第24話 人のプライベートはそっとしとけ

 メモ帳には東条の写真がびっしり。それも学校にいる時だけじゃなく登校時やどこかの店で撮った写真まである。よく見ればほとんどの写真は正面から撮影されたものではない。学校行事なんかで撮影された写真以外は隠し撮りされたものだろう。このメモ帳の持ち主が撮影者……ていうか…これは…ストーカー。

 気がつけば1ページ目だけじゃなくて全てのページをめくっていた。だから気づかなかった…俺の正面に誰かが立っていることに……。

「見ちゃったんですか…石川先輩」

「……うん」

正面にいたのは葛原くずはら理央りおだった。

 

 なんとなく察しはついてた。この写真集は中学時代の東条も写っていたし、写真の数は100枚以上はあった。東条がいくらイケメンで女子にモテるからって、ここまで熱心にストーキングしてる子なんてそうはいない。おのずと犯人は限られてくる。しかし、才色兼備で誰からも好感を持たれる理央にまさかこんな悪癖があったなんて……。

「そのメモ帳は…私の友達の落とし物です。返してもらっていいですか?」

「もちろんだよ……ちょうど落とし主を探そうとしてたところなんだよ…それで名前が書いてないか確認しようとして中身を見ちゃったんだよ…大目に見てくれ」

「別に怒ってないですよ」

口調は穏やかで笑顔を作っているが、怖い!メモ帳を受け取る理央の力がメモ帳を破いてしまうんじゃないかってくらいに異常に強い!友達が落としたなんて絶対嘘だろ……。

「本当に…友達が落としただけですから…」

「わかってるよ理央ちゃん…信じてるって、ハハ」

「…何がおかしいんですか?」

「ええ?別におかしくなんて…」

「今笑ってましたよね!?私の言った事信じてないって顔してますよね!?」

「ごめん!気に障ったんなら謝るから!信じるって理央ちゃんの話を!」

「いえ…もういいです。先輩の思ってる通りそれは私のです」

うわ…流れが変わってきた…。

「ほんとにミス、凡ミス。こんなところに落としちゃうなんてうっかりしてた。それをまさか東条先輩のに拾われるなんて……」

「安心してくれよ…絶対に誰にも言わないから…」

許してくれ東条…本来ならストーカー行為をやめさせるのが正解だろうけど、この子を敵に回すのは怖い…。

「それは当然。あなたは女子高生のプライバシーを勝手に覗き見た」

「ちょっと待ってくれよ…俺はただ落とし主を探そうとして…」

「石川先輩が何言っても無駄ですよ。私みたいなが本気を出せば石川先輩をに仕立て上げて社会的に殺すなんて簡単ですよ」

「はぁ!?ストーカー!?何言ってんだか……」

その瞬間理央は廊下に手をつき俺に急接近。これは…壁ドンってやつ?

「私ならできるんですよ。私のメモ帳を、いやらしい妄想をしていたって言えば皆信じちゃうんですよ。私、なので。こういうことになると男の人の意見って誰も聞きませんよ。クラスメイトも先生も誰もあなたの味方はしません」

「…お…俺を脅してどうする気だよ?」

「協力してください」

「……は?」

「ですから、写真を撮ってくださいよ。のあなたなら東条先輩に警戒もされにくいですし」

「いや…近くにいるからこそ気付かれるんじゃないか?ていうかその腰巾着って言うのやめろ」

「それもそうですね……じゃあ私を持ち上げて東条先輩が好意を持つように誘導してください」

腰巾着の件は無視かよ。

「なんで俺が…」

「ストーカーだと思われてもいいんですか?」

「誰が言ってんだよ!……わかったよ!やればいいんだろ!」

「ありがとうございます~!と言ってもタダでとは言いませんよ。一方的に命令しても必ず裏切られるか飼い主の手に嚙みつこうとするはず。だから犬には餌を与えるんですよ。もし協力してくれるなら私の手作りのお菓子をあなたにも特別に振舞ってあげることを約束しましょう」

「え?……元々クラスの連中にもほいほい配ってたじゃないか」

「でも遠慮してたでしょう?東条先輩に渡してるお菓子だからたくさん食べるのは気が引けたはず。心配しないで下さいよ。ちゃんと石川先輩の分も別に用意しますよ」

「マジで?……」

意識した訳じゃなくて本能的に「ごくりっ」と喉が鳴ってしまった。それを聞いて満足したのか理央は心底愉快そうな顔で俺を見ながら

「じゃあよろしくお願いします。先輩」

「待ってくれ!一つだけ聞かせてほしい……何でそこまで東条が好きなんだよ」

「愚門ですよ。あの整った顔立ち、柔和にゅうわな笑顔と立ち振る舞い、鍛えられた体。完璧な男性とは東条先輩のこと。あの方に比べたら他の男共は下郎、けだもの

「……あいつ全然勉強できないぞ。今だって補習の真っ最中だ」

「誰にだって欠点はありますよ。いえ、東条先輩の余りあるカリスマ性は勉強が苦手なんて欠点を補うのに十分です」

理央はそう言ってこの場を去っていった。

動悸が激しい。手を見れば汗でびしょびしょ。とりあえず深呼吸……。


 才色兼備なお人好しだと思ってた理央がまさかこんな悪魔みたいな女だったなんて……。しかもあの女に協力しなけりゃいけなくなっちまった……まるで悪魔と契約を交わしちまった気分だぜ……。


 あの察しのいい東条が理央の本性に気づいてない訳がない。あいつが理央と距離を置きたがってたのは彼女の異常性、ていうかストーキングが原因だったんだな。ところで東条が理央を好きになるように誘導するって具体的に何すればいいんだよ……。




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