第6話 戦う力、守る力

対峙した私とパワードの体格差は、先ほどよりは無くなったが、それでもまだ、私のほうが小さかった。

「アァ?誰ダお前?機械人形ハ?」

ようやく目が治ったパワードが私を見て言った。

「今の私はグライガイアだ」

「ハ?アァ、でカくナっタのカ」

「私を応援してくれている者に与えてもらった力だ」

「俺を倒すにハ、マダ足りねぇぜ?」

パワードは鼻で笑っていた。

「いや、この星を護るには十分すぎる力だ」

「じャア、試してヤるよ!」

ドスドスと歩いてくるパワードに、私は恐怖を感じなかった。体が大きくなったからだけではない。

「くラえぇえ!!」

左拳のストレートが私の右頬に当たった。首すら動かない。まだ耐えられる。

「マダマダァアア!」

今度は右拳のアッパーが私の胸目掛けて飛んできた。

バキバキバキぃ!!

もちろん砕けたのは相手の方だ。おそらく一番強度のある胸に、もともと無い腕に急に作った右拳を力一杯当てたら、そうなることは目に見えている。

「うぉおおおお!!」

それでもパワードは向かってくる。足や頭、肩を使って攻撃してくるが、この屈強な体が、傷どころか、衝撃すらも無くしてくれていた。

そのおかげで、パワードが次にやろうとしていることもよく見えた。先程体を作ったのと同じように、周りにに散らばる瓦礫を集め、右腕を形成していたのだ。その大きさはさっきの5倍くらい。あれは少し気を付けなければならない。

「余裕カ、機械人形ぉお!!ナラ、これでもくラえぇえええ!!!」

一旦距離をとったパワードは、その重く大きい右腕を振り上げた。大きすぎて、影が私をすっぽりと包み込むほどだ。

もちろん、対策はあった。私は右拳を腰の横に構え、左手は狙いをつけるため前に伸ばした。

その直後、まるで隕石でも降ってきたかと思う拳が、私を襲った。硬く詰め込まれたであろうそれを避けるのは簡単だ。だが、避けたとすれば、周りに被害が出てしまう。だから私は、拳に力を込めた。

「はぁあっ!!」

腰の回転を利用して、私は拳を打ち出し、パワードの拳へと衝突させた。

当たった瞬間、バキバキと壊れていく家電製品の山が私の横を通って弾けていく。前腕、肘、上腕と私が伸ばした腕が届く限り、パワードの腕を破壊していった。



ーーーーーーーーーー


なんだこの力は?ただデカくなっただけなのに。俺が押されてるのか?いや、材料のせいに決まってる。こんなペラペラのプラスチックじゃあ、あいつの体を砕けねぇ。……俺の右腕が無くなっていく。

「アーァ……痛ぇ痛ぇ」

ふざけた野郎だ。こんな力を持ってやがったとはな。あーーあ、負けた負けた。

『どうしたパワード?』

俺の中で、突然リガース様の声が聞こえた。

『何をしている?』

あっと……、機械人形の力が強くて負けそう。……です。

『どうしてだ?』

材料が悪ぃ。ペラペラのゴミばっかで俺の体に全然馴染まねぇ。……です。

『お前の力は何だ?』

俺の能力は、触った機械を自分に集めて体を改造できる能力だったかな?

『機械人形は取り込めないのか?』

無理。……です。何か変な力が働いてるみたいでよ。

『私の力を使え。お前が体に着けた物に忍ばせてある』

マジ。……ですか?

俺は核となる元の体の一部を剥がした。すると、どす黒い液体がドバドバと溢れ、俺の体に馴染んでいった。やべぇ、すげえ気持ちいい!!

『それをその辺りのものに混ぜて奴にぶつけろ』

ありがとうございます、リガース様!!よっしゃあぁやってやるぜぇえ!!!

『ドラッグも見てるぞ』

はっ?なんであいつが?

『いや、いい。骨は拾ってやる』

必要ねぇよ!!俺が機械人形をつぶすんだからなぁああ!!!



ーーーーーーーー


「ガァアアアアアア!!!!」

パワードの突然の豹変に、私は一瞬戸惑った。諦めのような感情が垣間見えた気がしたのだが、吹っ切れたように本能的に私に襲いかかってくるのだ。

子供のように体全体で当たってくる攻撃は受け止めるのが難しい。力が分散してしまって、どこに力を入れていいかわからないからだ。

「ガァアアアアアア!!」

しかしそんな事はパワードには関係なかった。体の大きさを利用して力で押し込んでくる攻撃は、私を押し潰すように向かってくるのだ。咄嗟に私は体をひねった。この重量の体で態勢が不利な状況を作りたくなった。

急に無くなった壁に対応するのは難しい。パワードは、直線のみの力のせいでバランスを崩し、子供が転けるように顔から滑り込んだのである。

ずざぁ。と音を立てた巨体は、周りにあった建物を巻き込んで倒れた。

「……ガァアアアアアア!!」

それでもすぐに立ち上がり、今度も体当たりのような攻撃をしてくるパワード。

そう何度も町を破壊させたりはしない。私も今度はどっしりと腰を落とし、パワードの肩を抑えるようにして攻撃を受け止めた。だが。

「ガァアアアアアア!!」

それでも肩を揺らしながら迫ってくる彼を、私は止めることができなかった。

どしゃぁ。と滑り込んだ結果、また建物が壊れてしまった。幸い、この辺りはゴミの集積施設だ。建物は多いが、人は少なく、青山さん率いるアースベースの職員によってすでに避難を終えたと知らせも入っていた。

だが、これが街中だったらと考えた時。アースベースのみんなと考えなければならない事だと思った。

「くっくっくっく……」

倒れたパワードは、左手をつきながら笑っていた。

「何が可笑しい?」

「いヤァナ、馬鹿みタいダと思ってよ……」

「諦めたのなら、話をしてくれないか?」

「ちっ、しょうガねぇナ……」

ゆっくりと振り向いたパワードは、その場にどっしり座り込むと、私の目を見て答えた。

「あの島には何があるんだ?」

「何にもねぇよ。机と椅子くれぇダ」

「さっき言っていたリガースとは何だ?」

「ア?自分ガ閉じ込めタ奴すラ忘れタのカ?」

「あなたの仲間なのか?」

「そんナんじャねぇよ」

「学生服を着ている少年がリガースか?」

「ハっ?アんナヤつと一緒にするんじャねぇよ」

「教えてくれ、あの島にはどれくらいの人間の魂達がいて、あなたはあの島でどうやって生まれて、あなたのほかにも話せる人はいるのか」

「質問ガ長ぇ、疲れる。殺すナラ、さっさと殺せ」

「答えてくれ」

「俺にも質問させろよ……。確カ、お前を作っタのハ結城博士ダっタカ?」

「そうだ」

「覚えてるぜぇ。自信満々にお前を紹介しタ時をよぉ。テレビで、いヤ、戦地で、いヤ、その場ダッタカナ。俺ハ見てタ。マタ兵器ガ増えて嬉しカっタ。これで俺達ハ勝てるって思っタぜ」

「私は、兵器ではない」

「機械に生まれタのナラ同じダ」

「私は人類の友となるべく生まれたんだ」

「世界ハ、おママごとじゃねぇんダよ」

「博士は平和な世界を目指して、私達を創ってくれたんだ」

「それガ無理ダっタカラ、俺達ハ戦っタんダよ」

「なぜ平和に暮らせない!」

「何故って?そりャ人ガ良く見えるカラダよ!アいつハアんナに良いのに、ナんで俺ハこんナに悪いんダって思うカラダよ!!」

「互いに思いやれば、出来た筈だ!」

「それガ人間ナんダよ!お前達機械とハ違う!」

「私は、機械ではない。新しい命なんだ!」

「ぶぅふううう!!!笑ワせんナよ!!」

パワードは腹を抱えて笑っていた。

「ヤっパり狂ってヤガるナ。ヤハりリガース様ハ正しカっタ」

「戦うしかないのか?」

「ハァ、何言ってるんダ?俺ハ最初カラお前を殺しに来てるんダぜ!!」

不気味に笑ったパワードは、おもむろに左腕を上げた。

「話に付き合ってくれタお礼ダ。タっぷり受けとれ!!」

その直後、私は左脚に衝撃を受け、膝を付いてしまった。先程の攻撃とは全く違う。硬く重い一撃だった。

「どうしタ機械人形ぉ?立てよ」

私が視線を上に戻すと、よいしょと立ち上がったパワードが私を見下していた。

「……何をした?」

まずいと思った私は、すぐに立ち上がろうしたが、それを拒むように今度は右脚に衝撃が走り、私は両膝を付いてしまった。

「無様ダナァ機械人形ぉ!!」

パワードは右肩を振り上げ、また腕を作り始めた。固まっていくそれは、先程と変わらないように見えたが、拳を作り始めたその時、攻撃してきた正体がわかった。真っ暗な塊が腕の先に付き、まるで本当の手のように拳を握ったのである。

「それはなんだ……?」

「これガリガース様の“力”ダ。美しいダろ?」

不意に振るわれた拳が私の胸に当たると、ミシミシぃ!!という音とともに私の体が悲鳴を上げ、私の体は宙に浮いていた。

高笑いするパワードの声が聞こえ、私は地面に落ちた。

「くっ……!!」

「大丈夫かガイア!」

「あ、あぁ。だが……」

せっかく創ってくれたこの体が傷付いてしまった。ヒビや凹みがパワードの力の強さを表していた。

「帰ったら健太郎さんに謝らなければな……!」

それでも私は立ち上がらなければならない。私が負けてしまったら、今の地球に生まれた命に申し訳が立たないからだ。

私はゆっくりと体を起こした。大丈夫。まだ動ける。

パワードは少し離れたところで、私の様子をニヤニヤしながら見ていた。

「おうおう、マダ立つのカ?」

「私が負けるわけにはいかないんだ!」

「じャア諦めるマで、痛めつけるしカねぇな!!」

パワードが両腕を大きく開くと、周りに散らばっていた瓦礫達が、各々集まり、色々な形に変化し空中に浮き始めた。大きさはワゴン車ぐらい。数は、20以上ある。

「サァ、いつマで保つカナァ!!」

おそらくあの全てに、パワードの右手と同じ力があるのだろう。

「死ねぇええええ!!」

掛け声とともに、襲いかかってくる瓦礫達に対し、私は腕を交差し、なるべく体を小さくして体を守った。

容赦のない攻撃が私の体を傷付けていく。どうにかして、チャンスを作らなければ。

体を傷付けている瓦礫は大きさもまちまち。しかしダメージはあまり変わらないように思える。もしかしたら瓦礫達の先端以外は、普通のものではないだろうか。だとすれば、先端以外を狙えば、私の攻撃も効くはずだ。

再び前からやって来た瓦礫に私はわざと体をぶつけてみた。もちろん先端ではなく横の方を狙って。

グシャ……。

案の定、瓦礫は勢いで凹んだ。よし、いける!

「ふラついてるぜぇ!サっサと倒れろよ!」

パワードにはバレていないようだ。ならば……!

何度か襲う瓦礫達の動きを見つつ、前から来た瓦礫が通りすぎたのを見計らい、私はパワードに向かい走り出した。

「ハァっハっハっハ!!!来タナァ!!!いいぜぇ、挟み撃ちダァ!!」

読み通りとパワードは拳を構えるが、私のほうも読み通りだった。

「烈、瓦礫は!?」

「後ろから来てる!タイミングは任せろ!」

烈は私のやろうとしている事を理解してくれている。

「こいよ機械人形ぉおお!!!」

パワードが拳を振り上げたその時だった。

「今だっ!!」

「ガイアソォオオオド!!」

その瞬間、私の後ろにあった瓦礫は一瞬で崩れ落ちた。同時に、振り下ろされたパワードの拳を、私は剣で受け止めたのである。

「ハァ?」

さすが博士の創ってくれた剣だ。あの力に負けていない。

「ナマくラ剣ガ頑張るじャねぇカ」

「この剣は博士が私に残してくれたものだ。そう易々と、折られはしない!!」

しかし、小さい私が扱って少し大きいサイズの剣だ。当然だが押されてしまう。私は一旦攻撃を弾き、先程打ち落とした瓦礫を飛び越えて距離をとった。

「アァアァ、勿体ねぇ……」

崩れ落ちた瓦礫を見てパワードが右手を伸ばすと、磁石のように瓦礫達が集まっていく。

「せっカくリガース様カラもラっタのによぉ……」

パワードは瓦礫の黒い部分だけを取り出すと、自分の中にしまっていく。そして残った瓦礫で大きなボールを作った。

「ゴミハ、要ラねぇ!!!」

おそらくそうくると思っていた。丸くなった瓦礫が私の視界を覆うように投げられたのだ。だが、対策は考えてある。

「はぁあ!!!」

剣を振り上げ、その勢いで瓦礫を切る。こうすれば、次にパワードの攻撃が攻撃してきても対応できると思ったからだ。

タイミングは完璧。思った通り、瓦礫は真っ二つに……。切れてない!!

「バカガァアアアアア!!!!」

瓦礫は私の腕ごと剣に巻き付き、さらには飛び出た鎖のようなものを地面に飛ばし、私の動きを止めた。危険だと思ったときには、すでに目の前に拳を握りしめたパワードが迫っていた。

「今度こそ死ねぇえええ!!!!」

パワードの右手は力を全て集め、巨大化していた。あれを受ければ、一溜まりもないことはすぐにわかる。だが、反応できない。

拳が当たる、その瞬間だった。

「アっ?」

急にパワードの体が動かなくなった。まるで、後ろから何かに引っ張られるように、前のめりのまま止まっていた。

「う、動カねぇ何でダ!何でダよ!!どうしちマっタんダよ!!」

勝利を確信した顔が、一瞬で崩れる。何かが不具合を起こしているのか?いずれにせよ、原因にせよ、今がチャンスだ!

「うぉおおおお!」

まとわりついた瓦礫から剣を引き抜こうとしたその時、私は持ち手の不思議な感触が気になった。体が小さい頃は力が無くわからなかった事だ。

柄が回転する……?

「……っ!!わかったぞ!ガイアソォオオオド!!」

手首をひねり、柄を勢いよく回した瞬間、緑色の光とともに剣が形を変え始めた。

柄はより長く、鍔はより広く、そして刀身は包んでいた瓦礫を突き破るほど長くなった。

「何ナんダよ!そりゃァア!!」

まさか、博士はここまで見越して……?いや、今は目の前の魂たちに集中だ!

「パワード、これからは新しい地球で過ごすんだ!」

「ふザけんナァアアアアアア!!!俺ハこんナ所で死ねるカよぉおおお!!!」

首だけで無理やりに動こうとするパワードに、体の隙間から蔦のような植物がパワードの顔面を押さえつけた。

「ガァアアアアア!!!ド、ドラッグぅううううう!!!貴様ァアアアアアア!!!」

「いくぞ烈!!」

「おう!」

私は瓦礫に埋まった剣を引き抜き、再び空へと掲げた。

「「グラァアアアアイ、スラァアアッシュ!!」」

パワードの脳天目掛け振り下ろされた剣は、瓦礫の体を真っ二つに叩き切っていく。バチバチと飛び散る火花が、体のあちこちでショートし、火の手が上がる。

「くそガァアアアアア!!!!」

苦しみながらも睨むパワードから黒い煙のようなものが溢れるのが見えた。その中の魂たちを数えることはできなくても、私はすべてを見送らなければならない。地球を創り変えた私は、謝らなければならないかもしれない。前世の人間に責められなければならないかもしれない。ただ、地球を創り変えて、誉められてもいない。しかし、自己満足でもない。

助けを求めていた人はいた。その代表がアテナさんだ。私はそんな人達の勇者となるために、地球を創り変えたんだ。

ボフン!!

私のダメージも相当なものだったらしい。私は剣を地球に戻すと、ゆっくりと膝をついた。そのままアースベースからの迎えが来るまで、じっとしていたのだが、弟たちに連絡をとろうと思い、すぐ下の弟に通信を送った。




ーーーーーーーー




僕が地上から帰ってくると、大きな机にはリガース様がいらっしゃり、ついでにドラッグもいた。

「よく戻った」

「リガース様、こちらでございます」

僕は手に持っていた小さな箱を渡すと、リガース様は「こんなものか」と言い、軽く投げて遊んだ。

「ドラッグ……」

「は、はいリガース様!」

「これが何だかわかるか?」

「い、いえ……」

小さな箱は事前にリガース様から、パワードが負けたら探してこいと言われたものだ。

「パワードが負けたな……」

「……はい」

「何故、最後にパワードの動きが止まったのだろうな?」

ドラッグは黙っていた。

「あれも機械人形の力だったのか?」

ドラッグは答えられなかった。

「あと少しで機械人形が倒せたのに、あの力は何だったのだろうな?」

ドラッグは俯き、脚を小刻みに震わせていた。

「私の邪魔をする者は、機械人形だけ、なのだろうか?」

「私は決して!!」

「何故、お前が動揺しているのだ?」

自業自得だ。私は少し離れて楽しむとしよう。

「これはパワードの核だ」

ドラッグの顔が驚きと恐怖に変わった。

「パワードは、戦争の時に体を改造されて送り出された兵士の魂を集めたものだ。だから体の半分以上は機械で、自分が傷ついても、強化することに喜びを感じていた。そんな奴等の行き着く果てがこれだ。こんなちっぽけな入れ物に意識だけをいれる。そうすることで、体は自由に改造できるし、自分という意識は保てる。馬鹿が頭を使って出した答えだが、今は誉めてやりたい。何せ、最後に動かなくなった理由を答えてくれるんだからな」

リガース様の手に力が宿った。

「さぁ、教えてくれパワード。最後に誰が邪魔をしたのかを……!!」

その瞬間、ドラッグが胸元に手を入れたのを、僕は見逃さなかった。

「離せアダム!!」

「リガース様の前で見苦しい真似はやめろ」

「ドラッグ」

名前を呼ばれた瞬間、ドラッグは床に倒れるように手をつき、創造主のもとへと這っていった。

「リガース様ぁ!!お許しを!!お許しを!!」

無様な姿を晒すドラッグに、リガース様は優しい微笑みを向けていた。

「ドラッグ、知恵を貸せ。次は誰が機械人形を、殺しにいくのかを」

「私が!私が行きます!行かせてください!!」

「よし、ではお前にも力をやろう。存分に使うがいい」

「あり、ありがとうございます!!!このドラッグ、必ずやリガース様の前に機械人形の首を持って帰ってきます!」

そう言うと、ドラッグは直ぐ様闇の中に消えてしまった。

「リガース様、よろしいのですか?」

「もう、逆らう者はいないな?」

「やる気のない奴を除けば、居よう筈がありません」

「ファットか……。あいつは別に使い道がある。いずれな」

これがリガース様の思い描いたシナリオ。素晴らしい。流石は僕達の父親だと素直に思った。

「さて、パワードを戻さなければ」

リガース様は改めて力を込めると、まるでゴミでも捨てるように後ろに放り投げた。闇の中から鼓動が聞こえる。床、いや島全体が少し引っ張られ、ぐちゅぐちゅと何かが生まれる音がした。

「リガース様、アりガとうごザいマす」

「ご苦労だった」

「いえ、期待に応えラれず、申し訳アりマせん」

パワードとは思えないほど改まった声に、顔には出さなかったが正直、驚いていた。

「ドラッグはもういいな?」

「リガース様のお手を煩ワせてしマいマしタ」

「いや、構わない。パワード、その体、もう代えはないぞ」

「2度と負けマせん!」

「いい意気だ。下がれ、力を戻せ」

「ハっ!!……アダム、すマナカっタ」

そうしてパワードも闇の中に消えていった。

「アダム、ドラッグは勝てると思うか?」

「今の機械人形であれば必ず勝てます。しかし……」

「ほかの機械人形か?」

「はい、確か機械人形は他にも5体いたはずです。全て揃ったときが厄介かと」

「そうだな。流石はアダムだ」

リガース様に褒められた事が、とても嬉しかった。




ーーーーーーーーー



ここは、太陽系第一惑星「水星」。

僕の住む星は、お水がこんこんと湧くスーパーウォータープラネット。だと思っていた。

みんな知ってる?水星っていうのは太陽から一番近くにある星なんだけど、それってものすごい過酷だってことなんだ。

まず気温ね。太陽の直射日光バリバリで、めっちゃ暑いくせに、空気がないから、日光当たってないところはめっちゃ寒い。暑さはなんていうか……。溶ける……熔ける……融ける。うん融ける。

寒さだって凍るっていうか……動きたくても、動けない感じ。だから今は、半分熱くて、半分冷たいところで過ごしています。

あと地面ね。クレーターがいっぱいで凸凹。穴掘ろうと思ったけど地面が硬くてね。まぁ星だからしょうがないよね。だから今は、クレーターの壁に穴を掘って生活してるんだ。

えっ?何でいるのかって?

それはね、僕がここに来たのがえっと……50億年前くらい。兄さん……、えっと、僕は6人兄弟なんだけど、僕は次男でね。僕の兄さんっていうと、僕たち兄弟の一番上のお兄ちゃんってことになるんだけどね。

その兄さんがね。すごいんだよ。その時ピンチだった地球を救うために、地球を創り変えるって言いだしてね。

本当にやっちゃうんだからすごいよね。兄さんはいつもかっこよかったけど、その何倍も何倍もかっこよく見えた。

で、その力に巻き込まれちゃいけないから、僕たちも少し力をもらってそれぞれ自分の名前に関連する星に向かったんだ。

その後も少し連絡はとっていたんだけど、今はこの星で悠々自適なサバイバル生活。お父さんが帰ってくるまでのね。

さぁて。今日は何が起こるかな?大抵のことは対応出来るようになったんだよね。

「ねぇ……」

ピピピピ!!

「わぁっ!!」

原始人が初めて目覚まし時計を聞いた気持ちがよくわかった……。

「びっくりしたな、もうっ!!」

この音は、僕たち兄弟が連絡するときに鳴る呼び出し音。最近ほとんど使ってなかったから余計驚いたよ。ちなみに、僕がハブ……ヘビじゃないよ。僕が端末を仕切ってるから、誰かと話したいときには、僕が繋いであげてるんだ。

さって、誰からだろう?

「兄さんからだ。もしもーーし」

「ヘルメス、今大丈夫か?」

何だが兄さんの声が疲れてる。何かあったのかな?

「大丈夫だよ。どうしたの?」

「頼みたいことがあるんだ」

「僕らが兄さんの頼みなら、何でも聞っきましょう!!」

「あぁ、実は……」

ここからが兄さんが地球を創り変えた後の話。創り変えた時に浄化できなかった魂があったのは聞いた。その後、何もなかったらいいね。と言ったのも覚えてる。

今兄さんは、その浄化できなかった魂と戦っている。昨日戦ったやつなんか、すごく強くて、今兄さんはボロボロだって言うじゃないか。

「大丈夫なの!?」

「協力してくれている人達に今、治してもらってるから大丈夫だ」

兄さんは正しい事をしたんだ。それが今の人間に伝わってよかった。ていうか今、兄さんは動けないとなると……。

「じゃあ頼みたいことって……」

「地球に来て欲しいん……」

「了解っ!!」

嬉し過ぎて食いぎみになっちゃったよ。待ってました!兄さんは僕達に心配かけないように、いつも大丈夫って、来なくていいって言ってたのに。

「き、来てくれるのか?」

「もちろんだよ!!みんな呼べばいい?」

「そうして欲しいんだが、みんな来てくれるだろうか?」

「みんな会いたいに決まってるでしょ!連絡したら僕はすぐ出るよ。いつでも帰れるように準備してたし」

「準備もしてくれてたのか。ありがとう」

「へへへ~♪」

僕は兄さんに追い付くために、この星で頑張ってたんだよ。いつか兄さんが僕に頼ってくれるように。兄さんを助けたかったんだ。

「ごめん、こんな事で通信してしまって」

「何で謝るの?じゃあすぐ行くからね。つのる話はその時にね!」

「……ありがとう」

通信を切った僕はウキウキで弟達に連絡をとった。まず僕のすぐ下の弟。

「もしもーーし。えっ?何って?兄さんがピンチだから地球に集合!なに、えぇ?!準備してないの?もぉ、何してたんだよぉ。一番近いんだからさぁ。準備しておかないと!はいはい。じゃあよろしくね」

怒りっぽいのは相変わらずだな。次にその下の双子。

「もしもーーし。二人ともいる?えっ?なんで?ふんふん。で、なんで喧嘩したの?ふんふん。いや、兄さんから貰った力で何やってるんだよ……。ちょうどいいや。兄さんが呼んでるから地球においで。話聞くから。兄ちゃん先に行くからね。来るときに喧嘩して何か壊さないようにね。はーい」

なんであんなに仲が良かったのに喧嘩してるんだ?それに喧嘩がパワフルすぎるよ……。

よし、最後に末の弟。大丈夫かなあの子は?それに冥王星だから通信繋がりにくいんだよな。

プルルルル。プルルルル。

ん?なんで電話のコール音なんだ?機種変した?

「あ、もしもーーし。今何してるの?うんうん。機種変した?あぁ。通信機能分けたのね。了解了解。それより兄さんが呼んでるんだけど……。うん。……大丈夫?いや、そうじゃなくて。うん。えっと、兄ちゃん先に行くし、みんなも来るからゆっくりで大丈夫だよ。うん。本当に大丈夫?まぁそれはわかってるけど。うん。じゃあ待ってる……」

末の弟は少し人間に対して思うことがあってね。いい子なんだよ?でも父さんの事もあったし、やっぱりね。

「行くんですか?」

「うん、もちろん。一緒に来てくれる?」

「アテナが心配ですからね。同じ太陽系の意思として」

「優しいねぇ!」

「それに、太陽の事でそろそろ話さなくてはならないことがありますから」

彼女は、僕が水星に来たときに出会った……人?兄さんの力で見えるようになったらしい。この星で生きる方法は、大抵彼女から聞いた。そのお陰で、僕はサバイバル生活をしながら準備ができたんだ。

兄さんのために準備したもの。それが、この星の地下にある。僕はそれを使って、兄さんを助けるんだ!

「よし、じゃあ行こう!」

アテンションプリーズ、アテンションプリーズ。当機は水星発、地球行きのジェット機でございます。シートベルトをお締めください。超高速で参ります!

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