2017年7月7日「ファイト!」

「ヤーッホイ! ヤッホイ! ヤーッヤ!」

 運動場でかけ声が聞こえてくる。属する競技部活でかけ声は違う。

 私は体力がないため、中学入学と同時に友人に誘われるがままブラスバンドに入った。

 しかしブラスバンドは肺活量が問われるため、一年生は朝練と夕練に体力づくり。

 なんでも陸上部より体力が必要なんだそうである。


「う……く……! 六十……ハアッ、ハアッ」


 今年も新入生はたった七十五回の腹筋に全身をさいなまれている。まあね。エル字の廊下を十往復疾走したあとだから。けど、この後の声出し(発声)がうんと楽になるから、キツくてもがんばるのよ。


 そういう私は二年生。体力作りは朝練のときだけ。楽器は、かつてジャズが流行っていたときに人気だったチューバ!(BYバンドジャーナル)。これ十キロあるっていわれてる。だから一年のとき人の何倍も筋トレを課された。まあね。低音(バスパート)は重要だから。


 そうだ、一年のときチューバ担当の先輩が、私の入部と同時にユーレイ部員になっちゃったもんだから、楽譜の読み方も、ピストンの押し方も、ユーフォニアムの先輩から教わった。


 大きさは違えど、楽器のつくりは同じだから。チューバとユーフォは同じバスパートでくくられてるしね。


 それにしても誰もチューバ担当になりたがらないね、今年の一年も。


 有望株は、小学生の頃に同じクラブだった女子がいたけれど、性にあわないのか物足りないのか、ハンドボール部に入ってしまった。


 今も聞こえるハンドボール部のかけ声。


「ヤーッホイ! ヤッホイ! ヤーッヤ!」


 走りながらよく声が出せるわね。さすが。あの娘の活躍の場は、よそにあったのねって思った。


 そのハンドボール部は彼女が初代にあたるらしくて、メンバー全員一年生。大会にも出ているらしい。


 ふと、鶏口牛後けいこうぎゅうごという言葉を思い出す。


 あの娘は、ブラスバンドという組織の歯車になるより、前人未到の世界に挑むことを選んだんだ。


 かといって自分が弱いとも、日和見主義とも思わないけれど。


 今日も聞こえる、


「ヤーッホイ! ヤッホイ! ヤーッヤ!」


 そう。自分が部活組織の代表者みたく思考するのはやめよう。


 だけど、つながっているね。私とあなた。


 同じ人を好きになった……あの日のやりとりを忘れない。


「どっちが彼の本命になれるか、競争です! 先輩!」


 真剣なあなたの紅潮した頬が、リンゴみたいでかわいかった。


 ずっとつっぱってはきたけれど、彼女の青春はこれからだから。だから私はまだこの勝負を降りない。



               END

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