第4話 決戦

 このときを待っていた。

 六度のスクランブルを乗り越え、予言を的中させてきた甲斐もあり、俺の認知度はうなぎ昇り。計画は順調に進んだ。

 そして、今日、俺はみんなに参謀として、実行して欲しい任務を言い渡した。

 彼らが作戦に乗ったのは、単純な理由。攻めるのではなく、防衛戦だからだ。

 ここを失えば、帰る場所などない。評価を度外視して戦う必要がある。

 そうなれば、必死にならざるを得ない。

 敵の大群が、こちらにやってきているのをレーダーでキャッチした。

 狙うは、敵の母艦だ。

 これを破壊すれば、敵は統率が乱れ、逃げかえることになるだろう。もちろん、一機も逃すつもりはないが。


「みんな、持ち場に着いてるか?」


 小隊のリーダーたちの返事が返ってくる。

 作戦は、母艦から敵機を引き離し、対母艦用に作らせたチャージ式超接近型電磁砲で貫くだけ。

 シンプルではあるが、リスクが二つある。

 一つは、こちらの連携が乱れると、敵機が母艦のフォローに入ってしまうこと。

 もう一つは母艦の装甲を貫くために、武器自体が大きくなってしまい、敵に気づかれることは十分にあり得る。

 なので、敵機が母艦から引きはがした一瞬を狙い、接近して撃ち抜く必要がある。

 その役は、作戦を立てた俺が買って出た。

 周りのパイロットは腕があり、ただ貫くだけの仕事をさせるのはもったいない。それよりも、敵機体の破壊に回した方が、得策だったからだ。

 一番美味しいところじゃないか、と反発するパイロットもいたが、作戦を立てたんだから、美味しいところぐらい持っていかせてやれよ、という声が大多数だったこともあり、俺に任せてくれることになった。

 山影に隠れていると、暗雲を背にして、敵母艦が姿を現した。

 俺は全パイロットに攻撃命令を出す。

 敵の航路上に待機していた機体が一斉に出撃する。

 俺は敵の死角を突くために、じっとその場で待機する。遠くで爆撃音が鳴り響く。

 俺は、レーダーを見つめながら、うまくやってくれ、と心の中で祈り続ける。

 ふとしたタイミングで、レーダーがジャミングによって、表示が途絶えた。

 ゴーサインだった。


「よし、ルルル、行こうか」


 俺はチャージしながら、機体を発進させた。

 みんなが作ってくれた死角となった道を駆け抜けていく。

 問題は、最後の敵母艦からの目視。こればっかりは、防ぐ手立てがない。閃光弾など使えば、自分の位置を知らせるため使うことができないのだ。

 俺がしっかりと敵母艦からの銃撃を躱すことができるかどうか。

 敵母艦の底を目にしたところで、ミサイルの雨が降ってきた。

 順調に躱していくが、背後から強い衝撃を受けた。敵機が援護に戻ってきていた。

 どうするか数秒迷う。


「レオ、先に行って!」


 通信機からパトの声がした。


「パト、任せた!」


 再び俺は敵母艦に向けて直進し、数百メートルのところまで迫る。

 ユーファのときは失敗したが、ここでお前たちの勝利の芽を摘ませてもらう。

 俺はチャージ式超接近型電磁砲の引き金を敵戦艦の底に向けて引いた。

 どうなっている?

 何度も引き金を引くものの、電磁砲が射出されない。

 そうか。

 背後からの一撃をもらったときに、破損したんだ。

 だが、焦る必要はなかった。こうなることを予見しなかったわけじゃない。

 だからこそ、俺がこの役をすると決めていた。

 俺は機体の高圧熱導刃ビーム・サーベルを抜き、全出力を送り込んだ。

 そのかわり、高圧熱導刃ビーム・サーベルの熱が青天井に上昇していくが、機体が空を飛んでいられる時間は三十秒。その後は空中分解してしまう。

 つまり、この間に敵母艦の装甲を貫かなければ、敗北が決まる。

 

 貫け!

 貫いてくれ!

 

 その気持ちを装甲は阻み続ける。高圧熱導刃ビーム・サーベルが刺さる気配がない。

 

 負けるのか。

 このまま、空中分解して地に落ちるのか。

 

 心に絶望の闇が侵食してきたときだった。


「レオ!」


 パトの声だった。背後から隣にやってくると、柄を持つ俺の手に手を重ねた。高圧熱導刃ビーム・サーベルの出力が、さらに上昇していく。


「何してるんだ! そんなことをしたらパトまで」

「構わない! だって勝ちたいもの。ここで負けたら、私たちはもう二度と立ち上がれなくなる。レオ、私たちを未来あしたに連れてって」


 パトの声に、俺は気持ちを固める。


「わかった。ついて来い! 俺がお前たちを導いてやる!」


 そのとき、敵母艦の装甲が溶け出した。

 あと少しだ。

 俺は、操縦桿を目一杯押し込む。


「貫けええええええええええええええええええええええええええええええ!」


 高圧熱導刃ビーム・サーベルが敵母艦の中に飲み込まれるように滑り込んでいく。

 その刹那、視界が光に包まれた。

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