第16話 青の抹消編② 自家用ゲームもいいけどゲーセンも捨てがたい

 一悶着あったが、こうして俺達4人は普通の学生らしく学校帰りにゲームセンターで遊ぶことにした。

 定番のエアホッケーは東条と俺、守と天道ペアでダブルスをやって俺達のチームが負けた。というよりほとんど俺のミスのせいで負けた。ゲームセンターなんて来るのは初めてでこのゲームも見たことはあるけどやったことはなかったのに守や天道にごり押しされて結局練習もせずにやる羽目になった(俺が参加しなきゃダブルスにならないから盛り上がらないのはわかるが)。これでも負けず嫌いな性格だ。いきなりよく知らないゲームをやらされて特に見せ場もなく負けるのは悔しい。だから何度かトライしたがやっぱり勝てない。

「お前らなんでそんなに勝てんだよ」

「僕は普通だと思いますけど、渡君がやたら上手いんですよ。ガードも固いし軌道も安定してますよね。もしかして結構やってるの?」

「まぁエアホッケーはゲーセン来たら大抵やってるし」

流石いろんな悪ガキの間を渡り歩いてきた天道渡。この口ぶりだと何度もゲーセンで遊んでるんだろうな。俺はそんな誘い一度もなかったけどな。ヤンキーでもゲームやって交流を深めるとか営業リーマンみたいなことやってたんだな。

「じゃあ天道、俺とペア組もうぜ!」

俺はスポーツ漫画に出てくるような爽やか男子を演じながら笑顔で誘う。これならイチコロでしょ。

「やだよ。お前勝ちたいから俺と組むんだろ?もし俺がミスしたらボロクソ言ってきそうじゃねぇかよ。あとその『磯野、野球しようぜ!』みたいな軽いノリやめてくれ。気色悪い」

「なんだとこの野郎!」

「兄貴落ち着いてくださいよ。ホントのことなんだし」

「そういう爽やかキャラはスポーツできる奴に限るだろ。エアホッケーが上手くできない今のお前がやっても逆効果だ」

「……そんなに正論ズバズバ言ってこなくてもいいじゃん。……俺だって少しは楽しみたいし………」

ちくしょう…なんだこの居心地の悪さは……。天道が仲間に入ってから俺が少し軽口叩いただけで守と東条がフォローに入るからずっと悪者扱いされてるような気がする。天道の「石川と付き合ってやってる」みたいなスタンスがどうしても鼻につく。

「兄貴、僕ともペア組みましょうよ」

「いいよ。お前普通って自分で言ってたじゃんか」

「……兄貴って勝てればいいんですね」

「石川は昔からこういう奴だよ。喧嘩でもちょっとしたゲームでも絶対に負けたくないんだろうな。そんな奴だからこの辺の悪ガキ全員敵に回しちまう。……たしかにこいつは喧嘩は強いけど最強って訳じゃなかったな」

「えっ、そうなの!?兄貴より強い人もいたんですね」

「いたな、俺が知る限り一人だけだったけど」

「そんな奴がいるのにわざわざ敵作るような立ち回りするとか不器用だよね、智樹って」

「オイオイ、俺の過去の話して論者ぶってんじゃねぇよ天道。誰が不器用だコラ」

「不器用って言ったの悟だけど」

「不器用なのは今もだけど兄貴より強い人ってどんな人なの!?」

「さらっと今の俺もディスってきたな!」

「不器用な石川でも勝てなかったのは…」

「天道!もう昔の話はやめてくれよ!これ以上ヤンキーの頃の話してこいつらを怖がらせたくないんだ」

「……そうか、わかったよ。自分が負けた話なんてされたくないもんな、ぶきっちょ負けず嫌い」

「うるせぇな!!」

守も東条も天道もゲラゲラ笑っていた。やっぱり俺だけ肩身が狭い。

でもこの話は本当にしてほしくない。ていうかもうのことは思い出したくもない。負けず嫌いとか以前にこの俺がまったく歯が立たずに何度もボコボコにされたあの筋骨隆々の巨漢なんてさっさと記憶から消してしまいたい……。

 


 エアホッケーのほかに定番の太鼓の達人やらカーレースなんかをやった後、ゲームセンターの中でも異彩を放つ花園とも言えるきらびやかな小部屋、つまりプリクラコーナーを指さして守が言った。

「せっかくだし4人で撮りましょうよ」

「いや……あれって男だけだと入れないじゃないか?」

「なんで男はダメなんですか?男女差別でしょ」

「女子中高生中心で使ってるから男が出入りしてたら盗撮やナンパ目的だと思われるからだろ。実際に被害に遭った子もいるみたいだし、仕方ないだろ」

「でも今は女子も入ってないし問題ないでしょ」

だろ?後から入ってきていちゃもんつけられるのは御免だ。だいたい野郎だけで思い出写真なんか撮って何が楽しいんだよ。デコレーション?あんなもんはせっせと身だしなみに気ぃ使ってる女子の嗜みだろうが。まだ証明写真撮ってた方が納得できるわ」

「俺もプリクラはちょっとな……」「恥ずかしいよな……」

東条も天道もプリクラを撮ることには難色を示した。今度は少数派じゃない。俺はまっとうなこと言ってるよな。

「わかりました、プリクラは諦めます。でも子供の安全ばかり考えてるから遊び場ってどんどん無くなっていくんだろうね。子供の自由を奪うのはいつだって大人のエゴだよ」

確かに。今じゃ公園の遊具も撤去され続ける一方だしな。守がらしくもなく含蓄あることを言い出したからちょっとびっくりした。



 そろそろ8時になろうという時間にお開きということになった。流石に男子高校生、特に門限なんてないし帰りが遅くなっても親が心配する訳でもない(俺の中学時代は深夜0時を過ぎても帰らないなんてことがざらにあった)。

 俺と守と東条は途中まで一緒だったが天道の家は完全に別の方向。ゲーセンから出たらすぐに別れることになる。

「今日は楽しかったよ!まさか渡君がこんなにゲーム上手だなんて思わなかった」

「このゲーセンは何度も来てるからほとんどのゲームはやったことあるし慣れてるだけだって。俺も楽しかったぜ」

「じゃあまた明日!」

「おう!」

守と天道は満足したように別れの挨拶をした。守はともかく天道がこんなに楽しそうにしてるの初めて見たな。ゲーム中も大声で騒いだりしてたし、守とハイタッチなんかしてたし。本当に仲いいなこいつら。守をいじめてた時から4か月以上経ってるとはいえこんなに親しくなれるもんなの?


 

 9時を過ぎてからようやく帰宅。ふぅ…なんか疲れたな。飯はゲームセンターと併設してたハンバーガー屋で済ませた。とりあえずシャワーだけ浴びて寝ようかな……あっ……再来週から期末テストだし勉強しといた方がいいかな……初日に一番苦手な歴史のテストだし。

 テストのことを考えながらシャワーを浴びた後少しだけでも頭に詰め込んでおこうと教科書を手に取って数分してから携帯が鳴った。

 ん?知らない番号だな……もしかして天道か?(交友関係が狭い俺に電話がかかって来ること自体珍しいから、知らない着信=今日仲間になった天道、という方程式が成り立つ。言ってて恥ずかしいわ!)


「久しぶりだな、石川」

「お前は……鷹山たかやまか!?」

鷹山たかやま あおい……電話の主は俺がかつて一度も喧嘩で勝てなかった男だった。

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