-2-「キミたち‥‥そのコの、トモダチだネ?」



   ②



 後を付いてくるツヨシをナツキは極力きょくりょく無視むししながらしばらく歩いていると、アヤカの家が見えてくる。


「うおー、でっけぇーな!」


 その家を一目見て、そうツヨシが感想かんそうをこぼす。


 アヤカの家は市内しないの高級住宅街に在り、街中にもかかわらず広めの庭を所有する豪邸ごうていだった。

 なんでも菊池家は旧家きゅうかであり、家柄が良い‥‥つまりはアヤカは良い所のお嬢様なのだ。


 ちなみにヒカルの家は三十年ローンを残す一軒家。ナツキは借家の一軒家。ツヨシは団地ビル暮らし。各々、自分の家とのレベルの違いを見せつけられているかのようで若干じゃっかん、腰が引けてしまう。


「ツヨシ。一応言っておくけど、アンタがアヤカの家に入れてくれるとは限らないからね」


「へいへい」


 ツヨシは同じクラスメートであれどアヤカとは部外者なのである。おいそれと紹介しょうかいすることは出来ない。


 それはヒカルにも言えることだが、魔女マギナの件についての大切な証人しょうにんであり、幼馴染おさななじみなので良しとした。子供の中でも区別くべつは存在するのだ。


 三人は豪華で立派玄関扉げんかんとびらの前にやってきて、ナツキがインターホンの前に立ち、凝視ぎょうしする。


 よくアヤカと遊ぶナツキもアヤカの家に訪問ほうもんする時は少しばかり緊張してしまう。ナツキは深呼吸をして、何を言うのか一度頭の中で整理せいりする。


 そのきに、


――ピンポーン♪


 横からツヨシが押した。


「なに勝手に押してるのよ!」


「だって、どっちにしろ押すんだろう?」


「もうっ!」


 勝手なツヨシの行動に憤慨ふんがいしつつ、応答を待つがウンともスンとも無い。


「あれ?」


 もう一度インターホンを押して待ってみるが、やはり応答は無かった。


「いつもだったら、必ず誰かが出てくれるのにな。何処どこかに出掛でかけているのかな? んっ?」


 インターホンのスピーカーから“笛の音”が流れてきて、


『‥‥ドうゾ』


 低い声が漏れ聴こえた。


 すると『カチッ』とドアの解錠音かいじょおんひびきき、とびらが静かに開いたのである。


 開いた先‥‥扉の大きさに比例した広めの玄関口げんかんぐちには誰もらず、丁寧ていねい三足さんそくのスリッパがならべられていた。


 三人は様子を伺いながら、そろりと全員が中に入ると、


――バタンッ!


 玄関扉は勢い良く閉ざしてしまった。


「な、なに!」


 不思議な現象にナツキが動揺どうようし、直ぐ様ツヨシが扉を開けようと試みるが微動びどうだにしない。


 鍵がかかっているではと思い、鍵のつまみ口(サムターン)を動かそうとしたが、これも動かない。


「どうなってるんだ?」


 三人ともあきらかに尋常じんじようではない気配けはいを感じ取っていると、



『ドうゾ‥‥ナカヘ‥‥アヤカのモトヘ‥‥』



 スピーカーから聴こえてきた声が家中いえじゅうに響き渡った。


 三人はおたがいに顔を見合わせる。


「なんか様子がおかしいけど、とにかくアヤカの部屋へ行ってみよう! おじゃまします!」


 ナツキはくつぎ、スリッパにえて上がり込んだ。


 ヒカルはナツキを見習い、同様にスリッパに履き替えては行儀良ぎょうぎよく「お、おじゃまします‥‥」と挨拶をして上がる一方で、ツヨシはスリッパをかず、素足のままでナツキたちの後を追う。



 ◆◆◆



 唯一アヤカの部屋の場所を知っているナツキを先頭せんとうにして進んでいく中、空間に満ちる雰囲気ふんいきにヒカルとナツキは思い当たるふしがあった。


「ねえ、ナツキちゃん。なんかあの排水口はいすいこうの時と同じ感じがしない?」


「ヒカルも? うん、やっぱりそんな感じがするよね‥‥」


 境川にあった排水口はいすいこうが広大な洞窟のようになって、奥でトッティがキメラと化していていた場所だ。


「どうしたんだ?」


 二人の会話に、その場に居なかったツヨシがたずねてきて、ヒカルが答える。


「前にね、ここみたいな変な雰囲気を感じ目場所に行ったことがあって、そこと同じ感じがするんだ」


「変な? あの枯れ木山で彷徨さまよったことか?」


 確かにあれも変な場所であるが、そこと比べて感じる“イヤ”な‥‥まるでべっとりと粘着質な空気がまとわりつくよう気配けはい段違だんちがいではあった。


「あそことは別の所だよ。火野くん、注意していた方が良いよ。あそこより危ないかも知れない」


「マジで!?」


 もしかしたら、またトッティキメラのような化け物が現れるかも知れないと注意をうながす。

 ましてや今は魔女さんが側に居ないのだ。


 辺りを警戒するのように、三人はゆっくりと進んで行く。

 アヤカの部屋は二階にあるので階段を上っていき二階へと辿り着くと、ヒカルたちの一番近くにあるドアが、


――ガチャ!!


 と、突然とつぜん開いた。


「「「うわっーーー!」」」


 突然の出来事に三人は驚きの声をあげてしまった。


「な、なんだよ!? 誰か居るのか?」


 ツヨシはドアが開いた部屋の様子を伺う。

 ベッドや机、タンスが置かれている、なんの変哲へんてつも部屋(客室)のようだが、誰かが気配けはいは無かった。



「誰も居ない、な‥‥」


 ツヨシの状況報告じょうきょうほうこくにナツキは身を震わせた。


 異変たっぷりの空間から今すぐにでも脱出だっしゅつしたかったが、友達アヤカ見捨みすてられない思いの方が強かった。


「もしかしたらアヤカが危ない目にっているんじゃ!? ねぇ、早くアヤカの所に行って、助けに行こう!」


 ナツキたちは再び足を動かし、アヤカの部屋へと向かっていく。


 想像以上そうぞういじょうに長い廊下を前進ぜんしんし、ようやくアヤカの部屋のドアの前に辿り着いた。


 友達の部屋に入るまで、ここまで時間をようしたことは無い。ヒカルとツヨシは改めてアヤカの家の広大さを思い知った。


――コンコン!


 念の為にナツキが部屋のドアをノックする。


「アヤカ、居る? っ!?」


 すると、またしても玄関の扉の時と同様に自動的に開いた。


 その場から部屋の中をのぞくと、ピンクのカーテンで閉められており薄暗かったが、中の様子をうかがい知れた。


 部屋には沢山のぬいぐるみが置かれており、綺麗きれい整頓せいとんされている。

 如何いかにも女の子の部屋にツヨシの胸が高鳴たかなった。


「アヤカ、居るの? どこ~?」


 ナツキが足音も立てないように静かに部屋の中に入っていくと、ヒカルたちも後に続く。


「あっ!? アヤカ!」


 キングサイズのベッドに横たわるアヤカをナツキが発見した。

 その寝顔は苦渋くじゅうに満ちていた。


 苦しんでいるアヤカの寝顔に注視ちゅうししていると、何処からともなく“笛の音”が聴こえてくる。


「さっきからなんだ、この音?」


 ヒカルたちが音の発信源はっしんげんを探ろうと辺りを見回していると、


『キミたち‥‥そのコの、トモダチだネ?』


 自分たちよりも子供っぽく高い声が響いてきたのである。


 “そのコ”とはアヤカの事を差していると思い、ついナツキが答える。


「そ、そうよ!」


『だっタら‥‥そのコが、イるバショにツれてってアゲルよ。そのホウが、あのコもキミたちもヨロコぶでしょう』


「居る場所? え、アヤカはここに居るんじゃ!?」


 ナツキの問いかけもそっちのけで、突然辺りがゆがみだした。


「な、なに!?」


 ヒカルたちは強制的きょうせいてき身体全体からだぜんたいをグルグルと回転されては、頭をはげしくらされるような感覚かんかくさいなまれた。


 あまりにも酷い体感たいかんにヒカルたちの意識いしきが遠のき、世界は暗闇に閉ざされた。


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