2017年7月7日「君は薔薇より美しい」

 薔薇という字はキライ。やたら画数が多くて、活字の多い本ではほとんど潰れてよめない。


 醤油が好き。勉強嫌いの親友が教えてくれた漢字だから。


 ばらとしょうゆ。漢字で書けば薔薇と醤油だが、だんぜん醤油が好き。


 けど、文学作品のタイトルに薔薇はよくあっても、醤油はないわね。案外使いどころの少ない文字だ。


 ヤンキーになってしまった幼馴染は他の勉強はどうでもよくって、この二つが書ければ立派だと思ってる。うぬぼれじゃなくって、本気で思っているのだ。


「私も最近醤油かけるようになった」


 とうそぶいたら、彼はニヤリと笑って。でも私薔薇は書けないや。私はこっそり幼馴染に負けていた。


 ま、書けたところで使い道は思いつかないけれど、バラはバラでいいじゃない。バラ肉とは一線を画してるから間違えようがないんだしさ。


 そんな情緒ナッシングな私に、あるとき彼氏、みたいなものができた。みたいな、というのは、突然の告白に仰天してたら、友達からでいい、っていうから。暫定彼氏なのか、このままいつまでも友達なのかはさっぱりわからない。


 ある日、屋上からサッカー部の見学をしていたら、暫定彼氏がやってきて、両手を後ろに回してぎっくしゃっくと寄ってきた。そのあまりの挙動に笑ってしまいそうになりながらも、


「よっス!」


 と声をかけた。


「アァ、うん」


 暫定彼氏の目が泳ぐ。そして……。


「これ……よかったら……!」


 彼が差し出したそれは勢い余って私の顔に命中した。なに?


「二度目の、告白です!」


 真剣な目。差し出された一輪の赤いチューリップ。


「バラが……バラが売ってなかったんだ。赤いチューリップは花言葉も同じだって、花屋さんに聞いたので」


 へえ。いいところあるじゃない。キザだけど。


 彼がどうやって学校の屋上まで花を抱えてきたのか、少し興味ある。


「いいね、こういうの」


「気に入ってくれた?」


「私、バラよりチューリップの方が好き」


「そう? よかった」


 暫定彼氏のピュアさに、私の顔は崩壊寸前。うん、いいじゃない。君は薔薇より美しいんだからさ!


「私も、好きだよ」


 チューリップが、ね。



               END

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