女神のおもちゃ ―果心居士―
ニューヨーク、マンハッタン。あるペントハウスの一室で、俺はタニトと戯れていた。
かつてカルタゴの太女神だった女。若き日のエリザベス・テイラーに似た、黒髪に紫色の目の美女だ。
即席の「聖婚」、俺は女神の「生贄」だ。このフカフカのベッドは女神の祭壇に他ならない。俺は女神のおもちゃだ。
百戦錬磨の女神たちは、俺をさんざんむさぼっている。まるで、自分たちを駆逐した男神への復讐のように。ドンドン上り詰めて、かつての栄光を疑似体験する。
俺はあいつを思い出した。
「海の息子」として生まれたあの男は、自分を稚児としてさんざん弄んだ破戒僧どもを皆殺しにし、もう一人の稚児と共に寺を焼いて山を降りた。かつて俺は赤ん坊のあいつを海辺で拾って、ある夫婦の家に預けたが、しばらく経ってその屋敷を訪ねた時には遅かった。
俺が屋敷にたどり着いた時には、すでにあいつの家族や雇い人らは殺され、あいつは賊にさらわれていた。賊どもはあいつを問題の寺に売ったのだ。寺の破戒僧どもはあいつを「生きた人形」として玩弄したが、いくら「それ」が当たり前だった時代とは言え、あいつにとっては耐え難い屈辱だった。
血と精で汚れた屋敷で、あいつは恐るべき「怪物」として生まれ変わった。
涼やかな美貌に、鋭い頭脳と「
「正しさより望ましさ」、それがあいつの原動力だった。どれだけ人生を楽しめるか、己自身を賭けていた。あいつが俺に深い関心を持って接したのも、子供のような好奇心があったからだ。それに、俺と緋奈を共有して楽しんだのも。
「お前は人の姿の書物だ」
確かに俺は、千年以上の知識の積み重ねで「生きた百科事典」になっていたが、それでも俺はこの世の「全て」を知るのは不可能だろう。
色々な意味で「兄弟」だったあいつを思い出したついでに、緋奈の記憶が蘇る。俺の最愛の女。緋奈、また会えるならば、また愛し合えるならば、俺は女神たちの「おもちゃ」で居続けるのをやめよう。
お前こそが俺の「女神」なのだから。
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