-9-「尾を飲み込む蛇」
⑨
ヒカルたちは
「この道を真っ直ぐ行けば、ここから無事に出ることが出来るわ。ただし、この空間を出るまで決して振り返ってはダメよ。絶対に振り返らず、何が有っても前だけ見て進みなさい」
「どうして?」
「昔から、そういう決まりなのよ」
「振り返ったら、どうなるんだ?」
ヒカルと
「振り返ることで行く道、来た道が一緒になってしまって、永遠にあの空間に
ヒカルたちはゴクリと
なんでも出来そうでやりそうな
「あ、そうだそうだ。すっかり忘れてていたわ」
そう言いながら魔女は後ろ髪に手を入れると、ゴソゴソと手探りをしては何かを取り出した。
「はい、お
魔女の手の平に三つのキラキラと光る
「うわー、キレイ!」
ナツキは瞳をキラキラさせて
「これは?」
「お土産よ。それと、ここまで運良く来れたご
ヒカルたちは各々一つずつ石を貰い受けた。
綺麗な石(水晶)をナツキはうっとりと
「あ、
「なに、ヒカル?」
「そういえば、なんでここにいるの?」
「なんでって言われると、ここは私の数ある内の
「こんな所があるんだったら、別にボクの家に
「なに言ってるの。誰かが待っている家に帰るほど
きっと最後にポツリと呟いたのが本当の理由なんだろうなと、ヒカルは察したが口には出さなかった。
「あ、だけど、もしかしたら今日は帰れないと思うから、おばさまにそう伝えておいてね。ほら、さっさと帰らないと、とんでもない事になるわよ」
「う、うん、分かったよ」
「それじゃ、最終確認ね。この道に足を踏み入れたら、決して振り向かないことよ!」
釘を刺すかのように
◆◆◆
ヒカルたちは魔女の言いつけを守り小道を進んでいく。
道の先‥‥地平線は真っ白な空間が見えるだけだった。
進めど進めど景色が変わらぬことにヒカルたちは
だからこそ後ろを振り返りたくなる
「どこまで続くのよ、この道は?」
ナツキが
三人の
「まさか、ここも‥‥あそこと同じような場所じゃないだろうな‥‥」
何とはなしにツヨシの進む
クラス徒競走で男女一位である足が速い二人に、平均以下のヒカルが徐々に離されていった。
「ちょ、ちょっとナツキちゃん、火野くん、ま、待って! っ!?」
先行く二人に声をかけた時、不思議なことが起きた。
ナツキとツヨシの姿が
「えっ! ナツキちゃん‥‥」
思わず二人を探そうと辺りを
『絶対に振り返らず、何が有っても前だけ見て進みなさい』
しかし、一人残されたヒカルに強烈な
だがその時――道の先に犬が見えた。
「あ、トッティ!」
ヒカルはトッティを
いつもより速く足を動かしたからか、
「あっ!? うわわわわ~~~!??」
途中で足が引っかかってしまい
コロコロと転がり行くヒカル。
――ドッン――
やがて何か柔らかいモノに
ヒカルはおそるおそる目を開くと、辺りは
近くにツヨシのマウンテンバイクも有る。
そして自分のクッションとなった
「あ、火野くん! ご、ゴメン、大丈夫?」
「まぁな‥‥」
ナツキはしっかりとリードを握り締めていたはずなのに、また居なくなっていた愛犬を強く抱きしめた。
「あ、トッティ! 良かった!」
この二日間で何度も目にする再会をよそに、ヒカルはツヨシの身を起こした。
「真っ暗だな。さっきまで、あんなに明るかったのに‥‥てかっ、今何時だ?」
「えっとね‥‥」
ツヨシの言葉にナツキが携帯電話を取り出して時間を確認をしようとすると、タイミング良くポップなメロディが流れる。
「あ、お母さんからだ」
メロディ音で着信元を判断するとディスプレイには『母』と表示されており、すぐさま電話を取った。
「もしも‥‥」
『コラ! 不良娘!』
直ぐ様にナツキ母の
『今何時だと思っているのよ! いつまでも散歩から帰ってこないで、さっきまで電話は繋がらないし。GPSも表示されないし。この電話に出なかったら警察に連絡しようとしていた所よ!』
「え、だってまだ午後の三時ぐらいじゃないの?」
『そんな訳ないでしょう。もう七時半よ。辺りだって暗いでしょう。今どこにいるのよ?』
「えっと、枯れ木山のところ」
『枯れ木‥‥ああ、あそこね。もう、なんでそんな所にいるのよ?』
「ちょっとヒカルたちと遊んでいて」
『夏休みだから遊ぶのも良いけど、こんな遅くまで遊び
「う、うん。解った」
電話が終わり、ナツキは携帯電話のディスプレイに表示されている時刻を確認すると、「十五時三十六分」と表示されていた。
だけど、辺りの様子はどう見ても夕方ではなく夜。
「どういうこと、これ?」
表示されている時間と景色の時間帯が違うことに戸惑うナツキ。ヒカルは魔女が言っていたことを思い出す。
「そういえば魔女さんは、時間の流れが違うとか言っていたよね。それって、こういうことだっんだ‥‥」
その出来事が夢で無いか確認するためにナツキは、
「トンドーロパーフィ!」
をツヨシに向けて唱えると、指先から飛び出た電撃がツヨシに命中した。
「グアアアアァァァッッ!」
「ナゃニスゅルんダーー!」
「いや、ちょっと夢とか幻とかの確認をしただけだから‥‥。だけど本当に使えるようになっている」
ナツキは
あの場所で
その全てが本当の出来事であり、夢や
「おっと。オレも早く帰らないと母ちゃんに怒られるから、ここらで帰るわ!」
時間‥‥
「あ、ツヨシ。もう少し待ってたらウチのお母さんが車で迎えに来てくれるから、ついでに送ってあげるわよ」
「別にいいよ。自転車があるしな。それじゃーな!」
ツヨシはマウンテンバイクに
自転車のライトや街灯で
「ヒカルは?」
「出来れば、送ってくれると嬉しいかな」
「うん、解った。それじゃ近くのコンビニでお母さんを待ちましょうか」
コンビニを探す中、ナツキはヒカルに話しかける。
「ねぇヒカル。明日も魔女さんに会いに来ても良いかな?」
「多分、良いと思うけど」
「だったら、今度はアヤカも連れてきて良い?」
「アヤカちゃんを? 火野くんを連れてきてもあんな感じだったし、別に良いと思うけど‥‥。なんでアヤカちゃんを?」
「実はね、アヤカも魔法とか興味があるから、魔法が使えるようになるって教えたらすごく喜ぶと思ってね」
「なるほどね、あのアヤカちゃんが。そういえば終業式の時に具合が悪かったみたいだけど‥‥」
「ああ、そうね。でも、流石にそろそろ治っているんじゃないかな。明日、お
明日の約束をして、二人はコンビニを見つけた。
ナツキはさっそく母親に連絡してくれている
「ありがとうな、トッティ」
近くに居たナツキが聞き取れないほどの小さな声で、ヒカルはお礼の言葉を述べた。
だが、犬の
◆◆◆
ここは
そう終業式で
真っ暗の自室、ベッドの横になっているアヤカは高温の熱を出し苦しんでいた。
息をするのも
深く眠れずに意識が
アヤカはテレビの音が
『どうシたンだイ?』
部屋の
突然の呼び掛けにアヤカは思わず「誰?」と声を出そうとしたが、
『クルしンでいルみたいだネ』
カタコトな言葉で高い声だった。
ぼんやりとしたアヤカは、その“声”が
『そのクルしミからタスけてあげヨうカ? どうすル? スベてはキミしだいだヨ。タスけてホしイ?』
アヤカは熱と頭痛で
すると暗闇の奥で何かが笑った。
その方向には多数のぬいぐるみが置かれており、その内の一体が動き出すと、口から
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