し笑った。だがそれは、俺達にとって恐怖以外の何物でもなかった。

「奴の力は、ここに居ては発揮できない力だ。もう数日もすれば、持っている薬も無くなる。そこからが、奴の本領発揮だ」

「ですガ、迂闊に人間を使えバ、俺のように……!」

「あいつの力はアダムと少し似ている。中途半端な脳味噌でもそれぐらいは考えられる筈だ」

「し、失礼しマしタ……!」

恐ろしい存在だと改めて実感した。この方に逆らってはいけない。この方を失望させてはいけない。俺は偶然生き残っただけなのだ。

だから次は、絶対に機械人形を壊す!


ーーーーーーーー


最近、何かがおかしい。

この間父さんのお見舞いに行って帰った時から、夜あまり眠れなくなった。

というのも、夜になるとどうでもいいことを考えてしまって、解決しないまま朝がくるからだ。

昨日は夜に眠れなかったから、学校で勉強に集中できなくて、家に帰ったら何で集中できないんだと夜通し悩んだ結果、また眠れなかった。

かといって、昼に寝られるかと言えば、そうではなく。授業に追い付けなくなったらどうしよう。とか、テスト前なのに大事な所ががでたらどうしよう。とか色々心配になってしまって、一日中休めないのだ。

でも、今日は何とか乗り切ることができた。授業中に考えてた事だけど、今日は早く帰って寝ようと思っている。

「刀耶、今日一緒に勉強しようぜ!」

そんな僕の肩を烈が叩いた。今日は僕の方がゾンビかもしれない。肩を掴まれる力も少し強い気がした。僕も勉強したいのは山々なんだけど、今日はすぐに帰って寝たかった。今日は断らなければ。

今日は……。と言いかけたところで、教室のドアが勢いよく開かれた。

「刀耶君、勉強教えて!」

立花さんだった。

「へへーん。俺が先に約束したんだもんね~」

「ずるいわよ烈!」

「何だよ、昨日で全部教えてもらったんだろ?じゃあもう勉強しなくていいじゃねぇか」

いつもなら、口喧嘩する二人を笑って見ていられるのに、今日は駄目だった。寝てないせいか、二人の声が頭の中でガンガン響く。

「まだ完璧じゃないのよ!」

「完璧」という言葉が、僕の心に引っ掛かった。

テストは普段の授業から出題されるから、当然いつも聞いていれば、満点がとれる。いや、取らなければおかしいんじゃないか?そんな気持ちが僕を襲った。満点じゃないってことは、授業を聞いてない証拠なんじゃないか。

僕の気持ちが休んでは駄目だと叫んでいた。

「そうだね。勉強、しよう……!」

僕は少ない力を振り絞り、立ち上がった。

「……刀耶、大丈夫か?」

烈が僕の顔を見て言ってきた。

「大丈夫だよ……!」

「でも、なんだか顔色も悪いよ刀耶君」

立花さんも僕の顔を見た。そんなに疲れているのかな。でも、やらなくちゃいけないんだ。

「大丈夫だって……」

「やっぱり、烈が毎日付き合わせてるからじゃないの!?」

「はぁ!お前だって一緒についてきてるじゃねぇか!」

喧嘩をする二人の声がさっきよりもうるさく聞こえた。

「2人とも……!!」

うるさい!と言おうとした瞬間、鞄の中のスマホが振動した。

なんでそんなこと言おうとしただろう。そんなこと、一度も思ったことがなかったのに。いつも2人が騒ぐのを笑顔で止めるのが楽しかったのに。どうして……?

「刀耶、スマホ……」

「あ、ごめん……」

鞄から取り出したスマホの画面を見た。お母さんからだった。

「もしもし……?」

「早く来て!お父さんが!」

電話の向こうの今にも泣き出しそうなお母さんの言葉に、僕はすぐに走り出していた。鞄なんて持つ余裕はない。手が離れなかったスマホだけを持って病院に向かった。

電話の声からするに、今度は普通の発作じゃないんだと感じた。どうしよう……。僕がいつも通り過ごさなかったから?烈や立花さんの事をうるさいと思ったから?僕の日常が変わったから、お父さんが悪くなったのかな?

嫌なイメージばかり頭に浮かぶ。

息も絶え絶えの中で病院に着いたけど、エレベーターなんか乗ってられない。走ってお父さんの病室まで行った。

「お父さん!!」

ドアを開けると酸素マスクをして寝ているお父さんの横でお母さんが手を握っていた。

「刀耶……」

「お母さん……?」

話を聞くと、さっきの発作は今までより危ないものだったらしい。ベットの上でいつも以上に苦しんでいるお父さんを見て、気が動転したお母さんは、すぐに僕とおじいちゃんに電話をしたんだって。

先生もすぐに来てくれて、今は何とか落ち着いたらしい。

「ごめんね……」

お母さんが真っ赤な目で言った。お父さんの手を握るお母さんの手が、少し震えている。

「ううん……」

2人ともが俯いたまま、時計の音だけが病室に響いていた。

そのまま何分経っただろう。廊下からスリッパのような床を滑る音が聞こえてきた。

「誠一ぃ!!」

おじいちゃんがさっきの僕と同じように入ってきた。

お母さんは、僕と同じような説明をして、安心したおじいちゃんは椅子にどかっと座った。

「2人ともすまんな。どうだ、少し外の空気を吸ってきたら?」

おじいちゃんの一言で、やっと僕とお母さんは目を合わすことができた。何を言うわけでもなく、2人で病室を出ると。

「と、刀耶……!」

「烈、どうして……?」

勢いよく教室を飛び出した僕を、後ろから追ってきていたらしい。全然気付かなかった。

「おじさんは……?」

「とりあえず、大丈夫」

「そ、そっか……。え、えっと……」

「2人とも、ジュースでも飲む?」

お母さんの提案で、僕達は病院の中庭にあるベンチにやって来た。手にはジュースを持ってたけど、喉が渇いていたので、中身はすぐに無くなってしまった。

「刀耶、学校楽しい?」

お母さんが僕と話すときに最初に聞いてくることだ。

「楽しいよ……」

嘘は言ってない。烈や立花さん、ほかも友達とも楽しく学校生活をしているから。

「そういえばテストが終わったら部活が始まるんでしょ?……剣道はもうしないの?」

「時間がないよ……」

「烈君はまだ剣道してるんでしょ?」

「は、はい!」

「昔はおじいちゃんに教えてもらって一緒にやってたじゃない?」

「今は勉強も大変になってきたから……」

「……お見舞いの回数を減らせば」

「……どうしてそんなこと言うの?」

お母さんはまた俯いた。

「刀耶はしたくないの?」

「したいけど……」

「じゃあ……!」

「お父さんが病気なのに、僕だけ遊んでろっていうの?お母さんやおじいちゃんが疲れてるのに、僕だけ笑ってろっていうの?」

「……お父さんだって、刀耶の事心配して」

「じゃあ、お父さんはいつ治るの!!」

今まで口に出せなかった事。言ったら何かが変わってしまいそうな事。僕の体の奥で溜まってた気持ちが、溢れてきた。

「去年の夏、僕は部活に入ろうとしてた!でもお父さんが倒れて、お母さんもおじいちゃんも忙しくなって、僕が何かするのがみんなに悪く思った。だから僕は、いつも通り……いつも通り毎日を過ごそうとした。僕が変わらなければ、みんな変わらないと思った……。お父さんだって!でも、今日みたいにお母さんが泣きそうな声で電話してきて、お父さんが段々弱くなっていくのを見て……。ねぇ、いつドナーが見つかるの?体に1つしかない心臓を誰がくれるの!?このままじゃお父さんは、し……!!」

溢れてくる言葉を止めてくれたのは烈だった。

「刀耶、それ以上は言っちゃ駄目だ!!」

でも、そんな烈の言葉にも、僕の心は反発した。

「烈はいいよね……。お父さんが元気で。いつもヘラヘラ生きてても大丈夫なんだから!!」

「刀耶っ!!」

お母さんの大きな声をはじめて聞いた。僕は怒られたんだ。そんな声に驚いて、気持ちが静かになったとき、烈大変な事を言ってしまったと自覚した。

「……」

烈の方を見られなかった。わざわざここまで来てくれたのに……。

その場にいられなくなった僕は、もう逃げるしかなかった。謝っても許してくれない。あんな酷いことを言った僕なんか、もう友達でも何でもないと思ったからだ。

病院を出た僕は、誰もいないところに行きたかった。走って走って、一人になれる場所に行かないと、これ以上誰かに会ったら、その人も傷付けるかもしれない。

少し細い路地に入ったその時だった。

ドンっ!

僕は何かとぶつかってしまった。

「おっと……」

「ご、ごめんなさい……」

どうやら人にぶつかったらしい。全身黒い服の人。あれ、この人は……。

「君は、この間もぶつかりましたね?」

そうだ。背の高くて細い。この間お父さんの病院の帰りにぶつかった人だ。

「何度もすいません……」

「……何かあったんですか?そんなの目を腫らせて」

僕は泣いていたらしい。男の人の顔もまだよく見えないほどに。

「嫌な事ですか?悲しいことですか?」

男の人は僕に笑顔で尋ねてきた。

「忘れたい事ですか?消し去りたい事ですか?」

少し楽しそうにも聞こえた。ふと、この間ぶつかった時に匂った気持ちが落ち着く香りがした。

「……はい」

何故かはわからないけど、返事をしてしまった。これが僕の気持ちなんだろうか?それを聞いて男の人も嬉しそうだった。

「そうですか、それは大変だ。そうだ!実はいい薬があるんですよ」

そういってコートの中から出したのは、小瓶に入った液体だった。

「これはですね。気持ちが落ち着く最高にいい薬なんですよ。少し匂ってみてください」

蓋を外してくれたので匂うと、今日あったことが全部忘れそうな位いい匂いだった。

「どうです、いい匂いでしょう?」

僕は正直に頷いた。

「実はこの薬を使った感想を聞かせて欲しいんです。この薬を使ってどんな気持ちになったか、使ってない時と比べてどうか、今度会ったときに私に教えて欲しいんです」

「今度?」

「私は、あなたが今日行きたいと思った場所にいます。誰からも話しかけられない、繋がらない、一人になれる場所に」

そして、訳がわからないまま男の人に薬を貰うと、僕は自然とその匂いを嗅いでいた。

「では、また今度。感想聞かせてくださいね」

そこから先の事は何も覚えていない。ただ、小瓶の匂いを嗅いで何もかもを忘れたかった。学校の事も、友達の事も、家族の事も、……お父さんの事だって。




ーーーーーーー


夕方、連絡を受けて、アースベースに向かった私と烈は急いでGAーXに乗り、現場に向かっていた。

「烈、大丈夫か?」

ついさっきまで、私と烈は病院にいた。その日はどこかおかしかった刀耶君に掛かってきた電話に、烈は心配してついて行ったのだ。

だがそこで、刀耶君の気持ちが爆発した事で、烈は落ち込んでいたのだ。

「ガイア。俺、刀耶に頼りすぎてたのかな?」

アースを介して烈の気持ちがわかる。確かに、烈は刀耶君を友達として頼りにしていたが、それは、もっと深い感情によるものだと私は思う。

「あの時の刀耶君は、様子が変だった。今度落ち着いた時に、もう一度話してみよう」

私にも刀耶君の気持ちはわかる。自分に何もできない事が起こったとき、自分の不甲斐なさが、とてつもなく憎くなる。人に当たってしまうのも無理はない。

「友達じゃなくなったらどうしよう……」

「大丈夫だ。刀耶君ならわかってくれる」

そう。私にも博士の事で兄弟達に自分の気持ちを話して、わかってもらえたんだ。烈と刀耶君にもできる筈だ。

現場に到着すると、植物達が建物に添うように根を張り、壁に蔦を伸ばして張り付いていた。

「先日倒した植物が吐いた種が発芽するとは……」

あの時吐き出された種は、青山さん達によって1ヶ所に集められていたのだが、その種が突然発芽したのである。しかし、1ヶ所に集められた種達は、あまり広がらず、1つのビルだけに何本も寄生していた。

「あれでは建物まで壊してしまう……」

植物の体が細く長いせいで、絡み付くダメージはあまり建物にはないようだが、剥がそうとしたり、切ろうとすると建物が倒れる危険性がある。

「どうすれば……」

「僕に任せて!!」

ヘルメスが私の上を飛んでいた。

「チェーーンジ!!」

するとヘルメスの乗った飛行機が、人型のロボットに変形したのだ。

「これでもくらえ!」

ヘルメスが手に持っていたソフトボールくらいの球をビルに投げつると、球は綺麗に弾け、ビル全体に液体が散布された。

すると、液体が掛かった場所から寄生した植物とは違う植物が生えてきたのだ。

キシャァアアアア!!!

伝う場所を追われた植物達は、次々とビルの壁から剥がしていく。

「特性のグリーンカーテンだ!」

「ありがとうヘルメス!!これで安心して戦える」

剥がされた植物が、寄生する場所を求めて、蔦を伸ばしてきた。

「ガイアソード!!」

私は剣を呼び、伸びてきた蔦を切っていくが、思った以上に数が多く、反撃ができない。

「兄さん任せて、ヘルメスアーチェリー!!」

ヘルメスの声に応えて、空から弓が飛んできた。まさかあれも博士の作った武器なのか?

「隙をつくるから、その時に!」

「わかった!いくぞ烈!」

「おぅ!!」

ヘルメスが弓を引き、植物の蔦の付け根を正確に射ぬいていくお陰で、半分くらいが私に届く前に地面に落ちていく。

「まとめ射ちだぁ!!」

ヘルメスがたくさんの光の矢をつがえ、一気に放つと、全てが植物に当たる。器用で大胆なヘルメスだからできる業だと思う。

「今だ兄さん!」

私は地面に落ちていく蔦を横目に植物に駆け寄り剣を振りかぶった。

「「ガイア、スラァアアッシュ!!」」

地面からまっすぐ延びた茎向けて、縦に振り下ろされた剣は、植物を真っ二つにしていった。

力を無くした植物は、力なく地面にへたりこむと、水分が抜けたように茶色く変色していった。

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