第17話 青の抹消編③ 奪還ゲーム

「この電話は天道の携帯だ。こいつの携帯見てたらお前の名前が入ってたんでな」

携帯は天道のやつだけど鷹山が話してる。予想は当たってたけど、これはどういう状況だ?

「天道がな、俺のもんにちょっかい出してきたから落とし前つけてやったんだ。つっても本人は悪気はないって言ってるんだけどな。肩がちょっとぶつかっただけなのにいきなり襲われたとか。俺もそれだけなら荒っぽいことする気はないが、天道渡となると話は別だ。こいつはヤンキーの間を行き来してる蝙蝠こうもり。見逃すわけにはいかねぇんだ」

「だがあいつは悪さはしないって言ってたぜ。もう荒くれ物とのしがらみも切ってるんじゃないか?」

が言っても説得力がないだろ『黒狼ウルフ』」

「……その呼び名久しぶりに聞いたわ。いつ聞いてもダサいな」

「俺としちゃあお前の言い分を信用してもいいんだが、他のやつはそうもいかねぇ。お前に何度もボコられてる奴もいるしな」

「天道をどうするつもりだ?今はあいつと同盟結んでるから、調子こいてるとタダじゃ置かねぇぞ!」

「お前と天道が?そりゃずいぶん心境が変わったみたいだな。

ならゲームをしよう。今から2時間やるからお前が俺の所まできて1対1タイマンで勝てたら天道は開放しよう。俺は逃げも隠れもしない、にいる。もちろん俺の部下が邪魔するがお前ならなんとかするだろ」

「悪いが俺は容赦しない。そいつら全員半殺しにするかもしれないぜ?」

「かまわないぞ。あいつらだってそれくらいやらねぇと天道の開放に納得しない。それに本気のお前と戦わせて兵隊の強化もしたいからな」

「……つくづくお前のてのひらの上を転がされてる気分だ。相変わらず見た目は脳筋キャラのくせに妙に計算高いよな」

「全ては『青の抹消ブルーブレイカー』の為だ」

「わかったよ。このゲーム受けてやる」

「ああ。黒狼ウルフが来るの楽しみにしてるぜ」


 電話は切れた。今は午後9時57分。タイムリミットは深夜0時ってことか。

 『青の抹消ブルーブレイカー』―――鷹山葵をリーダーに据える抗争集団。メンバーの人数は20人弱、だったが今はわからない。抗争集団なんて言ってもあそこのメンバーは率先して暴力沙汰なんて起こさず、学校にも家にも行き場のない少年達に鷹山が居場所を与えているような側面があった。それでもあのヤンキーがうろうろしている薄暗いダウンタウンでたむろするにはそれなりに腕力が必要。だからこそ俺を使って腕試しがしたいんだろう。おそらくメンバーのほとんどは喧嘩慣れしていない雑魚。時間的にも奴らたむろしている廃工場まで自転車で行けば20分もかからない。

 だが問題は鷹山葵との1対1タイマン有象無象うぞうむぞうとはいえ20人を相手にしていたら体力的にはギリギリ。その連戦の後に鷹山と戦ったところで勝ち目はない。どう考えても助っ人が必要だ。奴は俺が一人で来ると思っているのか?鷹山と戦うのは俺一人じゃなきゃいけないけど、青の抹消ブルーブレイカーの相手は誰かに任せてもいいはずだ。

 ………ぐずぐず悩んでる時間はない。本当はこんな荒っぽいことに巻き込みたくないんだが……。

 俺は携帯であいつに連絡を取る。

「智樹が電話かけてくるなんて珍しいな。こんな時間にどうした?」

「東条。ちょっと頼みたいことがあるんだ……」

「……なにかあったのか?」

「天道が『青の抹消ブルーブレイカー』って連中に攫われた。助け出すためにお前の力が必要だ」

「カチコミでもするの?」

「まぁ、そんな感じだ。0時までがタイムリミットだ。悪いがあまり時間はない。すぐに準備して朝日公園で待ち合わせだ。場所は街はずれにある廃工場。よく知ってる場所だから案内は任せてくれ。徒歩だと時間かかるからチャリで来てくれるとありがたい。敵の数ははっきりわからないが20人、くらいだ。だがその中に一人身長190くらいの大男がいる。そいつがリーダーだ。こいつは俺一人で相手するから東条は手出しするな」

「どうして?」

「奴は俺との1対1タイマンで決着つけたいらしい。東条が喧嘩に入ってきたら天道に危害を加えるかもしれない。それにあの男は強すぎる。お前が相手しても危険だ」

「……わかった。今すぐ向かうよ」

「悪いな」

電話を切る。俺はヤンキー時代に着ていた黒のパーカーをクローゼットから取り出して着替える。茜がピンクのパーカーをよく着ていたから意識して、ていうのはあるかもしれない。これも俺の黒歴史の一部だし二度と着るつもりはなかったんだがな。

 東条には俺が青の抹消ブルーブレイカーのリーダー鷹山葵に一度も勝てたことがないってことは言わなかった。勝ち目がないってわかってたらこんなゲーム受けるなよ、って言われそうだからな。東条が協力して鷹山以外の奴らを大半倒したとしても、俺が鷹山に勝てる可能性なんて1割にも満たない。だがここで天道を見捨てたら守と天道の友情に亀裂ができるかもしれない。勝敗に関係なく戦うしかないんだ………。

 当然守には言えない。あいつのことだから付いて来ようとするだろうけど、体も小さいし喧嘩慣れしてるタイプじゃないから返り討ちに遭うだけだ。俺も守をかばいながら戦ってる余裕はない。



 家を出て待ち合わせ場所の朝日公園に向かった。チャリを漕いで10分くらいかけて到着。すでに東条は待っていた。俺の家より東条の家からここまでの距離の方が長いはずなのに。だが今はそれよりも迅速に動かないと…。

「よく来てくれた。早速行こう」

「ああ」

東条は走りやすそうなマウンテンバイクでここまで来てくれたようだ。ありがたい。

「お前本当はビビってるんじゃないか?」

道すがら東条が問いかけてくる。

「は?なんでだよ」

「電話してる時の声がちょっと震えてた。今も必死にそれをごまかそうとしてるように見えるぞ」

これは隠しきれないな……。

「ああ。青の抹消ブルーブレイカーのリーダーが厄介なやつでな。ちょっと苦戦するかもしれない」

「……そっか。渡が言ってた一度も勝てなかったやつがリーダーなのか」

それには答えない。だがこの沈黙が意味するところは東条にも伝わってるだろう。

東条はそれ以上何も聞かなかった。ほとんど負け戦ってわかってて協力してくれるってことか。

黙って俺の後ろをついてきてくれる東条がすごく頼もしく感じられた。久しく忘れてたな…。これが『仲間』ってやつなんだ。





 

 

 

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