第13話 望まない救済

 僕は自分の弱さが嫌だった。いつも僕をいじめてくる連中のなすがままに暴力をふるわれ、金を強請られながら過ごしていた。そんな日々も兄貴や東条さんと一緒に行動するようになってから終わりを告げたけど、そんなのいつまでも続かない。それに、いつまでも誰かに守ってもらうなんて納得できなかった。

 僕は強くなりたい。いつかあの二人に恩返しができるように。



「誕生日会?」

放課後、守に呼び出されて東条と一緒にあいつの話を聞いていたら人生はじめての誕生日会とやらに誘われた。

「そうです!妹が料理を振る舞ってくれるんでよかったらどうですか?」

「待ってくれ、ということはお前今日誕生日なのか?」

「そうですけど、知りませんでしたか?」

「うん・・・ごめん」

誕生日って友達になった時点で聞くものなのか?正直今までまともに人付き合いしたことなかったからわからない。何月何日に生まれてこようと興味なんかないし、履歴書なんかに生年月日の欄があるけどなんで誕生日なんか聞きたいんだろう、って疑問に思ってた。

「っていうか誕生日会って誕生日を迎える本人が主催していいものなのか?」

「いえ、もてなすのは妹なので」

「ああそうか。俺は別に構わないぞ」

「構わないってまるで自分は大した行きたくないのに無理やり行かされてるみたいに聞こえるぞ」

「おい東条!今のは言葉の綾ってやつだよ。いちいち人の言ったこと感じ悪く捉えるなよ!」

「でも誕生日知らなかったやつが喜んで誕生日会行くのもおかしいだろ?」

「いいだろーが!たまたま知らなかっただけだし!だいたいお前も知らなかったろ?」

「俺は携帯見て知ってたから。電話番号とか登録すると誕生日も一緒に書いてあるし」

そうなの?やべーそんな機能知らねーわ。もう携帯持ってから1年は経ってるのに。俺の対人スキルのなさと隣人への無関心さが露呈してしまう。話題を変えなければ。

「で、お前も行くよな?守の誕生日会」

「ごめん、俺は今日用事があって・・・」

「なんだよ来れないのかよ。お前今日が守の誕生日だって知ってたんだよな?なに用事なんて作ってんだよひとでなし!」

「いや、プレゼントは用意してるよ」

東条は小綺麗な包装紙に入れられた箱をかばんから取り出し守に手渡す。なんて準備のいいヤツ。俺なんかなんにも用意してないぞ。

「ありがとうございます。東条さん・・・今日はどうしても来れないですかね?」

「ああ、今日買いに行かないと売り切れちゃうしな、あの限定の靴」

「お前、守がこの世に生まれることができた素晴らしい記念日と、地べたを這うしか取り柄のない装飾品とどっちが大事なんだよ!」

「誕生日知らなかった奴」

「うう・・・それを言われるとぐうの音も出ない」

「お願いします!今日来てくれませんか!?」

守が東条に頭を下げた。こいつがこんなに自分の願望を口に出すなんて珍しい。やっぱり誕生日ってのは特別なのか?

「東条。俺が言える立場じゃないけどさ。守がこんなに頼んでるんだから参加してやれよ」

「そうだな、うん。靴は後で買えるかもしれないしな。今日は諦めるわ」

こうして俺と東条は守の誕生日会に参加することになった。


 3人で近藤家に向かおうと学校を後にする途中でおそらく守のクラスメイトだと思われる男子3人グループが何か話している。

「近藤の家って金持ちらしいよな」

「あーそうだったよな。もしかして天道達ってそれ知っててあいつの金奪ってたのか?」

「ありえるよなー。近藤ってさ、なんかウジウジしてるから脅せばいくらかふんだくれそうだしな」

ここでグループの一人がニヤニヤと笑みを浮かべながら、

「俺さー、ちょっとあいつから金借りてみようかなー。欲しいゲームあんだけどさ〜、今全然金ないんだよね〜」

「うわ、お前やばいわ〜」「天道とおんなじ手口じゃん」

そこまで聞いて俺は奴らの元に近づき口火を切る。

「おいお前ら。俺の弟分から金借りようなんていい度胸してんじゃねーか。守の金で買ったゲームなんだから、当然俺たちにも遊ばせてくれるよな?」

奴らは俺たちのことは目に入ってなかったようだ。心底怯えた表情を浮かべている。

「石川・・・何、マジ、になってんだよ。今のは軽い、ジョーク・・・だから。」

「ジョーク?ああ、笑い話だってか。人のセンスに口出しするのは良くないと思うけど、面白くねーな。悪いけど二度と口にしないでくれないか」

「ごめん、なさい!ほんとに、そんなことしないから・・・」

「守の金はお前らの遊興費の為に消えていいもんじゃねーんだよ。せいぜい金のかからない遊びでも探すんだな」

 奴らは逃げるように帰路についた。守を助けながら決め台詞も言ったしこれで少しは好感度が上がるかな〜、とか思いながら俺は誇らしげに守の様子を窺う。守は悲しそうだった。やっぱり嫌がらせをされたことはショックだったらしい。

「ありがとうございます、兄貴。わざわざ助けてもらって」

「気にすんなって。守の誕生日に金借りようだなんて図々しい奴、俺だって我慢できねえわ」

「ほんとに、すみません」

「いいんだよ。それより東条、俺今から守のプレゼント買いたいんだけど金なくてさ〜。貸してくれないか?」

「え〜なんで俺が金貸さなきゃいけないんだよ」

「この状況なら当然だろ。守に貸してもらうわけにもいかないだろ」

「あの〜、僕貸しますよ」

「いや、やめてくれよ!それじゃあいつらと一緒じゃねーかよ!俺の決め台詞が台無しになっちまうだろーが」

「誰も決め台詞なんて思ってないけどな」

「なんだと〜!東条てめぇ」

「おお、いいのかなー。せっかく金貸してあげようと思ったのにそんな態度とって」

「すみません俺が間違ってました。東条様のご指摘は五臓六腑に染み渡ります」

「情けない奴」

東条様から差し出されたありがたき札(3000円)を受け取りながら俺は守のプレゼントをどうしようか頭を悩ませる。このときの俺には守がどんな気持ちでさっきの騒動を見つめていたのか考えようともしなかった。

 




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