2017年7月7日「月の影のさやけさ」

 東の夕空にくっきり浮かび上がっているのは満月かな? いいえ今日は七夕だ。けれどキレイ……今日は月光が強くて天の川が見えないけれど、牽牛と織姫はきっと逢えたでしょう。短冊に願いをかけそこなった私だけど、寝る前にそんなことを考えたりする。きっと私はこんな自分が好き。日々の行事にかまけるのも好き。


 部屋の雨戸を締め切ったら、なんだか息苦しくなって、リビングへ急きょ移動。エアコンは標準プラス一度で、自動にセット。扇風機は弱でくびふりにセット。


 そうして改めてカーテンを開けていると、満ちていく大きな月が金色に映えた。


 誰かが、短冊書き忘れたから、あの月に祈って願い事をする、なんて言っていたけれど。願いなんていいじゃない。今年の七夕は晴れたんだから。


 そんな私が気持ちよくまどろんでいると……窓になにか当たる音がした。え?


「牽牛、けんぎゅうを知りません?」


 ふいに私は自分の正気を疑った。疲れてる。こんな時刻に妙齢の女性の声が聞こえるなんて。


「寝よう……」


 と思ったのに、目が冴えちゃった!


 私は窓を開けて、再び月を見た。


「牽牛……!」


 また声がする。


「どちらさまですか?」


 とうとう私は確かめずにはいられなくなってしまい、その声のする方を見た。


 すると、中華の民族衣装で身を飾った、天女が月明かりの中、宙に浮かんでいた。


「牽牛……けんぎゅうは……」


「おやすみなさい」


 まよわず窓を閉じ、カーテンを閉めるとこっそりと隙間からのぞいた。絵本で昔見た牽牛が、天女のもとへとやってくるのが見えた。


(うひゃー、スペクタクル!)


 夢じゃないだろうな。イテテ、虫歯が痛いから夢じゃない。

 ボーっと見てたら二人はそのまま天上へ舞い上がっていった。


「願い事、かなえてもらえばよかった……」


 そんなことを一人ごちた。



               END

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る