第7話 文化祭① 祭りは端から見てるくらいが丁度いい

「アキ、今週の日曜に波代なみしろ高校で文化祭があるじゃん。見に行かない?」

「ああ、あの進学校かー。別にいいけど、明後日だよね?ずいぶん急だね・・・。もしかして茜が前から言ってた彼氏がいる高校?」

「ええ?違うよ」

「違うの?あれれ~じゃあ別の男つかまえにいくんですか~?」

「なんで男目当てで文化祭行くことになってんの?」

「なんでって、そりゃ文化祭なんて学校や地域を盛り上げることを建前に、若い男女がフィーバーするために開催されてるからに決まってるでしょ」

「それ完全に邪推だから!あとフィーバーとか言わないで、ダサいから!」

「まったく、あたしら花の女子高生でしょ?いつ男とやるの?今でしょ!さあご一緒に~、いつ男とやるの?」

「やらないから!林先生はそんなこといわないし」

 やっぱり学園祭に誘ったらアキはからかってきた。本当は誘いたくなかったけど、いまのあたしには彼女しか友達がいない。一人で行くのはつらいから誰かについてきて欲しかった。

 でも、アキの推測は全部間違ってるわけじゃない。確かにあたしはある一人の男に会いに行く。でも彼氏じゃない、彼氏だ。でもそんなに特別な意味があるわけじゃない。ただ元気にやってるか、知りたいだけ。連絡先は知ってるけどなんとなく話しづらい。文化祭に来たといえば自然に彼と話すこともできるかもしれない。

 この前ショッピングモールに寄り道していたとき偶然彼を見つけた。背が高い男子と一緒だった。仲よさそうに話していたからたぶん友達だと思う。制服は波代高校のものだった。文化祭に行けば彼に会えるかもしれない。1年以上話していないけど勇気をだして行ってみようと思う。

智樹、あんたは今どうしてる?



 今日は波代高校の文化祭当日である。各々のクラスが展示やら喫茶店なんかを披露している最中俺は東条と校内をぶらついていた。やっとこの日を迎えたという達成感も去ることながら俺にはある不満がある。

「俺らのクラスの映画ひどかったよなー。タイトルからないわー。〈上腕ヒーロー東条、劇場に登場!〉だぞ。東条だけに登場ってか?下らねーんだよ!何回使うんだよ、超下らねーよ」

「ずいぶん文句言うねぇ。でもこのタイトル決めるときに反対はしてなかったよね?」

「・・・お前なー、俺が何のためにこの文化祭期間中頑張って準備してたかわかってる?俺の人気を少しでも上げる為だろ。もし反対意見なんかだして空気悪くしたら元も子もない」

「気にしすぎだろ。他に案があればみんなそっちに乗り替えるって。文句言うならなんかアイディア出せよこのヤロー!せっかく皆で仲良く楽しんでんのにイチャモンつけやがってよぅ」

「俺今責められてるの!?言ってないじゃんその時は!お前が黙っておけばいい話だろ!?」

「そんな約束をした覚えはないなぁ」

まずい。東条がニヤニヤしながらも俺を蔑むような視線を送ってきやがった。こいつホントに暴露する・・・!そうなれば俺の今日までの努力が水の泡に・・・。

「まぁとりあえず代替案をだしてみなさいよ。さんざん僕たちの考えたタイトルをバカにした石川智樹先生ならきっと面白いタイトル思いつくんでしょうねぇ。ちゃっちゃとやって下さいよ~」

なんでこんなことを言ってしまったんだろう、ほんのギャグのつもりだったのに(本音でもあったが)。こんな揺さぶりだけで動揺して東条に乗せられている自分を情けなく感じながら俺は思案する。

「本当にかっこいいのはヒーローではなく、ヒーローに何度負けても戦い続ける悪役、つまり怪人D」

「いやいや、悪役なんだからかっこよくはないだろ。悪いことやってんでしょ?ていうか智樹って怪人Dとして映画出てたよね?

何?そんなにかっこいいって褒められたいの?惚れられたいの?」

「うっせーな!これはギャグだよ!面白いタイトル考えて欲しいんだろ!?」

「うーん、あんまり面白くもなかったし、自己主張が激しすぎてウザかった」

普通にへこんだ。こいつこんな傷つくことを平気で言いやがる。ヒーロー気取りか?

「お前はいいよな~!映画の中でも舞台裏でもヒーロー気取りでよぉぉ!!毎日毎日女子の歓声が上がってたもんなあ~。あいつらはどうせ俺のことなんて眼中にないんだろーなー」

「そんなことはないだろ。怪人Dとして映画に出たり、後は・・・雑用?とかいろいろやってんだからさ。もっと自信持てよ」

「怪人Dはケケケって笑うだけで特に台詞もないし、登場して一分も経たない内に東条に倒されるただの脇役だろ?全然かっこよくもない」

「さっきと言ってることが違うじゃん・・・」

「どうせクラスの女子は東条に釘付けだし、なーんかせっかく頑張って作業してたのに達成感がないよなー。せめて恋ぐらいしたかったなー。どうせ俺じゃ無理か」

「そんなことはないだろ。だったら試しに声かければよかったじゃん。付き合えるかもしれないよ」

「そんな子とはないだろ。お前じゃなきゃダメなんだよ!!」

「そんなに怒んなよ。同じクラスの子が駄目なら今ここで女の子に声かければいいだろ」

「なんでここでナンパしなきゃいけないんだよ。今の俺軽くナーバスなんだが」

「あー、じゃあ言っちゃおうかなー。さっきの文句」

「オイオイ、その件はもう終わったんじゃないのか?タイトル考えただろ」

「あのタイトルは却下したろ。それにタイトル考えたら秘密にするとは言ってない」

そもそも今更いいタイトルが思いついた所で遅いと思うが・・・。しかし東条にこんなことを言われればぐうの音も出ない。

「それに、智樹にとってもチャンスだろ?文化祭で最高潮に浮かれてる女子ならお前でも・・・いや、お前ならゲットできるって。何か今の智樹って優しい感じというか、少し前より澄んだ目をしてるよ。やっぱり文化祭の準備を一生懸命やって人間として魅力がでてきたんじゃない?」

「バカ、お前・・・そんなことはないだろ?」

そうは言ったが若干嬉しくなってる自分がいた。実は自分でもそんな自覚があってそれを人に指摘されて気分がいい。

「ほら、あそこに女子が一人で歩いてるぞ。思い切って行って、あわよくばゲットしてこい。思いっきり風紀を乱してこい」

「まったく、しょうがないねぇ」

ああ、わかってる。自分でも東条に乗せられていることは自覚している。でも、99%失敗すると思っても残りの1%に賭けてみようと思った。

このセリフ、なんか主人公っぽいな。否、俺が主人公だ。

 校内をブラブラと歩いているその女の子は別の学校の制服を着ていた。周りをキョロキョロ見ている動作からして初めてこの学校の文化祭に来ているように見える。歳は俺より下かもしれない。以上のことを踏まえると、この学校の案内をすると見せかけて接近するのがいいだろう。

「お嬢さん、僕がエスコートして差し上げましょうか?」

「・・・・・」

返事がない。彼女の表情がみるみる恐怖で引きつっているのがわかる。やっぱり失敗に終わったか、と俺が落胆しかけていると、そこに東条が近づいてきて俺の肩に手を置く。

 俺を慰めてくれると思い、後ろを振り返った。

「あーあ、こんなに肩にも目にも力入ってたら怖くて近寄れないよな。ごめんね」

東条が女の子に詫びを入れる。女の子は東条に一礼してからその場を去っていく。

 俺が纏っていた優しいオーラは幻覚だったらしい。あの子の一目散に逃げていく姿がそれを物語っていた。







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