第六話 勇者の資質

「あれ、あのときのオーク?」

「しまった。さっさと、次の町を目指すべきだった」

勇者ゆうしゃ臆病おくびょうだからな」

「ちがう。人は、俺を慎重しんちょうと言う」

「おかげで、あたしは危ない目にってないけどね。ありがと」

 可変式の杖は折りたたまれて、背中にあった。

 勇者ゆうしゃを横目で見る、魔導士まどうしの少女。その目に、精悍せいかんな顔が向けられる。

「とりあえず、様子を見るか」

「気付かれないように、っと」

 少女が少年に近付いた。


 姉を見送った妹は、噴水を見つめていた。

 その姿を、ブタ顔の大男が見つめていた。

 大きな町の中心で、優しい表情をしている二人。

 細身の少女が振り返る。

「お昼を済ませたかったけど、お父さんが心配しちゃうから」

「ムラにカエるか。どっちだ?」

「北。でも、お母さんが飛ばしてくれた場所に、いけば」

 おさげのミウナが、言葉を止めた。ちらちらと何かを見て、顔が赤くなる。

「どうした?」

「何でもない。いきましょう」

 二人は、町の東へと歩いていく。


「気付かれたか?」

「女の子に、見られたかも」

「もう、いいだろ。追うぞ」

「嬉しいくせに」

「……」

 勇者ゆうしゃは何も言わず、魔導士まどうしの少女から身体からだを離した。

 木のかげから出ていく。

 可愛かわいらしい服装の少女が、地味な服の少年を追いかけて、歩き出す。


 ミウナとオークは雑談していた。

 町の外まで歩き、看板へとやってきた。ビオレチと書いてある。日は随分高くなっている。周りは、見渡す限りの平原。人はいない。

 二人の姿が、突然消えた。


「消えたよ?」

「罠か」

「違うと思うけど」

 魔導士まどうしの少女が、看板へと歩いていく。

 勇者ゆうしゃの少年は、慌てて追いかけた。

「とてつもない残留魔力ざんりゅうまりょく。どこの賢者けんじゃの仕業?」

「人間の魔法まほうか。俺たちが狙われていなければ、いい」

 町に戻ろうとする二人は、後ろからたれた。

「まだガキだな。くうにはハヤイ」

 人間のものとは違う声。

 少女が倒れた。

魔道まどうセキュリティは健在。まさか」

 光のけんで攻撃を防いだ勇者ゆうしゃは、敵の姿を見た。トカゲのような顔をした魔法使まほうつかいが、町のすぐ近くにいる。


「東の森の、なんとかって討伐対象とうばつたいしょうだな。先遣隊せんけんたいは何やってんだ」

「くいそこなったからナ。ワザワザきてやったぞ」

 小柄こがらなトカゲ男が、笑みを浮かべた。

「喋るやつは、倒さないで済むかと思ったんだけどな」

 勇者ゆうしゃが冷たい視線を向ける。身体からだの周りに、無数の光のけんが現れた。不規則に動きながら宙を舞い、モンスターに迫るけん

 トカゲの魔法使まほうつかいは、風の魔法まほう斬撃ざんげきらしていく。

「だからお前は、ザコなんだよ」

 その隙に、勇者ゆうしゃは一気に接近していた。光のけんが、トカゲの魔物まものを切り裂く。

 退魔たいまの力を浴びて、煙となって消えていくモンスター。

 光のけんもすべて消えた。


「俺の魔法じゃ、軽い怪我しか治せないな。やっぱり」

 少女が倒れたときにできた傷は、治っていた。

「ライハ。こんなことになるなら、ちゃんと言っておけばよかった」

「なに? 気になる」

「失ってから気付く、っておい! 無事なら無事って言え!」

 魔導士まどうしの少女は、魅力的みりょくてきな笑顔を見せている。

「サアダ。お昼にするぞ」

 少女は少年の手を引っ張って、町に入っていった。


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