-6-「なんとも言えぬ味が口の中に広がる」


   ⑥


「ワワワワァァァァーーーーー!」


 ヒカルは大声おおごえをあげながら、飛び上がるかのように身を起こした。

 びっしょりとあせをかいており、ひたいぬぐいながら辺りを見回みまわす。


「ここは‥‥」


 アヤカの部屋だった。


「う、うん‥‥あれ‥‥?」


 ちかくにたおれていたナツキ、ツヨシも次々と目をます。

 どうやら全員ぜんいん無事ぶじに、あの世界せかいから脱出だっしゅつできたようだ。


「な、なんだったんだ。変な世界に行ったと思ったら、チンチクリなやつがいて‥‥」


 とツヨシが疲労感ひろうかんたっぷりにつぶやくと、


「う、うん。大きくなるわ、地面が崩れるわで‥‥」


 ナツキがこたえた。


「なんだ、ナツキも同じような夢でも見たのか?」


「そういうツヨシも‥‥ってことは、さっきのは夢じゃない?」


 ツヨシとナツキが先ほどの世界せかいでの出来事できごとかたっていると、ヒカルは自分の手の中ににぎっているものに気付く。


「これは‥‥」


 それは魔女マギナから手渡てわたされた液体えきたいはいった小瓶こびんだった。


「うん、夢じゃないみたいだね」


 先ほどの出来事はゆめではないと確信かくしんした。


「あっ! そういえば、アヤカは?」


 ナツキはベッドによこたわるアヤカの方にちかづき、様子ようすうかがう。


「アヤカ! 大丈夫?」


「ナ、ナツキちゃ、うん‥‥はぁ…はぁ‥‥」


 アヤカは意識いしきもどしていたが、顔色が悪くくるしがっていた。


 すかさずヒカルはナツキに小瓶こびんを見せる。


「そうだ、ナツキちゃん! これ」


「これって?」


「あの時、魔女マギナさんがくれた薬。これを飲めばなおるって」


本当ほんとう! 解ったわ。アヤカ、ほらこれ飲んで。魔女マギナさんからの薬。これを飲めばすぐに良くなるから」


 ナツキは小瓶こびんふたけると、アヤカの口元くちもとへ近づける。

 アヤカはすがままに瓶口びんぐちを付け、液体えきたいんだ。


「!?」


 なんとも言えぬあじくちなかひろがる。


 にがくすっぱいかと思えば、ピリピリとした軽い刺激しげきしたに走る。

 思わずきそうになってしまうが、なんとかこらえてんだ。


 それがまたヌルっとしたのどざわりで、余計よけい気分きぶんわるくなりそうだった。

 すると、おなか急激きゅうげきあつくなり、身体からだふるえ、あせたきのようにながれだした。


 あからさまにアヤカの異常いじょう状態じょうたいに、ナツキは一歩後いっぽあとずさり、ヒカルの方を向く。。


「だ、大丈夫‥‥よね?」


「う、うん。あの魔女マギナさんのだから、きっと‥‥」


 やがてアヤカが痙攣けいれんはじめる。


 そんな状態に、さすがに危ないのではと判断はんだんしたツヨシが誰かを呼ばうと部屋へやを出ようとした時――


「あ、あれ‥‥。息がしやすい‥‥。喉も痛くない」


 アヤカはこの三日間みっかかんずっとくるしんでいた体調不良たいちょうふりょうが完全に快復かいふくしたのである。

 ナツキはアヤカの無事ぶじを喜び、思わず抱きついた。


「アヤカ! 良かった!!」


「な、ナツキちゃん。それに‥‥あっ!」


 この場にヒカルやツヨシが居ることに気付くと、アヤカは赤面せきめんして、布団ふとんで自分の顔をおおかくした。


 あらためてナツキたちが自分の部屋にいることに疑問ぎもんに思う。


「な、なんで? なんで、ナツキちゃんや風真かざまくんたちが、私の部屋へやにいるの? それに夢を‥‥。そう! ナツキちゃんたちが私の夢に出てきて、変な悪魔あくまと戦ったりして‥‥。あれは?」


「えっとね。それはね‥‥」


 ナツキは、まずなにから説明せつめいすれば良いのか困っていると、


「どうしたんです、アヤカ? 人の声がしますけど‥‥あら!? 貴方たちは!? どうしてアヤカの部屋に?」


 アヤカの母親ははおや入室にゅうしつしてきた。

 当然とうぜんごと母親ははおやは、すぐさま娘(アヤカ)の部屋へやいるるヒカルたちを目にしてあわおどろく。


 異変いへんかんじて緊急きんきゅうようしていたとはいえ、家人かにん無断むだんで入ったので充分じゅうぶんおこられてしまう条件じょうけんそろっている。


「えーと、それは‥‥」


「お、お母様。その、ナツキちゃんたちはお見舞い来てくれて‥‥、それで上がって貰ったんです」


 アヤカはナツキのこまかおさっして反射的はんしゃてき弁明べんめいしてくれた。


「そうだったの‥‥アヤカ!? 具合ぐあいの方は良くなったの?」


 母親はずっと寝込ねこんでいたアヤカが起き上がってしゃべっていることに今になって気付き、アヤカの元へると、おでこに手を当てねつはかる。


平熱へいねつ‥‥になっているわね。良かったわ。体調が良くならなかったら、入院も考えたのですから‥‥」


 母親は安堵あんど表情ひょうじょうを浮かべて、アヤカを気遣きづかった。そして放置ほうちされている三人‥‥ヒカルたちの方に視線しせんを向ける。


「ああ、ごめんなさいね。お見舞みまいに来てくれたのは、とてもうれしいのだけど。まだアヤカは病み上がりだから、何のおもてなしも出来ないのだけど、今日はこの辺でね。アヤカも体調が悪いのだから、お友達ともだち病気びょうきうつすかも知れないのだから勝手に家にあげちゃダメよ」


「はい‥‥ごめんなさい‥‥」


 ヒカルたちは心ならずもアヤカの部屋へやから出て行く。


「それじゃアヤカ。あとでメールをするね!」


「う、うん」


 退出間際たいしゅつまぎわにナツキが呼びかけると、アヤカはしずかにうなずいた。

 ヒカルたち三人はアヤカの母親に玄関げんかんまで案内されて、菊池家きくちけからも退出たいしゅつとなった。


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