第13話 番外編 天界での一幕


「あらあら。白狼を手懐けてしまったわ。」

女神の一人ノアは下界を覗きながら楽しそうに笑っていた。

「転生させたから気になっていたけれど、ヒトは成長が早いけど別格ね。『あの子』も成長してるみたいだし」

まるで自分の子供の成長を喜ぶように顔を綻ばせている。

「本当だったらもっと近くで見守りたいんだけど……」

そう言って周りを見渡したノアはハァ……とため息をつく。


「どうしたんじゃ? ノアや? ため息なんぞついて。」

「主様? いえ。何でもありません。失礼致しました。……ところでいつから私の後ろに?」

いきなり後ろから声をかけられビックリしたものの、努めて冷静な声で主神の様子を伺う。

「ついさっきからじゃよ。珍しくおぬしが気を緩めていたからのう。その尻を見ていたんじゃて。」

 カッカッカと笑う主神にノアの周りの温度が下がった気がした。

 さっきまで周りにいた天使達は不穏な空気を察したのか一斉に目線を逸らしている

「主様? 死者の天国入りリストへのサインは終わっているのですか? 終わっていますよね? 私のお尻を見ている暇があるんですものね?」

「あの……いや……まだなんじゃが……ヒッ」

 テラの顔は笑顔を崩していないが明らかに青筋が浮かんでいるし何より目が笑っていない。


 主神が助けを求めるように周りを見回しても

「さー書類を整理しないとー。なぁこれってどこの部だっけー?」

「あー忙しいなー。それはあれだ、教会伝達部のだろー」

 白々しく忙しそうにしながらササーっと天使達が一斉に引けていく。


「お、おぬしら……仮にもわしはしゅ「主様?」はいっ!」

 人望のない主神である。


「まったく。早めに終わらせないと門番達が困るんですよ? あの行列を見てくださいよ。」

「面目ない」

「仕方ありません私もお手伝いしま「せんぱぁぁぁいぃぃ」す……ぅん?」

 振り向くと小さな女神が泣きながら走ってくる


「レミル? なんですか慌てて。」

「せんぱぁい! 大変なんですぅ! ちょっと目を離したら担当してる星の人たちが戦争してるんですぅ」

「戦争? あの星は文明格差もなくそうそう争いが起きないから新人教育用の星なのですが……?」

 ノアが首を傾げていると

「それがぁ……日照りで作物が取れなくてぇ。食料をめぐって争っているみたいなんですぅ。助けてくださぁい!」

「は? 日照り? ……まさかあなた……」

 またもみるみる周りの温度が下がっていく錯覚に、今度こそ天使達は一人残らず見えなくなってしまった。


「ちょっと目を離して主様と日向ぼっこしながらお菓子を食べていただけなんですぅ。」

 ねー? そうじゃなー えへへー ほっほっほ とのたまう二人にとうとうノアは堪忍袋の緒が切れたようだ。


「そうですか。わかりました。……あなた達はほんっっっとうにどうしようもないですね! 少し頭を冷やして私の苦労を味わったらいかがですか!!」

 驚くほどの大音声に主神とレミルは飛び上がったあとに小さくなってしまった。

「あの……ノアや。どこに行くんじゃ……?」

 荷物を纏めているノアに主神が恐る恐る問いかけると


「決まっています! リヒト君のところです! 前から近くで見守りたいと思っていましたし、いい機会です!」

「え……ちょ……待っ……ヒトに神族が直接干渉するのは禁止しているのじゃが……」

「知りません!」


 バサっと羽を広げて飛んでいったノアの後ろでは

「ノア~」「せんぱぁい」

 主神と新人女神の情けない声と天使達のため息が響いていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る