第2話 2063 BR-101

 荒廃した東京の街を走る四輪バギーが一つ。雨儀はそこで目を覚ました。


「ようやくお目覚めか。


 目の前にはか少し上かの、どっかで見たことありそうなおっさんがいた。バギーを運転する姿が似合っていると雨儀は思ったが、状況は悠長なことを考えるべき時でない。


「ねぇ、貴方誰」

「っ、ちょっと待ってろ」


 男はインカムに手を伸ばし、誰かと通話を始めた。


――目的は達成した――作戦は継続――分かった、次の司令を待て――


 雨儀が会話の内容を理解できるはずがない。ただ自分に投げかけた口調とは違い、緊迫した空気が伝わった。

 男は再びインカムに手を向けたあと、バギーのアクセルを強く踏んだ。


「捕まっていろ」


 男に従いバギーの支柱に捕まる。ふと、違和感を覚えたが体の変化は年齢のせいか、最近よく起こっていたので気にはしなかった。

 雨儀が男の運転する手に目を持っていくと、その左手に指輪が2つあることも発見したが言葉をかけるべきでないと判断し、周囲に目を向けた。


「――どうなってるの」


 雨儀が目を覚ます前とは全く異なる東京の姿があった。まるで、の荒れよう。ビルは崩れかかっているものだけでなく、完全に崩壊したコンクリートの山がチラホラと見受けられる。

 男はバギーを止め、すぐ近くのビルへと走りだしたので、雨儀もそれに続く。

 階段を駆け上がり、屋上へと出ると男はある方向へ目を向けた。


「まだ、気づかれていないようだな」

「何に」

「あれを見ろ」


 雨儀は渡された双眼鏡でその方向を覗き込む。ここから目測900メートル離れた場所を戦術機ロボットの姿が。


「どうして……101型が」

「お前さんは何か知っているのか」

「知っているも何もあれは、日本製戦術機の元祖。それが単独でこんな場所に……」


 戦術機は、人体の構造を模することでを図っていると雨儀は、聞いていた。戦術機の搭乗員であり、その戦い方セオリーを知っているからこそ、BR-101が何故単独で行動しているのかに疑問を隠せない。

 首をかしげる雨儀に男は不満気な声をかける。


「あれが日本製だと、冗談きついぜ。お前さんは、俺達がずっと日本の作った兵器と戦っていたというのか」

「どういうこと」

「言葉通りの意味だ。俺達は今からあいつを破壊しに行く。戦争が終わって1年たったてのに、やるせないねぇ」


 雨儀は男がコートの内側に手を持って行こうとしたのを掴んだ。男は顔の皺を増やし微妙そうな顔をした。


「吸おうしてねぇぞ、約束通り禁煙してるからな」

「んなこと聞いてない。貴方今、って言ったの」


 男は神妙に頷く。


「貴方達が戦っているというBR-101は2075年、つまり13機体よ」

「はぁっ」


 男は呆れたような溜息と同時に、インカムに手を当てた。着信があったのだ。

 雨儀は男の「破壊する」という言葉と状況から一つ提案を口にする。


「破壊でなく、鹵獲を狙いましょう。地形図と小隊の陣形、指揮権を譲渡してください」

「お前、そこまで理解したのか。俺が指揮官であることも」


 雨儀も実戦経験はないが、何度も行った演習シミュレーションと戦術理論研究は無駄じゃない。研究には万が一に備えた、生身での戦闘技術も含まれる。

 流石だな、と男は呟きながら雨儀に陣形や爆薬の設置位置などが記された地図を渡し雨儀の様子を見守る。


「お前の作戦を聞く。ただし損害リスク計算と指揮、これは譲らない」

「了解。危険は逆に減らしてあげるわ」


 雨儀は搭乗者パイロットとしての知識やカン、そして部隊長としての統率力を総動員して、BR-101の鹵獲作戦を展開した。

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