第25話 恋のキューピットなんてただのわき役

 悪魔(葛原理央くずはらりお)と契約した時に連絡先も交換した。ほかの男子生徒からすれば羨ましい限りだろうが、今の俺の心境はどんよりと暗い。あの脅迫の後いろいろ考えたが結局いい方法なんて思いつかなかったので理央から意見を聞こうとしていた。恋愛経験どころか女子と話すこと自体 広咲茜ひろさきあかね以外にはほぼない俺には恋のキューピットは無理難題だ。陰鬱な気分になりつつLINEアプリをタップ。


「夜分に失礼ですが質問です 

私は何をすればいいでしょうか?」


文面を送信。5分くらいして返信が返ってきた。


「今週の土曜に私の家に東条先輩とあなたを招待するのでとにかく私を褒めてください

それとすぐに私の意見を聞かずに自分で考えてください」


…俺だって考えたんだよ!?ていうかなんで後輩の恋愛を応援してるのに説教されなきゃいけないの!?先輩に対してなんっつー態度だ。

 おっと、落ち着け俺!あの悪魔に下手に楯突いたらどんな仕打ちを受けるかわからない。理央の機嫌を損ねないように…


「申し訳ございません

理央さんに力添えできるよう以後精進します」


「では当日はよろしくお願いします」


ふぅ…疲れた…ていうかこれが本当に女子高生との会話なのか?まるで上司と部下…部下は先輩の俺。なんでだよ。

あっ…理央の家なんて知らないぞ…また聞かなきゃいけないのか…いや待て、東条も一緒に行くんだからついていけばいいじゃないか。


 

 そしてついに土曜になって東条と一緒に葛原家にお邪魔することになった。近藤家ほどではないにせよ相当立派な家だ。玄関にはハウスキーパーのゴールデンレトリバー犬もいる。しっかり手入れされた庭は休日にはバーベキューでもできそうな広さ。そして家の中に案内されれば気品ある理央の母親がもてなしてくれた。

「いらっしゃい。悟君と智樹君。いつも理央がお世話になってます」

さすが理央の母親だけあってすんごい美人。それだけじゃなく東条はともかく初対面の俺にもしっかりと挨拶をしてくれる。礼儀作法もちゃんとしていて性格もいい。


 家に入ってからは理央の部屋で理央母が入れてくれた高級そうな紅茶と理央が焼いてくれたケーキを食べていた。

「うまい!こんなうまいケーキ初めてだ!……このクリームの甘さと生地のふわふわ感……それとチョコのほろ苦さ…が…レボリューション!…ですねぇ!」

「智樹…キャラおかしくなってない?」

「このケーキがうますぎるんだよ!あの…あれ!味の宝石箱!これ何個でもいけるぞーーー!!」

東条は俺の反応を見て楽しんでる。これでいいよな?

理央を見ると…なんだか不機嫌そう。なんでだよ?

「理央ちゃんと付き合えばこれがいくらでも食べられるんだよなぁー!……羨ましいなぁ!(裏声)」

東条は愉快そうだ。よし!上手く行ってるはず!

「……石川先輩トイレ行きたくなってませんか?案内しますよ」

「えっ別に…」

「行・き・た・い・で・す・よ・ね?」

なんか知らんけど、顔が怖い!

「お、おう!丁度行きたいところだったんだよ。…理央ちゃんは気が利くなぁ!」

「東条先輩。少し待っててくださいね」

俺たちは部屋をでて少し廊下を歩いていたら急に理央が肘で小突いてきた。

「どこのインチキグルメレポーターですか!?あんな不自然な感想言ってたら私が仕組んだのバレバレじゃないですか!」

「えっ……上手くできてなかった?東条も喜んでたし」

「東条先輩は珍獣でも見るように楽しんでましたよ。もし仕事で上司やお得意さんに接待する時はあれでいいと思いますよ」

「理央ちゃん褒めるの上手いねぇ!」

「褒めてないです。もう最悪……石川先輩に頼んだ私が馬鹿でした…。でも下手に軌道修正なんてしても変だと思われるし……今日はそのキャラでいきましょうか」

「おう!この太鼓持ちキャラも案外悪くないぞ!ハハッ!」

「腰巾着は嫌なのに太鼓持ちはいいんですね……」

理央に色々文句は言われたが、結局方針は変わらなかった。東条に怪しまれないように本当にトイレに行って用を足してから二人で東条が待つ理央の部屋に入った。


「で?作戦会議はもう済んだ?」

部屋に入った直後の東条の第一声だった。


「な…んの話ですか?私はただ石川先輩をトイレに案内しただけですよ」

「そ、そうだよ東条。理央ちゃんは俺に懇切丁寧にトイレの場所を教えてくれたよ。フローラルの香りが漂ういいトイレだったよ。まったく」

「だって智樹のキャラいつもと全然違うし」

「何言ってんだよ東条。俺は…」

「智樹。一旦黙っててくれ」

「お、おう」

東条がぴしゃりと俺の発言権を奪った。東条の顔も険しいしなにやら不穏な空気……東条は視線を理央に向ける。

「理央が俺のことをどう想おうと勝手だし、どんなアピールをしてきても構わない。でも、俺の友達を巻き込むのはやめてくれないか。こんなことされても俺の気持ちは変わらない」

「ごめん…なさい」

理央は泣きそうな顔で東条に謝った。

 確かに理央のストーキングは度が過ぎてるし、俺を脅迫してまで東条を自分のものにする協力をさせようとしていた。正直俺も反感が全くない訳じゃない。

 しかし、だ。理央の行き過ぎる行動は全部東条が好きだからこそ。そして俺は想い人に一方的に突き放されている理央に同情してしまう。きっと何年も東条を追いかけているんだ。その願いは未だに成就せずそれどころか儚く散ってしまいそうだ。これは…あまりにも…。だから…

「違うんだよ東条。これは全部俺がやったことなんだよ。俺が理央ちゃんを褒めれば東条も振り向いてくれるんじゃないかって。頼まれたからやってるんじゃない。俺はただ……理央ちゃんを応援したいだけなんだよ」

「……そっか。智樹がそういうなら信じるよ」

東条はそれだけ言って部屋を出て行った。



 東条が部屋を出て行ってからしばらく二人とも黙っていたが、先に理央が口を開く。

「どうして、私を庇ったんですか?」

「まぁ……いろいろ葛藤はあったけど、東条に責められてる理央ちゃんを見てたらかわいそうになってきちゃって……。でも、応援してるってのは本当。理央ちゃんは悪魔みたいな女で、性格悪い所をうまいこと笑顔でごまかしてる性悪しょうわるの八方美人だけど、東条だけは本気で好きみたいだし」

「ありがとう…ございます。…でもそんなに悪いって言わなくても」

「そこは訂正しない。絶対に。俺が出会った女の中でもダントツで性格悪い」

「先輩そんなに女性経験豊富なんですか?」

「やかましいわ!よく先輩相手に言えたな!」

「……石川先輩って思ったより優しいですね。最初に見た時はただの東条先輩の腰巾着だと思ってたのに」

「こいつまだ言うか…」

「きっと女の子に好かれると思いますよ。先輩」

「…おう」

「今度は……私が協力しましょうか?」

「ん?」

「恋愛相談ですよ。狙ってる子とかいないんですか?女子として少しなら参考になるかもです」

「まったく…クソ生意気な後輩だな…でも聞いてほしいかも」

俺は意中の女の子の名前を口にした。

                            

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