第18話 青の抹消編④ 再会の挨拶は手短に

 チャリを漕ぎ続けて20分でようやく目的の『青の抹消ブルーブレイカー』のたまり場――廃工場に到着した。工場の入り口前には敷地があり、そこにはメンバーが30人くらいいた。敷地内にはリーダー――鷹山たかやまの姿はない。工場の中ということになる。

 俺たちは敷地を囲っている門前にいた。周りには人も建物もほとんどない殺風景な所だ。全力で自転車を漕いだから走行音やブレーキ音は隠しようがない。だが奴らが接近してこない。おそらく俺たちが門前をくぐったらゴングが鳴るんだろう。つまり奇襲は、ない。

 携帯で時間を確認、時刻は10時57分。まだ時間には余裕があるな。流石にここまでの道程ですこし疲れてしまった。東条は…まったく息が上がっていない。本当にタフなやつだ。

 すぐに門をくぐろうとする東条の前に掌をかざして止める。息を切らしながら目で「少し待て」と訴える。どうせなら少しくらい休んでもいいはずだ。東条も意図を察して待ってくれた。

 約3分後、時刻が11時になったのを確認した後、東条にジェスチャー――門の方を指さして突き刺すような仕草――突入の合図だ。

「うおおお!!!覚悟しろよてめぇら!!!」

 怒声と共に門を潜り抜ける。奴らも少しだけ怖気づきながら事前に用意していた武器(野球バットやらテニスラケットやらスポーツ用具)を振りかざす。

 だがそんなもの俺には通用しない。鷹山も言っていた通りこいつらには実戦経験がない。何の躊躇もなく人に危害を加えることにまだ幾ばくかの抵抗がある甘さの抜けない連中。難なく動きを見切って攻撃をいなしてみぞおちに拳をぶつける。そうやって3人倒した後、門前で出待ちしていた東条が満を持して登場。予想だにしない奇襲に奴らの顔が硬直していくのがわかる。狼狽えた顔面に拳が炸裂する(東条人を殴るのに躊躇はしない)。俺一人を相手にするだけでもつらいのにもう一人屈強な男を相手にしなければいけなくなった。『青の抹消ブルーブレイカー』の戦意を削ぐための効果的な心理誘導。

 それでも奴らはまだ諦めなかった。端の方に置かれていた籠一杯の硬球野球ボールを俺達に目掛けて投げてきた。まさに死球デッドボール。これには少したじろぎながらなんとかボールをかわす。

 だがこれは奴らにとっても致命的だ。照準が若干ずれたボールが俺達の足元に転がってしまい武器として使うのは容易い。剛速球でボールを投げ返して次々と命中。バットを持っていた奴は投げられたボールを打ち返す…ことはできずに腕に命中(味方が近すぎて上手くバットが振れなかった)。そんな『青の抹消ブルーブレイカー』にすかさず東条の拳や蹴りがぶつけられて戦況は明らかにこちらが優勢だ。

「智樹!ここは任せて工場に行ってくれ!」

「お前だけここに残しておけるか!」

「この戦いは鷹山ボスを倒さない限り勝ちじゃない!こいつらに時間かけてたら渡を助けられないだろ!」

「……わかった。こんな奴らに倒されんなよ!」

「大丈夫!」

東条は気さくに笑って見せた。まるでゲームを楽しんでいるかのように。本当に東条に協力してもらってよかった。でも、なんでここまで戦えるんだ?なんて疑問も湧いた。

 東条が大半の敵の注意を引きつけている間に廃工場に向かって突っ走る。途中で野球ボールを投げてきた奴もいたが、ボールを素手でキャッチ。流石にグローブ無しは痛いな。痛みに耐えながらそのままボールを投げ返しそいつの胸に命中しゴホゴホと咳が出ていた。その隙に無防備なボディに拳をねじ込む。

「2度とボールを人に投げるなよ!」

これは野球道具を正しく使わずに人を痛めつける為に使った罰だ。どうせこいつらが使ってるのは野球部かどっかの体育館で使われてた野球ボールやバットだろう。ろくに野球なんかしないくせにかっぱらいやがって…。



 一悶着の後、ようやく天道が監禁されていた廃工場に入ることができた。

「思ったよりも早いな黒狼ウルフ。いや、褒めるべきは助っ人の方かもしれないがな」

「ああ。俺の相棒が活路を開いてくれた。そうじゃなきゃもっと時間食ってタイムリミットまでにお前の元までたどり着けなかったかもな」

黒狼ウルフが仲間を連れてくるとは想定外だったがな。だがこれでやりがいのあるゲームになりそうだ。ヘロヘロのお前を倒したってつまらないからな」

 鷹山たかやま あおい。俺が唯一喧嘩で勝てなかった相手。それもこいつには何度も敗北している。トレードマークの青いジャケットに身を包んでいてもその体は筋骨隆々だとはっきりわかる。握りこぶしだけでも俺の倍くらい大きい。体格的には圧倒的に不利。

 そして現在の時刻は11時26分。タイムリミットの12時まで残り30分余り。じっくり消耗戦をやってる余裕はない。さっさと天道を助け出して東条と『青の抹消ブルーブレイカー』のメンバーの戦いを終わらせないとな。

「おいおい、こんな時に仲間の心配してるのか?」

「はぁ?お前をぶっ倒すのに集中してるに決まってるだろ」

「今のお前は目の前の俺より天道や助っ人の方が気になってるぜ。言い換えれば俺との1対1タイマンから目を背けようとしている。なんせ一度も勝ったことがないんだ、ビビるのが当たり前。ましてこれはお友達を助けられるかを賭けて戦うんだから絶対に負けられない。そんなひっ迫した状況から逃避しようとして仲間の心配をして自分の理性を保ってる」

「知ったような口聞くんじゃねぇよ!」

「寂しいこと言ってくれるなよ。俺と黒狼ウルフは何度も死闘を演じた仲だろぉ。今のお前はまさに天敵に怯える小動物みたいな顔してるぞ」

「そりゃあ…黒狼ウルフからずいぶんランクダウンしちまったな。今すぐしっぽ巻いて家で寝てたいわ。それでもやるしかねぇんだろうが!勝つしかねぇだろうが!じゃなきゃ天道…俺の仲間は帰ってこねぇだろ!」

「安心しろ。黒狼ウルフが勝とうが負けようが天道は開放する」

「……え?」

「当たり前だろ。こっちだってこんな奴匿っておいたら他のグループに目をつけられてどんな反感を買うかわからない。こいつの蝙蝠っぷりは有名だからな。それに天道に飯や寝床を用意してやる義理はない」

「…ごもっともだな」

「お前はせいぜい俺の兵隊を肥やす餌にでもなってくれ。黒狼ウルフにボコボコにされたあいつらの前で俺が黒狼ウルフを倒せば士気も上がってさらに戦力は盤石になる。……きたるべき時に備えてな」

「……何の話だ」

「おっと、口が滑ったな。そろそろ始めようか。俺達の1対1タイマンを」







 

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