-4-「ピぎゃ!」

   ④



『クラエッ!』


 黒い火球かきゅうがヒカルたちをおそい、ヒカルたちをつつむ光にれると激しい音と共に強烈きょうれつ爆発ばくはつが起きた。


 ヒカルたちは何とも無かったが、光の壁バリアにヒビが入っていた。

 それを見てティルンは再び火球を作ろうとしている。


「ヤベッ、もう一発あれ食らったらヤバイぜ! 水原、ヒカル。早く!」


 ツヨシは魔法を急ぐ。


「解ってるわよ! 行くわよ!」


 ヒカルたちは魔女から教わった通りに人差し指で宙に円を描き、


「「「トンドーロパーフィ!」」」


 一斉いっせいに呪文を唱えると、各々の指先から小さな雷光がほとばしった。

 ティルンに向かっていく三本のいかずちの矢の二本は外れてしまうが、


『ピぎゃ!』


 ツヨシの雷の矢だけが命中した。


「なにやってるんだよ、二人とも!」


「仕方ないじゃない、いきなりだったし」


「だから、あれほど練習しとけって言っただろう!」


「言われてないわよ!」


 ナツキとツヨシのいを余所よそに、三人の背後にいたアヤカは呆気あっけに取られていた。


「なに、今の?」


 アヤカがポツリとこぼした疑問にナツキが答えてあげる。


「アヤカ、驚いたでしょう。今の魔法なんだよ!」


「ま、魔法!?」


「そう。くわしい説明は後にするけど、私たち魔女マギナさんという人に会って、魔法が使えるようになったのよ」


 ナツキが話している最中さなか


『クソー、イタいゾーー!』


 ティルンの怒声どせいひびわたる。


 先ほどの小さな雷光では大したダメージを受けていないようだ。

 また、ヒカルたちのまさかの反撃はんげきにティルンの逆鱗げきりんに触れたらしくはげしくいかっていた。


『グオオオォォォッッ!』


 ティルンはまた火球を作り出す。しかも先ほどよりもはるかに大きかった。


「ヤベっ!」


 危険を感じたツヨシは、すぐさま呪文をとなえ魔法を発動しようとしたが、先にティルンは作り出した特大サイズの火球がはなたれた。


――ズッドォォォォォン!


 火球が光の壁に衝突すると、大地が揺れるほどのはげしい大爆発だいばくはつを起こした。


 その衝撃しょうげきで今までヒカルたちを守ってくれた光の壁がくだけて消失しまうと同時に、ツヨシが持っていた水晶も粉々こなごなくだけてしまった。


「水晶が!?」


 ツヨシは叫んだ。

 自分の手の平に粒子りゅうしとなった水晶の残骸ざんがい


 自分の勝利しょうり確信かくしんしたティルンは、ほくそ笑みながら火球を作り出す。

 光の壁を失ったヒカルたちが火球をらってしまっては、ひとたまりもない。


「ヤベっ! 水原、ヒカル、早く魔法を使えよ!」


「使えって言われても当たらないし、当たっても大して効いてないわよ!」


「それでもアイツをなんとかしないと、こっちがヤバイぞ!」


 ツヨシの言葉にヒカルが行動を起こす。

 密集みっしゅうしているナツキたちの肩や腕に触れながら、ヒカルは人差し指で円を描き、呪文をとなえた。


「トンドーロパーフィ!」


 放たれた雷撃らいげきの光はティルンの横に外れてしまう。

 だが、その雷撃は先ほど放ったものよりも太く大きかったことにヒカルは気付いた。


「今のは‥‥」


「なにやってるんだよ、ヒカル!」


「ご、ごめん」


 外したことにツヨシがなじるも、ティルンは雷撃らいげきおどろいて思わず口を閉じてしまい、火球が消失してしまった。


 幾分いくぶんかは猶予ゆうよが出来た。


「ねぇ、このすきに逃げた方がよくない?」


 とナツキが提案する。


「逃げるたって、どこにだよ?」


 例え逃げたとしても逃げ切れるとは思えなかった。


 ツヨシとナツキが短い時間で相談している中、ヒカルはさっき放った雷撃らいげきの変化について考えていた。


 人は誰しも危機的な状況なほどパニックになりやすいものだが、ヒカルはこの短期間たんきかんの内に幸か不幸か、二度の戦闘せんとうを経験していた。


 魔女と逢った時に。トッティを探していた時に。そして今。

 その為かみょう冷静れいせいでいられた。


雷撃らいげき電撃でんげき電気でんき‥‥静電気せいでんき‥‥あっ!」


 ヒカルは思い付く‥‥いや、思い出したと言って良いだろう。あの三年生の実験を。


「みんな、今すぐ手をつないだりして身体にうんだ!」


 突然のヒカルの提案にツヨシたちは困惑こんわくとする。


「なんだいきなり、こんな時に?」


「良いから早く!」


 ツヨシに突っ返すようにヒカルは叫ぶと、自分の隣に居たナツキの手を取った。


「ヒカル、どういうことよ?」


「ほら、理科の実験だよ! 静電気の実験!」


 静電気の実験とは、ヒカルたちが小学三年生の理科の授業の時に行った実験である。


 人間の身体には微弱びじゃく静電気せいでんきまっており、静電気は伝導でんどうやす性質せいしつを持っている。


 実験は、その伝導性でんどうせいはだ実感じっかんするために、クラス全員が手をつないで静電気せいでんきを伝導させていき、末端の人に全員分の静電気せいでんきを味あわせるものだった。


 その電気を味わったのがツヨシだった。微弱びじゃく静電気せいでんきも三十人分も集まれば威力いりょく抜群ばつぐんだった。


「静電気の実験? あれか!」


 被験者ひけんしゃのツヨシが声をあげた。


「一人の雷撃の威力いりょくだと、さっき見た感じだと、あの変な生物いきものたおせない。だから三人分の雷撃を一人に集めて放てば‥‥」



「でも、上手くいくの?」


 ナツキの不安にヒカルは強い声で返す。


魔女マギナさんは言っていたよね、この雷撃の魔法は静電気みたいだって。ようは同じだから、上手くいくはずだよ!」


 その言葉にナツキは、


「‥‥そうね! アヤカ!」


 アヤカの手を取ってつないだ。


 この中でただ一人、要領ようりょうないアヤカは右往左往うおうさおうとしたが、ナツキと手を繋いでいると安心あんしんを感じたのであった。


 そしてヒカルは空いている左手をツヨシの背中に触れた。ツヨシは自分の背中に熱い体温を感じた。


 真正面まっしょうめんを向くと、ティルンが自分のサイズと同等の大きな火球を既に作り出しており、それをヒカルたちへと放った。


 ヒカルたちの態勢を傍から見れば、ヒカルたちはツヨシを盾にしているようだった。しかし、それは己の身を守るためのでは無い。攻撃の姿勢だ。

 ツヨシは素早い所作で円を描くと、今まで一番大きい声で呪文を唱えると共に、ヒカルたちも復唱した。


「「「トンドーロパーフィ!」」」


 ツヨシの指先から四人分の静電気(雷撃)が合わさった強烈な雷光がほとばしる。


 雷の閃光は迫り来るティルンの火球をかき消し、


『ヘッ?』


 ティルンに直撃ちょくげきした。


『ピギヤャーーーーーーー!』


 バリバリと激しい音を立てて、雷電らいでんがティルンの身体からだめぐる。

 ティルンは黒焦くろこげとなり、無様ぶざまに地面へと落ちていった。


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