第5話 完成!!グライガイア

この島は私自身だ。たくさんの私が集まり、作らされた場所。私はこの50億年間でこの屈辱を忘れた事はない。機械ごときが創造主である人間を滅ぼすなどあってはいけないからだ。

私を作っているもの。それは他人より良くあれというもの。武力、知力、財力、地位、名誉……。これらは世界に競争と発展をもたらしてきた。何も悪いことはない。強きものが残り、弱きものは死に絶える。弱肉強食の原理だ。

しかし、生き物ではない機械は、その原理を簡単に否定する。貴様が作られ、動き、話せるようになったのもそのお陰だったのを理解していない。

それをわからせるために、今日まで我慢してきたのだ。そのために出来損ないばかり産んでしまったが、捨て駒はある程度必要だ。最後にあの機械人形を倒せればそれでいい。倒したあとは、再び競争と発展の世界に戻し、強き星を目指すのだ。

「リガース様、お疲れですか?」

「考え事をしていただけだ」

アダム。私が最初に作った人形。これの元になった力は、少し面白い。

「失礼しました。良ければその考え事を僕にも教えていただけないでしょうか?」

私が力を失っていた時にも、忠誠心を絶やさなかった唯一の存在。その生まれに関係しているのだろう。

「機械人形を壊した後にどうするかを考えていた」

「元の世界に戻されるのですか?」

「……いいや、元の世界では生ぬるい。更なる技術革新と生産量増加をもって、宇宙に進出し、人類をさらなる進化へと導いていく」

「……す、素晴らしい!」

子供のような目をして……。お前も捨て駒であることに変わりはないのに。可愛いやつよ。

「リガース様、その計画、私にもお手伝いをさせてください」

「ドラッグ……、力は戻ったのか?」

「力は戻ってなくとも、私には頭脳があります!」

お前にそれは期待していない。頭脳ならアダムやガベージがいる。お前は常時薬を使い、力を貯めろ。薬が無くなったときが、お前の存在を誉めるときだ。

「……わかった。考えておく」

「ありがたき幸せ」

捨て駒は泳がせておくのがいい。いい気分にした後だと捨てるときに行かせやすいからな。

私は目を閉じた。さて、どうやってあの機械人形を壊してやろうか……。

「リガース様ァアアアア!!!」

五月蝿い。

「リガース様ァアアアア!!できマしタ!できマしタ!!」

「うるさいぞパワード!!」

ドカドカと近付いてくる影は、以前よりも巨大だ。

「どうしたパワード。聞こえているぞ」

「パワード様、見てくダサい!!」

そこには、殆どが機械となった姿があった。腕にはドリルやチェーンソーが、脚にもハンマーや大砲がつけられているほか、全体がありとあらゆる機械を取って付けたような体になっていたのだ。

「どうですこの体っ!美しいでしょう!?」

「パワードお前、リガース様が作られた大事な体に何て事を……」

「でもリガース様ハ存分に改造しろと言ってくれタぞ?」

頭脳を期待していない筆頭が、私の期待通りに動いてくれた。脳筋はただ、体を鍛えればいい。

「素晴らしいぞパワード。それで機械人形を壊せるのだな?」

「もちろんでごザいマす!!必ずヤ機械人形をぶっ潰して、リガース様の前に届けタいと思っておりマす!」

「そうか、嬉しいぞ。では行ってくるがいい」

「ハハァ!!じャア行ってくるぜお前タち!!」

「待ちなさいパワード」

ドラッグがパワードを止めた。

「そこに落ちていましたよ」

ドラッグの手には、包丁の羽が付いた換気扇のようなものが握られていた。

「おう、すマねぇ!背中に付けてくれ!」

ドラッグは言われた通りに付けてやった。

「じャア行ってくるぜ!」

ドラッグよ。あんなゴミをどこで拾ったのか知らんが、相手がパワードでよかったな。プアでも気付いていたぞ。貴様がパワードにゴミ以外の何をつけたのか想像はできるが、私の計画の邪魔をするのであれば、捨て駒にする前にお前を消すぞ。

「ドラッグ……」

「な、何でしょうっ!」

「……いや、何でもない。早くお前も力を戻すんだな」

「はっ……!」

ドラッグは足早に私の前から姿を消した。

「いいんですか?」

アダムが心配そうに尋ねてきた。

「責任はとってもらう」

私の力を見せるときが近いようだ。


ーーーーーーーーー


戦車を倒した週の土曜日。烈は私を連れてアースベースに来ていた。

「いやー本当に良くやってくれた」

獅子神長官は、自慢げに烈の前を歩いている。烈はというと私を肩に乗せていたのだが、服が少し乱れ、少し疲れた顔をしていた。

その原因というのも、私達がアースベースに到着して早々。多くの職員に囲まれたからである。よほど戦車との戦いがみんなに届いたのだろう。映画スターの凱旋のような騒ぎが起こったのだ。

「ありがとうございます……」

「私も見ていたが、君とガイアの勇姿は、私達アースベース職員の胸に強く刻まれたよ。私達の取り組みが無駄ではなかったんだと教えてくれた」

因みに映像は録画しているらしい。アースベースの空気が以前より明るくなっている気がする。今まで緊張感の中で働いてきたみんなにとっては、何より嬉しかったんだろう。当然、私だって嬉しい一人だ。

「そういえば、今日は何で呼ばれたんですか?」

「先日の戦闘で使った機材の説明をしておかなければと思ってね。ちなみに今日はお父さんは休みだよ」

健太郎さんは、仕事のしすぎと注意され、今日は強制休暇となっている。

烈と私が技術課をお邪魔すると、以前説明を受けた休憩所に男性が1人座っていた。

「緑川さん、お待たせしました」

大柄の男性は重たい体を立たせ、獅子神長官に礼をした。見るからに無骨で職人気質の男性。爪の隙間には長年の仕事でついたであろう油が落ちずに残っていた。

「赤兎君。こちら技術課で機械の組み立てをやってくれている緑川繁雄さんだ」

「よろしくお願いします!」

自分の祖父に慣れている烈は、動じず挨拶ができた。そんな烈をじっくり見ていた緑川さんは。

「健坊にそっくりだな」

「健坊?」

「お前の親父だよ。とりあえず説明するからついてきてくれ」

しっかりとした足取りで歩き出した緑川さんの後ろを私達は着いていった。私も奥の方は見たことがなかったので、少し楽しみだ。

(なんでこいつなんだよ……)

私にだけボソッと聞こえた。

ドーム状の部屋はやはり広い。端を見ることができればいいが、山積みの段ボールや機材やらで広さが全くわからない。

「ここも整理しないとね……」

「すいません長官。少しずつ減ってはいるんですが……」

段ボールの森を抜けると、広いスペースが現れた。そこにもたくさんの機材があるのだが、一応は作業スペースとして、技術課の方たちが個々に作業したり休憩したりしていた。真ん中には、先日見た私のレプリカと車もある。

「長官が来たぞぉ!」

緑川さんの大きな声は、部屋全体に響くぐらい大きかった。烈と私はとても驚いたが、慣れている技術課の方たちは少し遅れて手を止め、こちらを見て挨拶をしてくれた。

「マシンの説明するぞぉ!休憩組ぃ、付き合えぇ!!」

今度は緑川さんの言葉にすぐに反応した人達が、大急ぎで集まってきた。その手には分厚い資料や電卓、小さな模型を持っている人もいた。そして集まった人は皆、目が輝いていた。

「立って説明するが、いいか?」

「はい!大丈夫です」

緑川さんもさっきより活き活きしているみたいだ。

「ん。じゃあまずガイアのレプリカから説明するぞ」

すると、集まってきていた人が協力して私のレプリカを台車に乗せて運んできてくれた。

「こいつは、この間お前達が使ったガイアの体を忠実に再現したもんだ。……使ってみて、どうだった?」

「凄かったです!俺が運転してるみたいでした!」

「ガイアは?」

「反応のラグも無くて、動きも滑らかでしたよ」

「なるほど、嬉しいが、こいつはまだまだなんだ!」

悔しそうに私のレプリカを触った緑川さん。周りの人達も大きく頷いている。

「こいつは俺達の技術の粋を集めて創ったもんだ。それはもう自信があった。いい仕事したぜって思ったよ。でもな、本物を見て愕然とした」

緑川さんは悔しそうに拳を握った。周りの人達も歯を食いしばっている。

「ガイアに1つ聞きたい。本当に1人で創ったのか?」

私は頷いた。私の記憶だと弟達は私が手伝ったりしていたが、私自身はおそらく博士1人だったと思う。

「設計は緻密、部品は手作り、組み上げに至っては神業と言っていい。技術者としてレベルが違いすぎる」

確かに、博士の創り方は独特で、整備を頼んだのはいいが、私が全て指示をして作業をしてもらっている。

「でも皆さん、ミスなくやってくれていますよ?」

一流の技術者に整備してもらえて私は幸せ者だ。

「本当か?」

「……? 本当ですよ?」

「俺達は当たり前の事をしてるだけなんだが……」

それが大事なんです。と私は言った。私の体は複雑そうに見えて単純作業の組み合わせだ。例えミスがあってもいくらでもフォローできるので、私の整備には一般的な知識があればいい。

「あんな難しい構造のくせに、ミスなく出来るってのは逆におかしいってみんな話しててよ。それが不安なんだよ」

また周りの人が頷いている。さっきよりも深く大きい。

「神様だっていきなり地球に人間は創れません。私の体も同じです」

「やっぱりお前の博士は神様なんだな」

「でも、私を創った時は人間でしたから皆さんと一緒です」

次に私が博士と会ったときは、本当に神様になっているのだろうが。

「なるほど、心に刻んでおく。とにかく我慢して使ってくれ!使う毎に動きやすくなるように、俺達も頑張るからよ!」

緑川さんは今度は少し歩いて車の前に立った。

「次はこいつだ。ガイアが乗り込むことによって変形するマシン。その名も……」

「地球号だよ、れっくん!」

突然烈の横に女性が現れた。女性といっても烈と歳が近そうだ。烈より少し背が大きくて、黒髪は後ろでおさげにしていた。眼鏡をかけていて、少し大きな白衣のポケットに両手を入れて地球号?を見ていた。確か彼女は烈がアースベースに初めて来たときに、飲み物を持ってきてくれた子だ。

「沙弥っ!お前、ほかの仕事はどうした!?」

「とっくに終わったよ!ていうか酷くない?せっかくれっくんが来るのに、私をほかの部署に行かせるなんて」

ねー、れっくんと付け加えた彼女はもう一歩、烈に近づいた。それを見ていた緑川さんはわなわなと震えていた。

「あ、あの……」

「なーに、れっくん?」

「何処かで、会ったことあります?」

その瞬間、彼女の笑顔が固まった。

「……えっ、私の事覚えてない?」

「初めてここに来たときに、飲み物を持ってきてくれた人ですよね?」

「ち、違う違う!私、緑川沙弥!昔れっくんの家の近くで遊んだよね?!」

「えっ……。ご、ごめんなさい。覚えてないです……」

私も、覚えていないな。遊んでいたのは大体刀耶君か真菜ちゃんか、青山さん兄妹くらいだったからな……。

彼女の顔がどんどん悲しみへと変わっていく。

「……れっくんのバカぁあああ!!」

沙弥さんと呼んでおこうか。彼女は泣きながら走っていってしまった。烈はと言えば、ただ立っているしか出来なかった。

「えっと……」

(よし……!!)

緑川さんの小さな声とガッツポーズが見えたが、ここでは言わないでおこう。

「あ~、あいつは俺の娘だ。まぁ、気にしないでくれ。それより説明の続きだ……!こいつはGAーX。お前達のサポートマシンで、お前達の意識が共鳴したときに変形できる。こいつは俺達が創った!」

自信満々な緑川さんに、周りの人達も胸を張っていた。

「さて、質問は?」

緑川さんの言葉に、何故か視線が私に集まる。周りの人も体が前のめりになって、今か今かと持ってきた資料を強く握りしめていた。

あぁ、これはあれだ。所謂、新商品発表会なのか。

「えっと、では……」

「どうやって俺とガイアの意識が合わさったんですか?」

烈、そこじゃない!緑川さん達が聞いてほしいのは機械の方だ!ほら見るんだ!さっきまであんなに生き生きしていた緑川さん達がみんながっかりしているぞ。

確かに、烈は戦車を倒した後、保健室で目覚めたからわからないだろうが。

「赤兎君、それは私から話そう」

肩を落としている緑川さんの代わりに、獅子神長官が説明してくれた。

「あの日、長い滑り台を下りてきた最後に、アースを見なかったかい?」

「あ、そういえば……。一瞬見えました」

「そう。それで君はアースの中に入ったんだ」

「あそこが……?」

「私も一回入ったことがあるんだが、あそこはとても暖かい場所だったね」

「わかります!でもなんだか、物がいっぱいある気もしました」

烈と獅子神長官は楽しそうに話していた。そうか、アースの中はそんな感じなのか。

「アースはガイアの分身でいつでも連絡が出来ると前に話したね?それを応用して君とガイアをあの体に繋げたんだ。……ちなみにそれ以上細かいことは、聞かないでくれるかい?正直説明できないんだ」

獅子神長官は舌をペロッと出すと、烈も笑って頷いた。

「他に質問は……?」

今度こそ、私が緑川さん達の期待に応えるとき!

「では……!」

「あの後ろのやつは何ですか?」

後ろのやつ?そういえば布が掛かった大きな……車?の様なものが置いてある。大きさは車を運ぶキャリアカー位で、布の下からたくさんのタイヤが見えていた。

「気になるか?」ガシッ!!

私も気づかぬ一瞬のうちに、緑川さんは烈の肩を抱いていた。

「気になるか?」

緑川さんはもう一度尋ねた。とびきりの笑顔でさっきよりも圧がすごい。ほかの技術課の人達もいつの間にか烈の周りを囲んでいた。

「は、はい……」

「さすが健坊の息子だな。目の付け所がいい!あれはな……!!」

その瞬間、部屋全体に警報が響いた。

『ロストアイランドで強大な力が出現!日本に向かって飛び立ちました!!』

一気にアースベース全体が慌ただしくなった。さっきまで笑顔で話していた緑川さんは、急いで指示を飛ばしている。

「赤兎君、ガイア、至急行ってくれるかい!!」

「「わかりました!」」

私達は後から技術課に飛んで来たアースに飛び込んだ。


ーーーーーーーーーーー



「ここガ、新しい地球カアァアア!!」

俺は機械人形を壊すため、日本に向かっている。その道中俺はたくさんの物をみた。青い空、青い海、緑の大地、酸素濃度の高い空気。どれも以前の地球に無かったものばかりだ………。

吐きそうだっ!!

俺は何かが燃えるのが好きなんだ。木、油、生き物も好きだが、その中でも特に好きなのが、家電製品が燃えるのが大好きだ。プラスチックがタダれる時に発する鼻の奥を抉るような臭い。電気線がショートして自らを燃料として燃える様。そして、自らが燃えているのに何も感じず、機能が駄目になるまで動き続ける根性。素晴らしいじゃないか!!火は人間を進化させたとも言うしな。

だが、今の地球は……。

「焼いてる臭いガしねぇ……」

おかしくねぇか?そりゃたき火や草焼きの臭いはしてる。だがゴミは?発電所は?放火する奴とかいねぇのか?こんなにも狂った星になっちまったのか?

しょうがねぇと俺は、家電製品を探した。とりあえず一番好きなもんを燃やせば、このイライラもマシになると思ったからだ。粗大ごみ置き場くらいあるだろと探していると、やっぱりあった。

冷蔵庫、洗濯機、エアコン、テレビ、掃除機が……。

「アァん?中古品売り場カここハ?」

看板には確かに家電製品終末処理場って書いてあったぞ。だが何だこれは?でっけぇ屋根付きの倉庫に綺麗に並んでると思ったら、使ってたのかってほど綺麗じゃねぇか。

「おいおい……マサカ……」

俺はこの事実を確認するべく横の倉庫を覗いた。

「狂ってヤガる……」

聞いてくれ。全ての部品がネジ一本に至るまで分解されて綺麗に箱詰めされてやがる。箱には丁寧にリサイクルなんて書かれてな。

家電をリサイクルだと?そういえば家電の形がほとんど同じだ。まさかどこの企業でも同じような物を作ってるのか?特徴ってのはねぇのか?

「狂ってヤガる……」

さっきも言ったな。頭がおかしくなったみたいだ。

「……ひっ!!」

「ア?」

やべぇ、見られちまった。ここの従業員みてぇだが、人間ってのはこんなに小さくなっちまったのか?まぁ、逃がしてはおけねぇ。

「おい、お前」

「ば、化け物ぉ!!」

おいおい、逃げるんじゃねよ。無駄なことに力を使いたくねぇんだ。

へっぴり腰で逃げる人間を捕まえるのは簡単だ。ただ俺のでっけぇ手で握ればいいだけだからな。まあ死なせても別に構わねぇ。そぉら捕まえ……。

バチィイイン!!

「ア?」

おいおい、何で俺の腕が吹き飛んだんだよ?せっかくリガース様から頂いた設備で付けたのに。攻撃か?反応は無かった筈なんだけどなぁ?まぁいい。とりあえず目の前の人間を握り潰す。

ブゥウウウウウウン!!

なんだ、もう来ちまったのか?この間送ったクズ戦車から見てたから覚えてるぜぇ。緑の車に小せぇ人形が座ってな。そうだあんな形をしてた。

覚えてるぜぇ、初めてテレビに出たときの事。わざと出来損ないみたいな話し方してよ。その後すぐにちゃんと話しやがってよ。イライラしたぜ。

あ?降りてきやがった。挨拶でもしようってのか?しょうがねぇ。

「よぉ、機械人形」

俺は優しいからよ。先に挨拶してやったんだ。そしたら何て言ったと思う。「あなたは、あの島からやって来たのか?」だってさ。

余計イライラしたぜ。当然だっての。俺が来る理由はお前を倒すためだけなんだからな。その後も俺のイライラは消えず、ただただ怒りが貯まっていくだけだった。

そうか、リガース様はこういう気持ちだったのか……。



ーーーーーーーーーー


私が現場に到着すると、人の4倍はありそうな強大な人影が見えた。先日見た戦車のように、たくさんの機械を寄せ集めた人形のようだ。

その目の前には1人の男性の姿が。足を絡ませながら必死に逃げようとしている。

「今度はあいつか!」

「そうらしい。いくぞ烈!」

スピードを上げた私はあることに気付いた。男性を襲っていたであろう大きな機械の人形の右腕が半分無かったのである。何かあったのだろうか?

大きな機械の人形がこちらをゆっくりと見た。驚いた……、顔は人間じゃないか。

「烈、一旦止まるぞ」

「えっ、なんで?」

私はすぐにでも乗り込める所にGAーXを止め、無謀にも思われるが、外へ出た。

「よぉ、機械人形」

「あなたは、あの島からやって来たのか?」

「ダっタラどうする?」

機械混じりの声をした男性は、私の言葉を理解している。

「私は、あなたを救いたい」

「一度滅ぼしタのにカ?」

過去の記憶もあるのか。

「あの時の地球は、人間の住める所ではなかった。だが今はみんなが幸せに暮らせる。だからっ!」

「ダァアアアマァアアアアれぇえぇえええええ!!!」

怒り、憎しみ、怨み、悲しみ、以前の地球に溢れていた感情の全てが、音ではなく衝撃として私を襲った。やはりあの中にはたくさんの魂達が……。

機械の男性は、目の前の倉庫に入ると綺麗に整えられていた家電製品の部品をバラバラに散らかした。

「俺達ガ……いヤ。リガース様ガどれダけ苦しんダカ。過去の人類ガどれダけ憎んでいるカ、お前ハ全くワカっていナい!」

機械の男性の腕にバラバラになった家電製品の部品が集まっていく。それはやがて手となり、力強く拳が握られた。

「生きている人間ハいタ!!栄えている国もアっタ!!技術ダって日々進化していタ!!それのどこガ悪いんダ!!人間ハ自然と競いアって勝っタ!技術を生み出し、地球も進化した。俺達ガ、アの地球を作っタんダ!頂点ダっタんダ!そんナ俺達が作ってヤっタお前ごときガ、偉そうにしてんじャねぇぞ!!」

男性の声と機械の音が、私にはもっとたくさんの音に聞こえた。

「俺ハお前を壊してリガース様のもとへ帰る。そうすれバ、マタアの時の地球に帰れる!」

「ガイアっ!」

烈の言葉がなかったら、私の頭は無くなっていただろう。家電製品の部品が私の顔の横を通りすぎ、後ろにあったコンテナに突き刺さっていた。

「動くぞガイア!」

烈が体を動かしてくれたお陰で、なんとかGAーXに戻ることができた。

GAーXの中で、私は倉庫の中で暴れる機械の男性を見ていた。あれが過去の人類の言葉か……。あの人と話していると、過去の地球を思い出す。競い合っていた社会、優位に立とうとする感情、何もない事への恐怖、そんな色々な感情があの人の言葉にはこもっていた。



私は、あの人を救うことが出来るのだろうか……?



パァアン!!

「えっ?」

私の視線は何故か横を向いていた。

「しっかりしろ!」

烈の平手が、私の頬を叩いていた。

「ガイアは正しいことをしたんだろ!だったらあの人を救ってあげないと!」

……そうだ。あの地獄のような地球で、私はアテナさんと一緒に再生を行ったんだ。あの時の地球でよかったはずは絶対にない。それを諦めてしまった過去の魂達を、今の地球に生かすために、私は戦うんだ!

「……ありがとう烈、変形するぞ!」

「おう!」

「「チェイーーンジ!!」」

私が変形を終える頃には、機械の男性は倉庫中の電化製品をめちゃくちゃにばらまいてしまっていた。

「私はあなたを救いたい。だからあなたと戦う!」

「ヤれるもんナラヤってみろ!!俺のほうガ強いに決マってる!!」

機械の男性が両腕を挙げると、真っ黒い煙のようなものが倉庫中に広がった。真っ暗の中に男性の声が遠く聞こえる。

「俺の名前ハ、パワード!!!リガース様のタめに俺ハお前を壊す!!」

やはりリガースという存在が、何かを握っているみたいだ。

急に足元がグラつき始めた。

「烈、離れるぞ!」

「わかった!」

離れようとした瞬間だった。黒い煙の中から、巨大な腕が私目掛け襲いかかってきたのだ。私は何とかそれを避け、倉庫から離れたのだが、地面の揺れはどんどん大きくなるばかりだ。

「機械人形ぉおお!!」

機械の男性、パワードの声だ。

「変形すれバ俺に勝てると思っタカ?ダっタラ俺ハ、もっとでカくナるぜぇええええええ!!!」

黒い煙は倉庫全体を包むと、先ほど飛び出てきた腕がドスンと地面に手を着いた。そして肘を伸ばすようにゆっくりと立っていくと、さっきまで見えなかった肩が現れ、手の横から足が現れた。まるで、黒い沼から何かが這い上がってくるようにも思えた。頭が見えたときには、もう黒い煙も薄くなり、そこにあった筈の倉庫も綺麗に無くなっていた。

「ガァアアアアハッハッハハッハッ!!!」

巨大な声が龍神町に響き渡った。目の前に現れたパワードは、変形した私よりも、さらに5倍、いや8倍ほどの大きさになっていたのだ。おそらく、倉庫全体の部品を吸収したのだろう。

「俺に勝てるカァアアア、機械人形ぉおおお!!!」

私も負けるわけにはいかない。

「ガイアソォオオオド!!」

私は、地面から突き出た剣を握り走り出した。ダメージを与えるなら、まだ慣れていない今がチャンスだ。

「はぁっ!!」

ジャンプした私は、パワードの胸目掛け剣を振り下ろした。バリバリと音を立てて壊れていくそれは、色々な家電製品の塊だった。

「どうだ!?」

ある程度のダメージが入ったのではないだろうか。傷は左肩から斜めに入り、バチバチと音を立てている。

「ん?どうしタ機械人形ぉ、早くカカってこいよ!」

「何?!」

パワードは何事も無かったように、挑発している。ダメージが無かったのか?

「ガイア、もう一回だ!」

「おぉ!」

私はもう一度ジャンプし、今度は右肩からの傷をつけた。傷を受けてさらにバチバチと鳴るパワードの体は、今にも爆発しそうに見えた。

「……どうしタ機械人形。攻撃してこナいのカ?」

どういうことだ。ダメージを受けていないのか?

「確認するガ、マサカこの程度の傷で俺ガ倒れるとでも……?おいおい……、攻撃ってのハ、こうヤってするんダよぉおおおおおお!!!!」

パワードは大きく腕を振り上げ、地面に向かって拳を叩きつけた。

まず私を襲ったのは振り下ろした際の風だ。台風のような一瞬の突風が私の動きを封じた。次に地面からの衝撃。直下型地震のように下から突き上げられられ、私の防御姿勢を崩した。最後に来たのは地面の破片。抉られた道路の破片や岩、砂が私無防備な体を襲った。

「「うわぁああああ!!!」」

飛んできた瓦礫と一緒に、私は近くの倉庫に飛ばされてしまった。

「どうしタ機械人形、これで終ワりカ?つマラねぇぞ!!」

パワーが、違いすぎる……。せっかく創ってもらった体なのに、私のほうがまだ、使いきれていないようだ。どうすれば……。

『ガイア、烈、大丈夫かい!!』

「父さん?!」「健太郎さん?!」

『よかった!まだ大丈夫みたいだね。いいかい、よく聞いてくれ。今、そっちに車輌が一台向かっている。二人のサポートマシンだ。そして今からデータを転送するから、その通りに動いてくれ。大丈夫、二人なら絶対に出来るから!』

突然の通信に驚きながらも、健太郎さんが送ってくれたデータに目を通す。

「これは……!」

ブパァアアン!!

遠くから大きなクラクションが聞こえる。緑の大きな車輌が一台、こちらに向かって走ってきていた。

「アァ?ナんダアりャ?」

『名前はグラントレーラー!!二人の新たなる力だ!』

「いくぞ烈!!」

「おう!」

私は立ち上がり、飛ばされていた剣を握った。

すいません博士、荒っぽい使い方をします。

グラントレーラーに釘付けになっていたパワードの顔目掛け、私は剣を放り投げた。

「ぐワァアアアアア!!」

狙い通り、剣はパワードの目を通りすぎ、彼の視界を奪った。

「グラントレーラー!」

ブパァアアン!

私の声に反応しこちらに向かって来る車輌。私と同じ緑を基調としたカラーリングのキャリアカーだ。

前の部分は、アメリカの長距離トレーラーのようなフロント部分が長い構造になっている。後ろはと言うと車を積み込む事ができるようだ。あそこに私が乗ればいいんだな。私の目の前をグラントレーラーだ通りすぎていく。

「よし、チェイーーーンジ!!」

変形した私は、グラントレーラーの後を追うように走り始めた。

「烈、大丈夫か?」

「何とかわかった!」

「よし、いくぞ!」

「「グランフォーメーション!!」」

私がアクセルを踏み込むと、グラントレーラーの後ろが開き始め、ちょうど私が乗れそうな空間が現れた。真っ直ぐ引かれたガイドラインに従い、地面スレスレまで降りてきていたアタッチメントにタイヤを乗せると、吸い込まれるようにトレーラーに搭載された。

そしてトレーラーが変形していく。車体後方は脚へ、前方は体へと形を変えていく。胸にはサイの顔が、肩には上に突き出るような角が飛び出た。

なんて美しい体だろう。私のレプリカやGAーXもそうだが、アースベースのみんなは、どうしてこんなにも素晴らしいものを作れるんだ。高いところに理想があるはずなのに、それを実現する力が強いんだと改めて感じた。さっきは言えなかったが、この戦いが終わったら、技術課のみんなにたくさん質問したいと思う。みんなの思いがたくさん詰まったこの体を、私は平和のために使わせてもらう!


「「創星合体、グラーイガーイアーーー!!」」

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