第10話 文化祭④ 口下手は欲望に素直、口上手は本心に素直

 そのあとも俺と茜は学校の中を特に目的もなくうろついていた。学校祭なんて言ってもやっていることは他の学校と大した変わらない定番のアトラクションもどきや

中の下くらいのクオリティの味しかだせない屋台だらけだ。それでも久しぶりに茜と一緒に過ごせるこの時間に安堵してしまう自分がいた。

 互いに特に会話が弾むでもなくゆっくりと校内を歩いていたがそこに予期せぬ光景が現れた。近藤守が出店の店番をしていたのだ。

 勝手なイメージで申し訳ないとは思ったが、正直に言って守はクラスの人間とうまくなじめていない奴だと思っていた。不摂生そうな見た目と口を開けば周りがドン引きするほどのウザさを併せ持つ強烈なキャラクター。俺は奴が嫌いではないが

仲良くするような人間は少ないと思っていた。それでも学校祭というクラスのイベントに参加できるということはちゃんとクラスメイトと付き合えている証拠だ(完全に裏方だった俺と比べれば)。

「あれ、兄貴じゃないですか!」

「おう・・・、ちょ、調子はどうだよ大将」

「えっ、まあそこそこ暇ですけど、なんか口調おかしくないですか?」

「そんなことないよ、店番大将」

「いや兄貴が僕のこと大将なんて持ち上げるわけないし、なんか声も上ずってるし・・・もしかして僕が店番してるのが意外だったんですか?」

「おまえ頭に巻いてるハチマキ似合ってるよ」

「話をはぐらかさないでくださいよ!絶対変だとおもってるでしょ」

「・・・ごめん。最初からおかしいとおもった」

「やっぱり僕が飲食店の店番なんておかしいですよね」

「おう、自覚あったんだな」

 本当に思っていたのは、俺はクラスの連中にゴマをするために裏方に徹してきたのに自分だけ表に出てリア充満喫してんじゃねーよカス!ってことだったんだけど勝手に勘違いしてくれてよかった。

 自分でもわかってる。いちいち自分と守を天秤にかけて嫉妬してんじゃねーよと。

でも東条だけじゃなくて守まで学校生活楽しんじゃうと俺の立場ないじゃないですか。

「ところで兄貴の隣にいる女子は誰ですか?」

「今更質問するのかよ!?こんなくだらない話するために蚊帳の外にされてかわいそうだろうが」

「兄貴もずっと蚊帳の外にしてたでしょ。その人のこと紹介もしないでずっと僕たちだけの雰囲気作ってたじゃないですか」

「勘違いされるようなこと言うなよ!誰がお前と俺だけの世界なんかつくるか気色悪い!」

「だから誰なんです?仲良しそうだから・・・兄貴の妹とか?」

「なんで妹?こういう時普通彼女、」

茜と気まずくなりそうだったのでこれ以上言葉が出ない。まずい、ドキドキして茜の顔が見れない。

「そ、そそそうですよね!妹はないか!」

「なんでそんなに声上ずってんだよ」

「そんなことないですよ~。で、結局誰なんですか?」

「名前は広咲茜、一応友達」

「ふーん」

あれ、なぜかわからないけど全然信用してないような気がする。もしかしてこいつは

俺に女友達なんかいること自体疑ってるのか?まったく失礼な奴だ。

「まあせっかく恋人とデートしてるんだし、おごってあげたらどうですか?」

「ばか、お前・・・恋人じゃなくて友達だよ」

「だって二人どうみても友達って感じじゃないんだもん。鎌かけてみたら妙にそわそわしてるしどっちも」

図星だった。俺も、おそらく茜も。

「とりあえず恋人でも友達でもどっちでもいいんで焼きそば、買ってくれませんか?」

「どっちでもいいって急に興味なくなったな」

「興味ないですよ。だって兄貴のことを好きにならない訳ないじゃないですか」

「・・・お前案外商売向いてるな」

おれはおもむろに500円玉を大将に差し出した。

「兄貴、おつり100円返しますよ」

「つりはいらないよ、大将」

茜は楽しそうな表情を浮かべていた。ありがとう、守。

 

 学校祭も終わり俺は茜と二人で帰路に就くことになった。でも家は正反対の方向なので学校から一番近い駅まで歩いて向かうだけだ。それでも茜と二人の時間は俺にとって安らぎを与えてくれた。ただひとつ不愉快だったのは茜の彼氏の話だった。

スマートフォンで画像を見せられたが、見た目は遊びなれてそうなチャラ男っぽい外見だけど、彼女曰く優しくて気が利く彼氏とのことだ。デートの待ち合わせに遅刻したりすることはなかったし(俺はしょっちゅう遅刻していた)、月に一度はプレゼントもくれるそうだ(俺は誕生日にもあげたことはなかった)。

 いや、俺だって彼女に親切にしたいって気持ちはある。でもプライドが許さなかったり恥ずかしかったりして素直になれなかった。でも今では後悔している。個人のその時々の感情で態度を変えてしまったら本当の気持ちなんて伝わらない。相手に伝わるように表現しなければいけなかったんだ。ただでさえ俺は感情表現がへたくそなのに「どうせ言わなくても伝わる」とか言い訳してサボってた。それができる茜の彼氏に嫉妬して気分が重くなった。

 それでも茜の友達(アキ)の下品なトークに付き合わされて困っていると言う茜の苦笑いはやはり微笑ましい。俺が日ごろ東条や守に揶揄からかわれながら過ごしている事を話すと茜も笑っていた。お互い苦労人だね、なんて孫の相手をしている年寄りみたいにしみじみと共感しながらアットホームな雰囲気に包まれていた。

 ちなみに東条とアキはなんだかわからないが仲良くなったらしく二人で帰るといいだしたので俺たちとは別行動だ。アキはともかくあの東条が女子と仲良くなるなんて珍しい。もしかしたら俺と茜を二人きりにするために気を利かせてそんなことを言い出したのかもしれない。

 そんな風にプラス思考に考えていて有頂天になっていた俺だが、天から地に落とされるような事件が起こる。

 茜と二人で歩いていると先ほど紹介された茜の彼氏が俺たちの前を歩いていた。

 




 

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