第5話 空

 そこは薄暗い所だった。

 金属片が空を塞いでいた。

 ここはどこだ?

 俺はたしか、敵の母艦を貫こうとして。

 そう、そうだった。

 俺は戦っていたんだ。

 みんなを勝利に導くために。

 戦いはどうなった? 勝ったのか? 敵の母艦は落とせたのか?

 様々な疑問が浮かぶ。

 身体を動かそうとすると、激痛が走った。

 右腕、左足の感覚がない。

 それらに視線を向けると、大量の血が流れ出ていた。

 意識が死を認識した途端に強烈な恐怖が、胸に迫ってきた。


「これが死か」


 どんな状況であろうとも生き残りたい、とルルルが言っていたことを思い出す。


「お前も、こんな怖い思いをして死んだのか。ごめんな、ルルル」


 俺はゆっくりと息を整えた。

 じたばたするのは恰好悪い。


「こんな終わり方でもいいじゃないか」


 ただ、戦いがどうなったのか、気がかりだが。


「レオ、レオ!」


 パトの声だ。パトがいるのか。


「ここだ! 俺はここにいる!」


 瓦礫を退かす音がする。

 そして、目前にあった瓦礫が退けられると、すぐそこにパトの顔があった。額を切ったのだろう、血が流れていた。パトは俺を引きずり出し、その姿を見て涙目になっていた。


「死んだらダメだよ。みんな、レオのことを待っているから。すぐに救護班が来るから」

「ああ、わかってるよ。それよりも」

 俺が目で勝ったのか? と訊ねるとパトは力強くうなずいた。

「そうか、よかった」

「母艦を破壊したあと、レオが予想した通り、敵の統率が乱れてね。一方的な戦場で終わったよ。でも、みんなレオのことが気になって、半分以上は逃がしちゃったけどね」

「バカ、仕留めておけばよかったのに」


 俺が笑っていうと、パトも笑いながら「そんな言い方ないでしょ」と言う。

 役目が終わったのだと思うと、なんだかほっとした。


「あっ」

「どうしたの?」

「暗雲が晴れていく」

「え?」


 俺の言葉に、パトも空を見上げた。


「ほんとだ。きれい」


 そこには青い世界が広がっていた。

 それはまるで、勝利を祝福してくれているかのようで、心の中にあった靄が消え、清々しい気持ちになれた。


「あっ、救護班が来たみたい、レオ、もう大丈夫だよ! 待ってて、すぐに呼んでくるから」


 パトは、慌てた様子で走っていく。

 入れ替わるように、ルルルがそっと歩み寄ってきた。


「ルルル、うまくいったよ」

「よかったね」

 

 そういって、ルルルはそっと膝枕をしてくれた。

 

「身体、痛い?」

「いや、もう痛みなんて通り越したみたいだ」

「もう大丈夫だからね」


 そういって、ルルルは俺の胸に手を添えた。

 急な眠気がやってくる。

「なあ、ルルル。目標って大切だな。俺、いま、すげえ気分がいいよ」

 俺は、待ちわびていた青空を目に焼き付けてから、目を閉じた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

Home front Sentimental かみかわ @kamikawa

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ