第31話 人の家に行くと独特な匂いがする

「ええ!?東条先輩も試合に参加したんですか!?それなら私も見学すればよかったです~!」

「別に大した活躍はしてないよ。普段練習してるバスケ部の人たちにはとても敵わないよ」

「そんな人たちと一緒に試合できることがすごいですよ!」

 東条の住所を聞いてからしばらくした後部活の見学を終えた東条と理央と一緒に下校する。会話の内容は東条が見学していたバスケ部の練習風景。理央は相変わらず東条に夢中になっているから、俺がさっき住所を聞き出したことはバラしていない。

 確かに人のプライバシーをこそこそ聞き出すのは良くないことだと自分でも思う。でも東条は俺の家には何度も来ているのに俺は東条家に一度も訪れたことがないのは不公平だ。家庭の事情がどうであれ家に行くのはいいんじゃないか?

「…東条、今週の日曜にお前ん家行ってもいいか?」

東条と理央の会話をさえぎって切り出した。……なんで友達の家に行く約束をしてるだけなのに俺は緊張してるんだ?

「日曜か、いいよ」

あっさり承諾された。東条は家に誰かを招待するのを嫌がると思っていたのは俺の杞憂だったようだ。まったく……これじゃあ一人で不安になってたのがバカみたいじゃないか。

「私も行きたいです!」

理央がこの場に乗じようとするが、

「理央はダメだ」

それは明らかな拒絶だった。東条の顔は穏やかだが絶対に理央には来てほしくないという意志を感じる。確かに女子を家に上げるのは色々疑われるかもしれないから断っても不思議ではない。でも、2人きりじゃなくて俺もいるんだからいいんじゃないか?そう思ったが……

「……なんで私だけダメなんですか?」

「家は狭いし騒いだりできないんだ。智樹1人ならいいけど理央と2人はちょっと……」

「……東条にも事情があるんだし仕方ないだろ。理央は諦めろよ」

「…わかりました」

理央には悪いがここは東条に乗じよう。確かにあのアパートは部屋も狭そうだし壁も薄いのかもしれない。大人数で行ったら本当に迷惑になるかもしれない。


 東条と別れて理央と2人で帰り道を進んでいく。東条が見えなくなった途端にいきなり理央が小突いてきた。そして俺に耳打ちする。

「東条様に変なことしたら許しませんからね」

「お前じゃあるまいし何もしねぇよ」

「……できればお土産に写真を撮って…」

「できるわけないだろ!変なことさせんなよ!」

「ズルいですよ。私だけのけ者にして2人だけで。ていうかなんで私のフォローしてくれないんですか?石川先輩が『理央も家に上げて』ってお願いすれば東条様も折れたかもしれないのに」

「お前みたいなストーカーを家に上げたりしたら盗聴器つけるかもしれないから」

「………いやそこまでしませんよ流石に」

「いいから黙って待ってろ。写真は無理だけどお土産話くらいは聞かせてやるから」

「期待してますよ!!」

「……現金な奴だなまったく。キラキラ目ぇ輝かせやがって」

「でも、やっぱり怪しくないですか?東条様があそこまで私を遠ざけるなんて」

「確かにあいつらしくなかったけど…お前は女子だし…な?」

「私は東条様になら何されてもいいけど…」

理央がニヤニヤしながら頬を赤らめる。これが恋する乙女…なのか?



 

 そして訪れた日曜日。前にも待ち合わせに使った朝日公園に自転車で向かい、東条が現れるのを待ってから合流次第東条家へ。本当は東条家の場所はわかっているが、どうやって知ったのか聞かれても困るので知らないていで黙って東条に付いていく。

 この時間に東条家に行くことは理央も知っているから、こっそり付いてくるんじゃないかと疑い、たまに後ろを確認するが尾行されてる気配はない。どうやら約束は守ってくれているらしい。


 そうして10分くらいで東条家に到着。写真で確認した通りの古いアパート。もちろん東条の前でそんなことは言わないし、気にしない様子で東条家が入居しているアパート2階の203号室に入る。

 中はやはりというべきか広くはない。でも生活には困らないくらいの広さはあるし、家具や調度品もたくさんある。東条の部屋も用意されているし、部屋にはテレビもゲームもあった。古いアパートに住んでいるからと言って生活に不自由はないだろう。

 部屋の中を見回した後(恒例のエロ本チェックはしてみたがベットの下やタンスの下にはなかった)、部屋でゲームをやった。

 東条の趣味は格闘ゲームかアクションゲーム。格闘ゲームのネット対戦もやっていて、かなりのランカーのようだ。俺も格ゲーは好きでやってるけど、東条は段違いに上手かった。東条と対戦相手の動きが速すぎて、俺も同じゲームをプレイしてるはずなのに…まるで別次元だ。何度か東条と対戦したけどまったく相手にならない。ハンデをつけて東条の使用キャラのHPを半分にして試合をしても勝てない。

「お前さぁ…少しは手加減してくれよ。全然勝負にならねぇ」

「智樹は手加減したら文句言いそうじゃん」

「丁度いい塩梅あんばいで手加減してくれたらいいんだよ」

「負けたら文句言うし、下手に手加減しても文句言うし…こういう奴いたわ小学生の頃」

「誰が小学生だ!……いいよ!俺は小学生じゃないしゲームはやらない!」

「……やっぱり小学生みたいだ……」

、ゲームはやめて東条と色々話をした。理央と東条の話も聞いた。やはり中学の頃から理央は猛烈なアピールをしていたようだ(多分ストーキングも)。東条は中学生の頃は陸上部に入っていて長距離の走者だったようだ。それならマラソンで1位を取ったのも納得がいく。中学の頃には東条は女子にちやほやされてたんだろうな。


「ただいま。あ!いらっしゃい智樹君!」

「おかえり」「お邪魔してます!」

ここでようやく俺は東条悟以外の東条家の人と話をする。この人は…東条のお姉さん?やはり東条家の人間というべきかすんごい美人!軽くウェーブのかかった長めの茶髪、茶色のコート、黒のデニム、黒のヒール、ファッション雑誌に載っていてもおかしくないくらい綺麗な大人の女性。下品にならないくらいの香水の香り。大学生か新社会人かな?

「お…おれの名前知ってるんですね!はじめまして!」

「はじめまして!今日友達が来ることは悟から聞いてたわ。うち狭いけどゆっくりしていってね。よかったらご飯食べてく?」

「えっ!?いいんですか!?」

「もちろん!悟が友達連れてくるなんて珍しいわね!」

、挨拶はそろそろいいでしょ」

「………母さん?」

「はい!東条悟の母の直子なおこです!」

東条のお姉さんだと思っていた人は母親だった。


 



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