第五話 女騎士

「いい体格だねぇ。剣士けんしさまかい?」

「オレ、ムラでイチバン」

 フード姿のオークは、すこし照れていた。中年の女性に声を掛けられている。

 どこか緊張きんちょうした様子のミウナ。

「ロケアという女の人を、知りませんか?」

「人探しかい? てことは……」

「あまり似てないけど、姉です」

 細身の少女は真剣だった。中年の女性は悩んでいる様子。

「アネ? アメなら、フってない」

「全然違うでしょ!」

 魔力まりょくのこもった、強烈なツッコミが炸裂。

 ブタ顔の男は、大通りを吹き飛んでいった。


 大通りの土埃つちぼこりが収まった。

 きれいに受け身を取り、かすり傷ですんだオーク。フードは脱げている。

「私と勝負しろ!」

 ブタのような顔をした筋骨隆々の男は、大声を浴びせられた。

「ナゼだ?」

「貴様。よくも抜け抜けと」

 鎧姿よろいすがたの女性は、感情的になっていた。腰にけんをさげている。

「そうだ。ロケア、シってるか? ミウナがサガしてる」

 その言葉を聞いて、十代後半の女性はけんを抜いた。

 静かに前を向いたままの、オーク。


「なぜだ!」

 けんを構える女性がえた。

「オレとおマエ、タタカうリユウ、ない」

 剣が横薙よこなぎに振られた。オークはひらりと身をかわす。

 そこに、逆向きの斬撃ざんげきが迫る。またしても華麗に避ける、オーク。

けんを抜け!」

 女性の真剣な顔を見て、オークが動いた。腰の棒を手に取る。構えた。

 どう見ても隙だらけの相手に、鎧姿よろいすがたの女性がりかかる。

 そして、一瞬で決着した。


「くっ」

 一撃で倒された女騎士おんなきし。まとめられていた長い髪が、乱れる。

 ブタ顔の大男が近付いていく。

「いいケンだ。ウデをミガけば、オレよりツヨく、なれる」

 満面の笑みで言い切った。

 鎧姿よろいすがたの女性は、目を逸らしている。立ち上がろうとしない。

「ごめん。オーク。また、やっちゃった」

 十代半ばの少女が、心からの声をかけた。

 振り向いたオークが動く。その向こうに見える、人の姿。

 おさげのミウナは、笑いながら涙をこぼした。


「大丈夫だ。何でもない。ただの訓練だ」

 周りで騒いでいる人々をしずめた、女騎士おんなきし。すぐに歩き出す。

 ミウナとオークも、あとに続いた。

「待って」

 返事は返ってこない。ブタ顔の大男は何かを察した。

「ロケア、ナゼだ」

「お姉ちゃん!」

 おさげの少女が言って、鎧姿よろいすがたの女性は止まる。

 噴水の前だった。

「もっと強くならねば、顔向けできん」

「カンケイない」

「そうだよ。家族だから、いつでも帰ってきて。ロケア」

 ロケアは振り向いた。

「いずれ、そのときが来るだろう」

 ミウナは、相手がよろいにもかかわらず抱きついた。

 オークの目はうるんでいた。


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