第14話 初めてのお願い


無事に帰宅すると母さんが帰ってきてた。泥だらけ擦り傷だらけで帰ってきた俺を見るや抱きしめられた。

余程心配したらしく、かなりお説教を受けた。

しかも何故か父さんまで隣で正座させられている。


「あの……母様? 何故父様まで正座させられているのでしょう?」

「何故かですって? あなたから目を離したからよ! 私がいない間にリヒトに何かあったらどうする気? ちょっと! カイル! 聞いてるの?!」

「聞いてるってエミリア……」

 怖い怖い……何故か母さんの背中に般若の姿が見える。これが血濡れの聖女か……

 母さんを怒らせたらヤバイ。そう心に深く刻んだリヒトは、小さくなっている父親を助けるべく恐る恐る口を開いた。


「母様……? 父様は悪くありません。悪いのは隠れて出て行った僕ですから、父様は許してあげてください。」

「リヒト……」潤んだ瞳で父さんが見つめてくる。やめろ!そんなフラグはいらない!

「っっっ……はぁ。わかったわ。リヒトもこう言ってるし。二人ともしっかり反省しなさい?」

『はいっ』揃って返事をすると母さんはブツブツ「……やっぱりそろそろ二人だと限界ね……」などと呟きながら去っていく。

 開放された男二人は顔を見合わせながら苦笑を浮かべ立ち上がった


「父様。本当にすみませんでした。」

「いいんだリヒト。目を離した俺が悪い……俺も子供の頃はお前よりヤンチャだったしな。」

 頭をぐりぐり撫でると父さんは母さんを追いかけて行く。

 ――俺って幸せものだな――

 両親の愛に触れてリヒトは、この生活を手放したくないと心からそう思った。




ある日の朝。リヒトは自室で悩んでいた。

「うーん……やっぱり魔法の特訓は部屋じゃ無理だ。魔力トレーニングは出来るけど……仕方ないか」

 部屋から出て母さんを探すことにする。隠れて特訓しに行ってまた母親を般若にするわけにはいかない。だって怖かったんだもん。

「母様ー。いらっしゃいますかー?」

 なぁにー? と遠くで声が聞こえる。あれは中庭の方か。……地獄耳かよ。

 母さんは中庭で花壇の手入れをしていた。白いワンピースに麦藁帽子を被ってしゃがんでいる。

 ……似合いすぎだろ。本当に一児の母か?

 そんな失礼なことを思われてるとは露知らず、母さんは手を止めニコニコしながらこっちにやってきた。


「なぁに? リヒト? 珍しいじゃない。いつもは本を読んでるか走り回ってる時間なのに」

 ……俺ってそんな風に思われてたのか? いや、確かに友達もいないけどさ……

 ちょっとだけ悲しくなったリヒトは頭を振ってボッチであることを頭の隅に追いやり、自分の思いを伝えるべく口を開く

「実はお願いがあるんです。」

「あら。本当に珍しい。あなたがお願いするなんて初めてじゃないかしら。どうかしたの?」

 小首を傾げながら母さんがどことなく嬉しそうにしている。


「僕に魔法を教えてください!」

 意を決して真剣な目で母さんを見つめながら伝えると、母さんはキョトンとした後に何故かクスクス笑い出した。

「あ……あのー?」

「ご、ごめんなさい。あなたが凄く緊張してるから何を言い出すかと思えば。ふふ。もちろんいいわよ。」

「え? 本当ですか?」

「うん。その代わりちゃんとお手伝いもするのよ?」

「はい!」

 満面の笑みで元気に返事をすると、母さんは満足そうに微笑みながら作業に戻る


「それじゃあ早速花壇のお手入れを手伝って? 早く終わらせて魔法のレッスンしなきゃね。」

 頷きながら母さんの隣にしゃがんで手伝っていく


「そういえば、何であんなに緊張していたの?」

「……魔法の練習を隠れてやっていたのがバレて怒られると思ったからです」

 だって怒った母さん怖いんだもん とは言えずに正直に答えると

「ぷ……あはは。怒らないわよー。それにあなたが魔法の練習をしていたことはとっくに知っていましたから」

 笑いながらビックリすることを言い出した

「え?! なんで?! いつから? というかどうやって?!」

 魔法の練習をする時は自室か人のいない時を見計らってやっていた。絶対バレてないと思ってたのに。

「あら。こう見えて私も魔法は得意なのよ?」

 いや知ってるけど

「覚えてるか解らないけど、あなたがハイハイを初めた頃かしらね。目を離すとすぐどこかに行っちゃうの。だからあなたがどこにいても解るように風に聞いていたのよ。風の揺らぎを感じて……風魔法の一種ね。あなたにも教えてあげるわ。」

 笑いながら衝撃の事実を言い放った。確かにどこからともなく現れて抱き上げられていたが、まさかそんな魔法を使っていたとは


「昔ね。お友達に教えてもらったのよ。っと。お手入れおしまい。さ、手を洗ってお茶にしましょう。レッスンはそれからね」

 母さんは立ち上がると手を振りながらお茶の準備をしに厨房に向かって行った。


「……風魔法を教える友達って……まさか……」

 目を落とすと指先でエメラルドの指輪がキラリと光った気がした。

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