-8-「結構気持ち良いもんでしょう」


   ⑧




 ヒカルたちは小屋の外に出て、花畑のとなりにある空き地で魔女マギナから魔法の手解てほどきを受けていた。



「さて。攻撃的こうげきてきな魔法は数あれど、今のキミたちのレベルに合ったものとすると”電撃でんげきの魔法“かしら。人類が四番目に手に入れた力ね」


「おっ、電撃でんげきの魔法って如何いかにもカッコイイよな!」


 先ほどのジャンケンの勝利者はツヨシだった。


 ツヨシはチョキを出し、ヒカルとナツキはパーを出してしまった。

 勝利が確定した瞬間、ツヨシはそのままチョキ《Vサイン》を二人の前にかかげたのが、ウザいと内心思ってしまった。


 なにはともあれ、手から炎とか雷やビームとかを出せるような魔法を教えて貰うことになったのだ。


「なにが電撃よ。そんなの必要無いでしょうに‥‥」


 頬を膨らませてブツブツと不服ふふくを漏らすナツキ。しかし、自分たちが決めた約束やくそくまもるしかなかった。


「それじゃ、さっそくやりましょうか。ヒカルたちはそこに寄って集まって動かないでね」


 魔女マギナに言われた通りにお互いの肩が触れるほど近くに集まるヒカルたち。


「トンドロインファーノ・コーレキティブ・フォルトプレーナ・ドーニ(雷の子たちよ、ここに集まりて、この者に力を与えよ)」


 魔女マギナが呪文を唱えだすと、ヒカルたちを中心にして地面に光の魔法陣が浮かび上がった。


「おおっ!」

「きゃあっ!」


 その光景にツヨシとナツキが大きな驚きの声をあげてしまう。

 魔法陣の中に、いくつもの光の玉が出現し始め、それらがヒカルたちに集まりだす。


「ちょっとピリッとするからね、我慢がまんしてね」


「えっ?」


 何が?と質問するもなく、光の玉がヒカルたちの身体からだれると、魔女マギナの言う通りにピリッとしびれるいたみがはしる。


 次々と光の玉が触れてきて、その度に「痛っ!」と言葉ことばれてくる。

 我慢できるほどの痛みではあるが、何度も受けるにはつらいというか拷問ごうもんのようだった。


 魔女マギナは気にせずに呪文をとなえ続けて、光の玉が全て無くなった頃にはヒカルたちはボロボロとなって地にしていた。


「はい、終わったわよ。これで、雷撃の魔法が使えるようになったわよ」


 フラフラとなりながら起き上がるヒカルたち。


「あ、あれで?」


「そう。試しに、あそこにある木を狙って使ってみなさい。魔法を発動させるためには、人差し指でも立てて、宙にマルっと円を描いて‥‥トンドーロパーフィ《雷撃の矢》!」


 説明通りの動作を取った魔女マギナの指先から一筋ひとすじ雷光らいこうはなたれた。


 雷光らいこうが木に命中し、パンッと粉砕した。


「おおっ! すっげー!」


 ツヨシがおどろききの声をあげ、ナツキもヒカルもその光景こうけいに目がてんになってしまう。


「とまぁこんな感じよ。やってみなさい」


「よーし! えっと‥‥人差し指で円を描いて‥‥」


 我先われさきにとツヨシが魔女の言われた通りの所作しょさを取り、「トンドーロパーフィ!」と呪文を唱えると、魔女と同じように指先から雷光らいこうが放たれた。


 雷光は木には命中しなかったが、魔法を使えたことにツヨシははげしく感動かんどうした。


「すっげー! 本当に使えたよ! すっげー!」


「まぁ、初めてにしては、そんなものよね。練習すれば命中するようになるわ。ほら、ヒカルたちもやってみなさい」


 続けてヒカルとナツキも呪文を唱えると同じく、雷光が放たれる。

 あっけなく魔法が使えたことに二人はしば呆然ぼうぜんした後、


「ま、魔女さん、使えた! 魔法が使えた!」


「ふふ、結構気持ち良いもんでしょう」


 ツヨシと同様にはしゃぐヒカル。かたやナツキは電撃がほとばしった自分の指先を見つめ、疑問ぎもんに思ったことを口にした。


「ねぇ魔女さん。どうして、この魔法が使えるようになったの?」


「そうね。簡単にファンタジーに説明するとね。さっきの光の玉は雷の精霊せいれいで、それをキミたちの身体に留めさせたの。そして、さっきの円を描いて呪文を唱えたことで身体に溜まっている雷の精霊を雷光に変換させて、あんな風に放出させたのよ」


 魔女の説明にナツキは自身が経験した思い出が浮かんだ。


「なんか、あれね。理科の授業で習った静電気せいでんきのようなものかな?」


 その言葉にヒカルが反応する。


「ああ、冬の時に理科の授業の実験でやったやつ?」


「うん。ほら、あの実験で私たち身体の中にある静電気を伝導でんどうさせたりしたよね」


 ヒカルたちは去年‥‥三年生の冬に理科の授業で静電気について習っており、その事を思い出したのだった。


「あー、あれか‥‥」


 ツヨシはしぶい表情を浮かべていたが、二人と魔女マギナは気にかけたりしなかった。


 それよりも魔女マギナは三人が静電気について多少なりに知っていたこと気を良くした。


「おっ、そういう知識と経験は有ったのね。感心感心かんしんかんしん。そうね、確かにこれは静電気の凄い版みたいなものよ。人間もとより物質には“帯電たいでん”という性質せいしつを持っているのよ。ネタバラシをすると、さっきの魔術式まじゅつしきで君たちの帯電たいでん性質せいしつ体質たいしつ大幅おおはばに上げた‥‥いわゆる、身体に電気が溜まりやすくなったのよ」


 少し専門的せんもんてきな説明に解ったような解らなかったような。


「な、なるほどね‥‥」


 と曖昧あいまい相槌あいづちを打つヒカル。


「ただ、何発でも使えるはずがないから注意しておくようにね」


「使えなくなってしまうの?」


一時的いちじてきにね。でも、ヒカルたちの身体に静電気とかの雷のエネルギー‥‥おっと、雷の精霊が溜まっていけば、また使えるようになるわよ」


 魔女が話している最中でもツヨシは面白おもしろがって何発も魔法を使っていた。そんなツヨシを見つつナツキはため息を吐き、


「確かに凄いみとは凄いけど、ようは静電気じゃない。こんなのよりも空を飛べる魔法が断然だんぜん良かったな‥‥」


 ブツブツとボヤいていた。そして視線を魔女に向けて、直訴する。


「魔女さん、今度は空が飛べる魔法とかを教えてくださいよ!」


「そうね、気が向いた時にね。さて、そろそろお開きにしましょうか。時間も時間だし」


「時間?」


 ナツキは自分の携帯電話を取り出し、時間を確認する。


「まだ三時ちょと過ぎですよ。もう少しここに居ても良いでしょう?」


 各自かくじ門限もんげんは様々だが、午後三時‥‥家に帰るような時間帯ではない。

 それにもう少しここに滞在して魔法を教えて貰いたかったが、魔女マギナは首を横に振り、微笑ほほえんだ。


「ダ~メ。それにね、ここはちょっと時間の流れがおかしいのよ。ヘタしたらおばちゃんになっちゃうし、もしかしたら、変な影響を与えてしまうかもね。とう言う訳だから、さっさと帰りなさい」


 何がどういう訳なのか、魔女が言ったことをナツキたちは理解することが出来なかったが、魔女マギナ微笑ほほえみにも知れない恐怖を感じてしまい、仕方しかたなく帰ることにした。



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