後編

第7話 違和感

 稲垣は、仕事の合間を縫ってある情報を調べていた。突如連絡の取れなくなった雨儀のことだ。

 職場に連絡を入れても碌な情報は得られず、政治家としての伝手もあまりない。与党に属するため、探偵などの業者は足がつく。純粋な人探しだとしても、難癖をつけられる可能性があるのだ。特に雨儀は防衛省の人間。余計な繋がりを捏ち上げられるかもしれない。


「んっ、これは」


 稲垣は秘書が拾ってきた、とある名簿に違和感を覚えた。当時、地下避難所シェルターにいた人々の名簿だ。当時、生存者の確認の確認のために作られたもので、一般でも容易に見ることができるもの。

 だから、その名簿を見ただけで違和感を感じたのではない。稲垣は、もう一つの名簿、戦後の居住者リストを読みだし、比較を実行する。二度目だが、結果は同じ。当たり前であるが。


「シェルターにいた人しか、生き残っていない」


 逆に言うと、地下避難所にいなかった人は全員行方不明とされた後、死亡となっている。

 戦時中、毒ガス等の兵器が使われた痕跡はない。対人電磁パルス兵器UHEMPが使われたが、あれに殺傷能力はない。

 何が言いたいか、地下避難所に入れなかった人はどうして誰一人、生き残っていないのか。

 椅子の背もたれに身体を預けた稲垣は、急に開かれた扉の音に驚き椅子を倒す。


「稲垣さんっ、これを」


 尻もちを付いたままの稲垣に手を差し伸べるのではなく、秘書は走り書きのメモを渡してくる。

 稲垣は、目を細め右手を回してメモを奪う。そこに書かれていた情報を確かめた時、視界がボヤケるのを稲垣は感じた。

 それは次第に大きくなっていき、秘書も地面に両手をついたのを見た瞬間――稲垣らの身体は使い手のいなくなった操り人形のように崩れた。

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